カップラーメンの妖精は男の娘

Oj

第1話 3分チャレンジ

貴方には三分以内にやらなければならないことがあった。

「可愛い子に見られながらシコシコするの、どんな気持ちですか?」

黒髪ロングの美少女に見つめられながら、貴方は自室の床に座り込んで息子を握りしめている。

早く、早くイかなければ。続きを、その先を楽しむことができない。早く早く。

焦れば焦るほど、貴方の息子はちょっと固くなったりしんなりうなだれたり。どうにもいつもの調子がでない。

黒髪ロングの白いキャミワンピの美少女は、顔にかかる長い髪を耳にかけてこちらをちらりとみる。唇をペロリと舐めながら薄っすらと蠱惑的に笑う彼女に、息子はギュンと元気になった。


この少女が貴方の部屋にいる理由。


それはつい先程、カップラーメンにお湯を注いでフタの飛び出た所を端にひっかけたところまで遡る。

カップラーメンにお湯を注いだ。そうしたら湯気とともに美少女が現れたのだ。

「おめでとうございま〜す。貴方で一億食人目です♡」

「えっ…いや、えっ?誰!?」

「僕、カップラーメンの妖精です。人間の皆様、いっぱい食べてくれて、ありがとうございます♡記念すべき一億食目を食べてくださる貴方に、お礼に来ました」

彼女は正座で頭を下げる。その所作は美しく、屈んだことにより胸元が開いて見えそうになっていた。貴方は頭を左右に振り動かしたが見えなかった。少女は顔を上げる。貴方は思う。

(ど◯狐…!)

しかし少女の頭に狐の耳はない。そして食べていたのもど◯兵衛ではない。

「で、お礼なんですけど。カップラーメンができるまでに出せたら僕と一発ヤれるんですけど、やります?」

少女は首を傾げる。長い黒髪がサラサラと傾けた側にこぼれた。彼女は一体何を言っているのだろうか。

「出すっ、て…何を?」

少女は笑みを深めて小さな声で囁いた。放送禁止用語だ。なんと言ったのかはご想像にお任せするとして、およそ美少女の口から出ていい単語ではない。

少女はとんでもない美少女だった。黒目がちな瞳も、艷やかな唇も、通った鼻筋も。白いワンピースが清純さを引き立てている。そこらでお見かけするような女性ではない。少なくとも貴方の生活圏内ではメディアの中にくらいでしかお見かけしない。かなり高レベルの美少女だ。

「あ、嫌なら大丈夫ですよ。僕、帰りますから」

そして僕っ子。貴方は狂おしいほど僕っ子が好きだった。

「やりまぁあす!」

貴方はクソデカボイスで叫んだ。片手を上げて、前のめりで。

少女は笑って頷く。

「わかりました。じゃ、カップラーメンができるまでなので、あと2分くらいですかね?頑張って下さ〜い♡」


そして冒頭に戻る。

中々息子がいつものようにシャッキリしない。

最初はちょっと戸惑ったものの、時間がないですよ〜と煽られてポロリと息子を取り出して握った。そしてそれから息子は美少女に見つめられるという異常事態に萎縮しきっている。

「あんまり元気がないですね。僕じゃ、駄目でした?」

「いや、そんな!むしろ君はめちゃくちゃ好みだから、緊張して…あの、こう、サービスとか、してくれないかな。そしたら頑張れると思うんだ。お礼だもんね?これ。こう、スカートをめくってくれる、とかさ。ちょっと、お胸を見せてくれる、とかさぁ!」

「なんで僕がそんなことしないといけないんですか?」

「え?だって、お礼…」

「手が止まってますよ?」

「す、すみません」

「頑張れ、頑張れ♡」

少女は微笑む。まさに塩対応。貴方は息子同様しょうぼりうなだれる。こんな美少女を前に、なぜこんなに元気がないのか。

貴方は気づく。

今朝、ぶっぱなした。

休日の目覚めに気をよくした息子と戯れた。楽しかった。充実した時間を過ごした。あれは無駄打ちだった。

打ちひしがれる貴方に無情な声がかかる。

「残り一分切りましたよー」

「はぁっ!待って!?つかさ、時間短くない!?そもそも説明も時間に含めるのずるくない!?なんで説明から3分じゃないの!?」

「ちゃんと美味しい状態でカップラーメンを召し上がっていただきたいので」

「うーん、カップラーメンの妖精ぃ…違うんだ、これは違うんだよ、いつもならもっと元気だし!もう、もう出るから、出るからぁ!」

「無駄口やめましょうか」

「んっ…」

しょぼくれていた息子がむくっと頭を上げる。

少女は時々ぴしゃりと諌めてくる。これはお礼ではなかったのか。冷たくつれない。

そんな態度の美少女に息子が興味を示し始めた。ぴしゃりと冷たい美少女。ちょっと癖になり始めている。

「残り30秒〜口でしましょうか?」

「まじで!?」

「嘘です」

「んふんっ♡いいよ、それ…もっと、こう、ゴミとか、クズとか!俺に、言ってほしい!」

「ゴミ?クズ?なんでですか?」

「なんか、イけそうな気がするから…」

「ゴミにわざわざゴミって言わなくないですか?」

「んんん♡それそれぇ♡」

貴方は駆け上がる。絶頂まではすぐそこ、息子は胸を張っている。あと少し、もう少し。

その時、電子音が部屋に響いた。聞いたことのない電子音に貴方はびくんと体を震わせる。少女は背後から時計を取り出した。

「はーい、お時間で〜す。カップラーメン出来上がりましたよ♡」

少女はカップラーメンを差し出してくれた。貴方は手を止める。息子は発射寸前で終わってしまった。

「え…あの…」

「一番美味しい状態ですよ。さぁ、召し上がれ♡」

「延長は?」

「ないです。伸びますからさっさと食べてください」

「ん♡それ♡」

貴方はぴくんと反応してしまう。さくっと塩対応がたまらない。

箸を渡されてカップラーメンの蓋を剥がされて、貴方は仕方なくラーメンをすすった。息子剥き出しのままで。

「…美味しいですか?」

「え、うん…」

カップラーメンはいつもの、贔屓にしているものだ。良くも悪くもいつも通りの味だ。そのはずだった。

少女は幸せそうに笑った。さっきの蠱惑的な笑顔と比べものにならないほど清らかで尊い笑顔だ。

美少女を目の前にして、味が3割増になっている気がする。こんなに清らかな少女の前で一体何をしていたのか。貴方は恥ずかしくなった。やれと言ったのは彼女だが。

貴方は一度、箸を置く。

「あのさ…これ食べ終わったら、君はいなくなってしまうのかな」

「いえ?好きな時に現れて好きな時にいなくなりますけど。妖精なので」

「そうなの?なにそれ、妖精ってそんな能力あんの?」

なんとなく、チャレンジ失敗と同時に妖精さんは消えてしまうと思っていた。そんなことはないらしく、しかも好きな時に出現できるらしい。貴方はゴクリと唾を飲む。告白なんて小学生以来だ。

「また、俺と…3分チャレンジ、してくれるかな」

「いいですよ」

さくっとOKが出た。

「いいの!?じゃあ、チャレンジ成功して、そういうことして…ゆくゆくは、け、結婚、とか…妖精さん、人間の…俺の、赤ちゃん、うっ、産んじゃうのかなぁ!?」

「僕、男なんですけど」

少女、もとい、少年は首を傾げた。彼女は女性ではなく男性だったらしい。

びゅるるるるっ!

「え…なんで、今?」

彼は目を丸くした。貴方の息子が暴発したからだ。いや、暴走はしたが、発射については未必の故意といって良い。

貴方は僕っ子が好きだ。しかし、男の娘はもっと好きだった。

貴方は叫んだ。

「より、良いです!!!」

レッツ3分チャレンジ、リベンジ。




END

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