第30話 お肉が食べたいの5

 土器作りのスランプに突入したマナブは、村の中で見つけた土器職人の女の子に声をかけた。


「あなたの使った粘土を見せて欲しい」


 僕はお安い御用だと、魔法で粘土を作り出して手渡した。女の子は手の中で捏ねて感触を確かめてる。


「うん、この粘土で土器は作れる。でもこのままだとダメ。もう少し練って中の空気と水分を抜かないと......見てて」


 女の子は粘土を作業台の上に置いて、両手で包み込み作業台の上で押して転がして押して転がしてを繰り返して練っていく。


「これを根気強く繰り返して、粘土の中の空気を抜く。抜いたやつがコレ」


 女の子は自分の粘土を取り出して僕に手渡してくれた。ふむふむと感触を確かめて空気を抜くというイメージをマッドに追加して、もう一度粘土を作り出した。


「こんな感じでどうかな?」

「......ん。すごい良い感じの粘土だけど」

「だけど......?」

「なんか......その魔法ずるい」


 女の子は納得がいかないという顔で僕をみる。目は前髪で隠れて見えないが少し頬が膨らんでる様子がリスみたいで可愛い。

 もっと魔法自慢をしたくなる素晴らしい逸材だ。


「それでそれからどうしたらいいの?」

「大きなものを作る時は土台を作って、その上に紐状に伸ばした粘土をこうやって重ねながら形成する。粘土の厚みが同じじゃないとヒビが入るから気をつけて」


 女の子は手慣れた手つきで土器の形を作り始めた。それはまるで3Dプリンターで作成するように下から順番に出来上がっていく。

 その様子が面白くてじっと観察していると、いつの間にか壺が姿を現した。


「ん......こんな感じ」


 僕は「おぉー」っと拍手して称賛する。女の子はまんざらでもない様子で照れた。


「これで1週間から1ヶ月ぐらい乾燥させる」

「そんなに?」

「うん、すぐに火で焼くと割れる。時間をかけて乾燥させると土器が縮むから、その時が焼き時」

(待つ時間がもどかしいな、多分粘土に含まれる水分が急に熱せられると沸騰したように中で小さな爆発がおきてヒビが入るのかも? 焼く前の乾燥が大事なんだ)

「あと、厚みの違うとこがあると乾燥した時にひびが入る事がある。その時はひびを埋めて直せるし、乾燥すると固くなるから燃やす場所まで運べるようになる」


 なるほど、壺ほど大きなものになると手に抱えるだけでも形が崩れる事もあるのか。


 僕は出来上がったばかりの壺にドライの魔法をかけた。


「こんな感じでどう?」

「なにしたの?!」


 壺が急に乾燥して硬くなり驚く女の子。


 っくっくっくいい反応をしてくれるこれはやめられないな。


「うん......これならもう燃やしても大丈夫。それにある程度乾燥してたら削って模様をつけたり形を整えることもできる」


 女の子が道具を取り出して壺の表面をなぞって模様を刻む。


「......こんな感じ、焼くのはまとめて焼く。土器を一か所に集めて薪を下敷きにして土器の上に藁を乗せる。その上から泥を被せて閉じ込めて火をつける。朝に火をつけて一日中燃やす。今燃やしてるのがあそこ」

「そんなに長い時間燃やすの?」

「そうじゃないと焼き上がらない。私はあのまま1日おいてあの中でゆっくりと温度が下がるのを待つ。取り出すのは明後日」

「なるほど、大変だ」

「あなたはどうやって焼いてるの?」


 ふふ、尋ねられてしまっては仕方がないな。壺を受け取り実演しようではないか。


「ファイア、クリエイト」


 壺に向けてお得意のファイアとクリエイトをかける。こうするとなんだかいい感じに時短できるのだ。

 焼き上がった壺を見て女の子は絶句。わなわなと震えながらこちらを向く。


「......あなたの魔法は土器を作る魔法なの?」

「ちがうよ?」


 ......違うよ? 違うよね? 魚だって獲れるもん。あれ? 僕の魔法ってもしかして生活魔法というヤツなのでは。


 生活魔法は物語では初歩の魔法で誰でも扱える生活に使えるレベルの基礎魔法という分類だ。


 ......ちがうもん全魔法は生活魔法じゃないもん。


 僕が思考力を放棄してると、女の子からグー~っとお腹のなる音が聞こえた。

 女の子は恥ずかしそうにお腹を押さえて顔を赤らめている。


「もしかしてお腹空いたの?」

「......この時期はしょうがないの、畑の収穫前だと土器を交換してくれる人もいないし、お母さんも食べるの我慢してる」

(そうか、必ずしも自分で作る必要はなかったんだ)

「ねぇ、お願いしたら君の土器と交換もしてくれるの?」

「......うん」

「ちょっと待ってて」


 僕は小走りでマナブハウスへ向かう、そこには夕食用にとってある焼魚がある。

 今日は夕食にお肉もあるから魚は要らないだろう。


「どこに行ってた? もうご飯は出来上がったぞ」


 僕を待ち構えていたのか、ユイファが口を尖らせて咎めてきた。


「ユイファ、お肉って他の人に少し渡せる分あるかな?」

「? あるぞどうした?」


 僕はさっきまでの事を説明した。


「その人はカリカナだろうな、そうか少し待て私も一緒に行く」

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