Girldream~Eカップのシンデレラ~
一ノ瀬 彩音
第1話 私と競輪①
その日、私はある場所に来ていた。
その場所は、競輪場。
ガールズケイリンという競技が行われる場所だ。
私の家は、自転車屋さんを営んでいる。
お父さんが自転車好きで、その影響もあって、私も小さい頃から自転車が好きだった。
だから、いつか自分も競輪選手になって、レースに出てみたいと思っていたのだ。
今日は、その夢を叶えるために、この場所に来たのだった。
そして、受付を済ませて、いよいよスタート地点に立つ。
そうすると、そこにはたくさんの女の子たちがいた。
みんな、私と同じくらいの年齢の子ばかりだ。
この子たちも私と同じように、この場所に夢を求めてやって来たのだろうか?
それとも、ただ単に興味本位で来ただけなのだろうか?
私にはわからないけれど、一つだけ言えることがあるとすれば、彼女たちも本気で勝ちたいと思っているということだ。
そうでなければ、こんな場所に来るはずがないのだから……。
そう思いながら、レースが始まった。
最初は様子見という感じで、あまり無理せずに走ることにする。
そうすると、後ろからものすごい勢いで追い上げてくる子が現れた。
あっという間に追いつかれてしまい、抜かれそうになる。
だが、ギリギリのところで踏ん張り、なんとか逃げ切ることができた。
(やった! 勝てた!)
心の中でガッツポーズをする。
それから、何度かレースに出場したものの、なかなか勝つことができなかった。
やはり、そう簡単に勝てるものではないらしい。
それでも、少しずつではあるが、着実に実力をつけてきている実感はあった。
このまま頑張れば、きっと優勝できるはずだと信じていた。
そんなある日のことだった。
いつものように、競輪場に行くと、一人の女の子がいた。
彼女は、とても可愛らしい顔立ちをしていた。
年齢は、おそらく同じくらいだろうと思う。
しかし、彼女の格好はとてもラフなもので、まるで男の子のようだった。
しかも、かなり小柄だ。
身長は150cmあるかないかといったところだろうか?
どう見ても、まだ小学生にしか見えないのだが、本当に高校生なのだろうか?
そんな疑問を抱きつつ、彼女に声をかけることにした。
「あのぉ、もしかして、あなたも競輪場に興味があって、ここに来たんですか?」
そうすると、その子は答えた。
「……そうだけど」
ぶっきらぼうな感じだったが、一応返事はしてくれたので、少し安心する。
もしかしたら、友達になれるかもしれないと思ったからだ。
そこで、思い切って話しかけてみることにする。
「実は、私もなんですよ!」
そう言って、笑顔を見せる。
すると、彼女も微笑んでくれた。
どうやら、悪い人ではないようだ。
それがわかって、ホッとする。
その後、しばらく話をした後で、私たちは別れた。
別れ際に、また会う約束をして、その日は帰ったのだった。
次の日、私は再び競輪場を訪れた。
昨日と同じ時間に行くと、すでに彼女が待っていた。
お互いに自己紹介をして、握手をする。
こうして、私たちの友情は始まったのである。
それからというもの、毎日のように競輪場に通い、一緒に練習するようになった。
彼女との練習は本当に楽しかったし、何より、彼女と一緒にいるだけで、幸せな気分になれた。
ある日のこと、いつものように競輪場に行くと、彼女が話しかけてきた。
「ねえ、ちょっといいかな?」
なんだろうと思って、聞き返すと、意外な答えが返ってきた。
「あのね、私、今度、ガールズケイリンに出場することになったんだ……」
それを聞いて、驚きのあまり声が出なかった。
まさか、自分と同じタイミングで出場することになるとは思っていなかったからだ。
しかも、相手は全国トップクラスの選手である。
勝ち目はないと思われたが、それでも精一杯頑張るしかないと思い、二人でトレーニングを続けた。
その結果、徐々に力をつけていき、少しずつ成績を上げることができるようになった。
だが、まだまだ上には上がいるということを思い知らされる出来事が起こる。
ある日、競輪場に行くと、彼女が他の選手と話をしている姿を見つけた。
相手は、私よりもさらに大きい体格の選手で、とても強そうな印象を受けた。
彼女はその選手に向かって、こう言ったのだ。
「あの、お願いします。私と勝負してください!」
突然の言葉に、私は驚いた。
まさか、彼女がそんな大胆な行動に出るとは思っていなかったからだ。
しかし、その選手は快く承諾してくれた。
そして、レースが始まる。
結果は、予想通り、彼女の惨敗だった。
ただ、私が思ったことは、彼女の強さである。
たった1レースだけとはいえ、全国トップクラスの選手を相手に互角の戦いをしたのだから。
私は、彼女のことをじっと見つめていた。
彼女は、悔しそうな顔をしているものの、どこか吹っ切れたような清々しい表情をしているように見えた。
きっと、彼女の中で何かが変わったのだろうと思う。
そんな彼女の姿を見て、私も勇気をもらったような気がしたのだった。
それからというもの、私たちは二人で練習を重ねていった。
何度も挫けそうになりながらも、決して諦めることなく、頑張り続けたのである。
その結果、少しずつだが成績を上げることができた。
順位はまだ下位の方だけれど、それでも確実に成長していると実感できた。
そんなある日のことだった。
私はいつものように競輪場に向かっていると、そこには見覚えのある後ろ姿があった。
それは、紛れもなく、あの子の姿だった。
声をかけようと思ったとき、あることに気づく。
なんと、隣にもう一人いるのだ。
それも、かなり美人な女の子だ。
(誰だろう?)
不思議に思っていると、二人が歩き始めるのが見えたので、慌てて追いかけることにした。
そうすると、二人はホテルに入っていったのだ。
それを見て、ショックを受けると同時に、なぜかドキドキしてしまった。
どうして、こんなに動揺しているのだろう?
そう思いながら、しばらくその場にとどまっていたが、やがて意を決して中に入った。
中に入ると、ちょうど部屋を選んでいるところだったので、すかさず声をかける。
「あのぉ、よかったら、私もご一緒させてもらってもいいですか?」
自分でも何を言っているんだろうと思ったが、今さら後には引けないと思ったので、思い切って言ってみた。
そうすると、彼女は笑顔で了承してくれた。
そして、三人で泊まることになった。
部屋の中に入ると、早速自己紹介を始めることにした。
まずは私からということで、自分の名前を言う。
次に、彼女の番になったのだが、そこでとんでもない事実が発覚した。
なんと、彼女は私のクラスメイトだったのだ。
しかも、隣の席で、今まで話したこともなかった子なのである。
そんな子が、今は同じ部屋にいて、これから同じベッドで寝るかもしれないと思うと、緊張してきた。
そうすると、彼女が話しかけてくる。
「どうしたの? 具合でも悪いの?」
心配そうに顔を覗き込んでくる彼女に、私はあわてて否定した。
それから、それぞれシャワーを浴びて、就寝することになったのだが、なかなか寝付けなかった。
というのも、ベッドが一つしかないからだ。
当然といえば当然だが、まさかこんな状況になるとは思ってもみなかったので、戸惑ってしまう。
(どうしよう……一緒に寝るのはさすがにまずいよね……?)
そう思いつつも、結局断ることができず、一緒のベッドに寝ることになった。
最初は緊張して眠れなかったが、だんだんと眠くなってきた頃、不意に声をかけられた。
「ねえ、起きてる?」
そう言われて、目を開けると、目の前に彼女の顔があった。
びっくりして飛び起きようとしたけど、できなかった。
なぜなら、彼女に抱きしめられていたからだ。
心臓がバクバクする音が聞こえるのではないかというくらい、激しく鼓動していた。
だけど、不思議と嫌ではなかった。
むしろ、心地良いとさえ感じていたくらいだ。
彼女の温もりを感じながら、いつの間にか眠りに落ちていった。
翌朝、目が覚めると、隣ではまだ彼女が寝ていた。
時計を見ると、まだ朝の5時だった。
起きるには早すぎる時間なので、もう少し寝ることにしたのだが、その前にトイレに行くことにした。
部屋を出て、廊下に出ると、窓から外の景色が見えた。
薄暗い空を眺めながら、ぼんやりと考える。
(昨日のあの子は、本当に凄かったなぁ……)
私は心の中で呟いた。
確かに、彼女は小柄だし、体力もあまりなさそうだったから、不利だと思っていた。
実際、最初のレースこそ勝ったものの、その後は連敗続きで、すっかり自信をなくしてしまったようだった。
そんな彼女を救ったのは、やはり親友である私の言葉だったと思う。
だから、彼女が勝てたことが自分のことのように嬉しかったし、とても誇らしい気持ちになった。
それと同時に、自分も負けていられないという気持ちにもなった。
そこで、決意を新たにしたのだ。
そんなことを考えているうちに、だんだん尿意が強くなってきたため、急いでトイレに向かうことにした。
幸いにも、すぐ近くにあったので助かったと思いながら駆け込むと、
先客がいたようで中から水の流れる音が聞こえてきた。
どうやら、誰かが入っているらしいことがわかったので、待つことにする。
しかし、なかなか出てこないことに苛立ちを感じ始めたところで、
ようやくドアが開いたかと思うと、中から女の子が姿を現した。
一瞬、誰だかわからないくらい幼い顔付きをしていたけれど、よく見ると間違いなく彼女だとわかった。
そして、向こうもまた私のことを認識したらしく、驚いたように目を見開いていた。
お互い無言のまま見つめ合っていたが、先に沈黙を破ったのは私のほうだった。
このまま黙っていても仕方ないと思い、思い切って話しかけてみることにする。
「えっと、おはようございます」
と挨拶すると、彼女も返してきた。
「お、おはよう……」
ぎこちない感じではあったが、一応返事はしてくれたようだ。
その後、お互いに黙り込んでしまったが、このままではいけないと思い、話を続けることにした。
「あの、昨日は本当にすごかったですね! 感動しましたよ!」
そう言って褒めると、彼女は照れたように顔を背けた。
その様子を見て、可愛いところもあるんだなと思った瞬間、ふと我に返る。
(あれ? なんで私、この子のことばっかり考えてるんだろう?)
そんな疑問を抱くものの、答えは出なかった。
まあ、いいかと思い直し、別の話題を振ることにする。
その後、しばらく会話をしていたが、急に彼女がこんなことを言い出した。
「あのさ、私たちって同級生だよね?」
突然そんなことを言われて戸惑ったが、とりあえず返事をすることにした。
「え? あ、はい、そうですね」
戸惑いながらも答えると、彼女は嬉しそうに微笑んだ後、こう続けた。
「良かったらさ、これからはタメ口で話さない?」
それを聞いて、ますます混乱する私だったが、それでもなんとか平静を装って言葉を返すことができた。
「……あ、うん、いいよ」
そう答えると、彼女はさらに嬉しそうな顔になった。
その表情を見ていると、なんだかこっちまで幸せな気分になってくるような気がする。
そして、気がつくと、自然と笑顔になっていたのだった。
そんなやり取りをしている内に、いつのまにか時間が過ぎてしまっていたようで、
係の人に注意されてしまったので、慌てて部屋に戻ることにした。
部屋に入るなり、ベッドに潜り込み、眠りにつくことにする。
明日もまた競輪場に行こうと思うのだった。
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