第18話 万能感 2




 回復後の僕たちは更にチカラを手に入れていた。動きがもう一段良くなったのだ。僕は確信した。魔物石を体内に取り込めばそのチカラを手にすることができると!


 僕とマルはすぐさま森へ向かった。門兵は心配そうにしていたが、僕たちは強い何も問題がなかった。


 森に入って最初に見つけた魔物はランラブルブという4足歩行の魔物だ。頭には2本の枝分かれした角が生えており、獲物を突き刺して、木にに打ち付ける攻撃を得意としている。攻撃的な性格で、獲物を見つければ、先手必勝とばかりに突撃してくる。


 マルの気配探知で目標を見つけてから、遠目で観察していたのだが、僕たちの気配に気づいたランラブルブは、躊躇いなく突撃を開始していた。


 森の障害物を苦も無くすり抜け、ものすごい速さ迫って来る。スピードの乗った巨体のプレッシャーは飲まれると身をすくめてしまいそうになる。


 僕はしっかりとその動きを捉え、ランラブルブの突進を回避した。


 ランラブルブの角は大木の幹を打ち抜き、遅れてくる頭突きで大木をへし折ってしまった。呆れるほどの威力だ。


 大木を破壊したランラブルブは角に残った木片を振り払うように頭を振り、〈ブルルルルル〉と嘶(いなな)いた。


 だが、その隙は僕とマルの前でするのは致命的だ。マルの触手はランラブルブの前足を捉えた。

 ランラブルブは膝をつき態勢を崩した。自然と前傾姿勢となり頭の位置が下がる。


 僕は処刑人のようにその晒された太い首を断ち切った。


 落ちた首は呆然と僕を眺め、ふっと瞳の光を失った。Cランクの魔物があっけなくその命を散らした。


 ランラブルブの攻撃を一度でも受ければ死んでしまうという状況だったのにも関わらず、僕の中には絶対的な自信と万能感があった。だから、恐怖で身をすくめることもなく、最善の回避と、最善の攻撃を行う事ができた。


 戦闘を娯楽のように楽しんでいる。それが今の僕だ。魔物を狩り、また魔物石で強くなれると期待に口角が上がっていた。



 僕たちは、この森でも強者の部類に入るチカラを手に入れたのだ。嬉しくないわけがない。


 ランラブルブを干物にして持ち帰り、門兵とハントギルドでの驚愕する反応を楽しんだ。あぁ、楽しくなってきた。ランラブルブの魔物石に魔力を流し、そのチカラを手に入れる。


 何度も熱にうなされて、死にそうな苦痛が襲い掛かってくるが、チカラが手に入ると思うといくらでも耐えることができた。


 それに、乗り越えた後の万能感は、まるで世界を手にしたように爽快なものだった。


 僕は来る日も来る日も森に突入して、魔物を狩って、狩って、狩りまくった。魔物の位置はマルの気配探知で簡単に見つけることができる。もう、森に恐怖を感じる事はない。森の中を魔物目掛けて一直線に駆け抜け、すれ違いざまに命を刈り取る。そして、また魔物を見つけて駆けだし討伐する。


 最初は、倒すたびに魔物を持ち帰っていたのだが、それも億劫になり、魔物石だけを取り出して、遺体は放置するようになった。ただ効率を重視して倒して、魔物石を回収して、そのチカラを手に入れる。狂気の沙汰だった。


 長期休みに終わりが近づく頃には、ハントギルドや門兵の心配は違うものに変化していた。


「おい、スライ!今日も森に行くつもりか」


「そうだよ、もう休みも少ないんだこのチャンスは今しかない」


「そうは言ってもなぁ、なんだ、危なっかしくて見ていられねぇんだよ」


「危ない?僕の強さはもう知っているだろう?僕なら大丈夫だ」


「あぁ、お前が強いのは知っている。でもそういう意味じゃねぇんだよ」


「意味が分からない。心配しなくてもあと数日で僕は中央に帰る。なんの問題もないだろう?行くぞ、マル」


「っクソ!馬鹿野郎が。お前は何に憑りつかれてやがるんだ」



 僕は勝手知ったる我が家の如く、森の中を闊歩する。森の中は魔物が狩りつくされたのか以前に比べて静かだ。ところどころにある果実を楽しみながら、散歩する。いつの間にか足場の悪さも気にならなくなった。


 魔物も森の奥へ住処を移したのか、マルの気配探知でも見つけることができない。僕はやれやれそろそろ潮時かと考えていた。


 魔物を倒す度に吸収していた魔物石だが、取り込んでも熱にうなされる事はなくなった。その反面チカラが増す事もなくなってしまった。もう完全にここいらの魔物のチカラを上回ってしまったせいだろう。今ではゴブゥー程度ならマルだけでも倒す事ができるし、僕も角ウサギを刈り取るのと違いなく簡単に倒す事ができる。


 今ではなぜみんながここまで森を恐れるのか不思議に思うぐらいだ。


 まぁ、理由ぐらいは知っているのだが。僕とマルが特殊なのだ、敵の位置はわかるし、僕自身が魔物を倒す事ができる。このふたつが大きい。


 大体の人は、魔物を見つけることができず、初日の僕のように緊張にやられてしまうし、いくら強い眷属をパートナーに持っていても召喚士(サモナー)自身は弱いままだ。魔物と相対すると分かるのだが、魔物は積極的に召喚士(サモナー)の方を狙ってくる。


 1対1の勝負なら良いが、もし魔物が複数同時に現れた時、全ての魔物を眷属が抑える事は難しい。魔物が複数いるそれだけで、召喚士(サモナー)は死のリスクが高まる。それがランクDの魔物であったとしてもだ。


 なら、「眷属だけ森の中へ突入させればいいじゃないか?」っと思う事もあるだろう。しかし、もし傷を負った時回復する手段がない。リスクは極めて高いのだ。


 結論を言うと、森と召喚士(サモナー)の相性は最悪に悪い。だから防壁町の門兵は森へ入る事はない。召喚士(サモナー)は防壁の安全なところに陣取り、指示を出して眷属に戦ってもらう。戦闘が終了すれば魔力を渡して回復する。それが賢く、安全で、有用な戦闘方法なのだ。



 もう、獲物は見込めないなと思い、中央に帰る算段をつける。もう町に戻ってゆっくりするのも良いだろう。それで明日、中央行きの魔車に乗ろう。


 そうして、道を引き返している時に、僕は久しぶりに恐怖を感じる事になった――――。


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