【KAC20241】アルデンテ

雪月

【KAC20241】アルデンテ

私達には三分以内にやらなければならないことがあった。


「開いたぞ!!」

「構えろー!」


暗く固く閉ざされた世界に光が差すやいなや、滝のように水が降り注ぐ。

ただの水ではない。

熱く煮えたぎる濁流だ。


「……91℃!」

「……沸かしたてじゃないのか」


カップの報告を聞いて、粉末スープはお湯が沸騰してないことに文句をつけていた。

今度の主は猫舌なのかもしれない。


お湯がカップに注がれて、またすぐに蓋が閉じられた。

これから私達は食べ頃になるべくお湯を吸っていく。


「あぁ!!?」

「どうした!卵君!」

「評線までお湯が足りてなくて、謎肉さんがお湯につかれていません!」


卵の悲鳴にカップが反応する。

どうやらお湯が少なかったらしい。


「麺さん!はやくふやけてください!謎肉さんがこのままでは!」

「無茶言わないでよねー。決まった時間で柔らかくなるようになってるんだからー」

「それはそうかもしれませんが……そこをなんとか!」

「むーりー」


マイペースな麺を当てにするのを諦め、カップは具材達に状況を確認する。


「エビさん、ネギさんはどうですか?お湯には」

「問題ないっシュ」

「平気だ」


どうやらお湯につかれていないのは謎肉だけらしい。


「謎肉さん?」

「ナっゾぉおおお!」


そして謎肉は相変わらず話が通じなかった。


「なんとか対流で押せないか頑張ってみます!」

「卵さん、お願いします!」


真面目な卵が動かせないか試みるがふわふわな上、お湯が少なくそもそもたいして動けていなかった。

このままでは、お湯の吸い具合にムラが出来てしまう……。

三分で完璧に食べ頃になるというカップ麺としての使命が果たせない。


さらに無情なことが起きた。

蓋が開かれたのだ。


「そんな……まだ三分までは40秒も……」


三分という絶対の時間。

それを裏切り遥かはやくに訪れた解放。


そしてカップと中身達は主の鼻歌交じりの愉快そうな一言を聞いた。


「ん~♪わたしの好みは~固め固めのア・ル・デ・ン・テ!」



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【KAC20241】アルデンテ 雪月 @Yutuki4324

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