第12話 マナブハウス3



 備え付けた階段を上がり地上に出る。


 入り口の部分だけ開けてあるので外から中を覗き込むと視界は壁で覆われている。


 一度は失敗してしまったが気を取り直して地下に向かって魔法を唱える。ここからなら自身に熱が届くことはないだろう。


「ファイア」


 僕の手のひらから勢いよく火が噴き出す。ブオ――――! と僕的には豪快なのだが飛距離は30㎝ほどで全然下まで届かない。

 相対的に魔法がショボく見える現象が起きている。


 しかし、問題ない。こう見えて僕は器用な男だ。少し考えればすぐに答えは導き出せる。

 サンドとウォーターでクレイの魔法が使用可能になった。


 つまり、火力をあげるために【ウィンド】の魔法を重ねれば良い!

 僕はいずれ賢者になる男こんな簡単な問題などチョチョイのチョイでクリアできて当たり前なんだよ。


「ウィンド!」


 右手で発動しているファイアに左手を添えてウィンドを唱えると左手からブワと強風が吹く。

 ウィンドとの相乗効果でファイアの飛距離が50㎝にまで伸びた! そしてウィンドの発動時間3秒が経過して魔法が収束する。

 ファイアの飛距離が30㎝に戻った事を確認してファイアの使用を中止した。


「ウィンド」


 魔法の発動と共に強風がブワっと吹く。手の向きを変えて自分に向けてみる。

 強風が体を吹き抜けていき重労働をした体を心地よく冷まして気持ちが良い。3秒があっという間に過ぎていく。


 僕は思った。


 この風力、ホームセンターにある業務用扇風機だと。


 僕はゆっくり腰を下ろして得意の体育座りをして地下に向かってウィンドを唱える、唱える、唱える......。


 そうこうしているとウィンドウが開いた。


『ウィンドの熟練度が上がりました』


「ふふ、ウィンドを唱えてたらウィンドウが開いた。ふふ」


 焼き固めるのが無理ならせめて地下を乾燥させようと風を当て続けていた僕は疲れもあって変なテンションになってニタニタ笑っていた。


「マナブ! すごいな! これは!?」


 気がつくとユイファが背後に立ち、僕の頭に手を置き地下を見下ろしているようだった。


 急なスキンシップにドキッとする。


「なぁ下に降りてみていいか?」

「ダメだよ。いま風を送って乾燥させてるんだ」

「ん? 魔法を使っているのか?」

「そうだよ、風の魔法。本当は火の魔法で焼き固めたいんだけどね」


 僕は肩をすくませて気取った困ったポーズをした。

 ユイファに『すごい』って言われてすごく嬉しい。


「ふむ? 炎で焼いていいのか?」

「そうだね。火で炙って焼き固めたら完成なんだ」

「そうなんだな? 私の魔法で燃やしてみるか?」

「いやいや、いくらユイファが火の魔法使いだとしても無理だと思うよ」


 なんたって魔法のチートスキル持ちである僕が試して無理だったんだ。

 魔法を使える身として何とかなりそうな気がするのは分かるが、こんな小さな村の女の子がどうこうできるレベルを超えている。

 実際に試した僕だからこそ断言できる。


「マナブが良いなら試してみたいのだが」


 やれやれ、これは実際にやってみて諦めてもらった方が早そうだなっと子供を見る目でユイファに場所を譲った。


「マナブそこにいると危ないからこっちに来てくれ」


 ユイファは僕の座っていた場所に立つのかと思ったら壁側の方に歩いて行ったのでその後に従う。僕が首を傾げているとユイファは魔法を唱えた。


「ファイアーボール」


 ユイファの目の前には両手で抱えるほどの火の球が出現した。


 不思議と熱さはないが突然の現象に驚き反射的に後ろに下がってしまう。


「MP切れるまでやってみるよ」


 ユイファはそう言うとファイアーボールを吹き抜けの天井部分からマナブハウスの中へと落とした。


 地下に着弾すると同時に天井部分を抜けて胸のあたりまで火柱が立ち上る。

 ブワっと熱気が届いて壁からさらに距離をとった。


 さっきまで座っていた入り口のところからも炎がメラメラと飛び出している。

 確かにあそこに立っていたら危なかったな。


 ユイファが魔法を維持しているおかげか炎は消えることなく中を30秒ほど高温で熱し続けた。


「はぁ、MP切れどうだ?」


 開いた口が塞がらないとはこの事だ。僕のファイアとはレベルが違う。


 熱されたおかげで外壁の色が赤褐色のレンガ色に変わっていた。


 近づくとまだ熱を持っているので迂闊に触れば火傷してしまうだろう。石でコンコンと叩いてみると硬質な音が返ってくる。


「問題ない焼結できてるみたいだ」

「しょうけつ? つまり上手くいったのか?」

「うん」

「そうか! なら手伝ったから中に入ってもいいか?!」

「いやいや! 待って待って中は熱いから冷めてからにしよう」

「むう」


 ユイファが早く冷めるように手を扇いで風を送っているけど効果は期待できないだろう。

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