聖女には三分以内にやらなければならないことがあった

ワシュウ

第1話 救国の聖女の物語

聖女には三分以内にやらなければならないことがあった……


聖女「ハァハァ…グッ!私が死んだら…ゴホッ

私の亡骸と共に埋めて下さい。このまま冷凍保存フリーズストレィジで悪魔を封印いたします」


モブ男「聖女様!!」



数年後―…

オレ様は最強の悪魔デーモン

最強悪魔だったけど聖女にたおされた!

激しい戦いの末、聖女は自分の命と引換えに俺様を封印した


と見せかけて天才悪魔のオレ様はしぶとく逃げ切ってやったぜ!

魂が輪廻の輪に入り込み、なんとか転生した先は…貧乏な家の無力な女の子。くそったれ!


平凡に暮らしてたある日

父親とか言う男爵の使いがやってきて、二束三文で母親に売られた。

大急ぎで貴族の子女として学園に放り込まれる、しかも年齢詐称。

15歳と偽って実年齢18歳だったけど、栄養不良で小柄だからまかり通った


※天性の子悪魔ぶりを発揮して学生生活を楽しむ

絶世の美女ではないけど、普通に可愛らしい顔で男子にチヤホヤされる

ほんのちょこっとだけ癒やしの魔術が使えるから聖女として学園内で有名になる

3年後に迎えた卒業式に、日本からの転生悪役令嬢にザマァ返しされる←今ここ



なんか断罪されてるときに王太子妃候補の公爵令嬢から

令嬢「乙女ゲームのヒロインぶって調子に乗るからよ!ここはゲームじゃないの現実なのよ!」

とか意味不明な説教されたけど、さっぱりわからんかった


紛れもなくここは現実だろ、頭湧いてんのか?

こちとら貧乏な男爵家のために金持ち引っ掛けるのに必死だわ!

生活費や学用品のために貢がせて何が悪い?

みんな、はした金ホイホイ簡単に出したわ!


お前のそのネックレス1つが平民の一生にかかる金の何百人分だよ


そして式に来てた王様が、男爵家の没落を宣言し、俺様の追放を言い渡たした所で

ゴリゴリムキムキの英雄登場

鍛え抜かれた肉体に金髪碧眼の超絶イケメン騎士団長が出てきた


その場で処刑かと今生の人生を諦めたら


「私のレディに触るなァァ」


魔獣の咆号のような怒声

近くにいた男子学生達は、倒れて転がり漏らして泡ふいて失神する


騎士団長がその場の支配者

誰もがその一挙一動に震え上がった


「お迎えが遅くなりました愛しの我が君」


ワガキミ??


「陛下ァ!」


「ハヒィッ!?」←陛下ようやく息継ぎする


「先日、褒美は何が良いか尋ねられましたね?

特に無いと申した後ですが―…」


騎士団長は王様に、この前の戦の報奨に男爵令嬢と結婚したいとほざいた


俺より可哀想な男爵令嬢もいたもんだ…え?


俺かよ!


ヤダよ追放してくれ!

ちょっと待って、頭が現実についていけない!


騎士団長の鍛え抜かれたムキムキの体、彫刻よりも整った美しい顔、毅然とした態度でつむがれる言葉を皆が真剣に聞いてるのに理解できてない。


「よりにもよってこのめでたい日に

よってたかって身分の低い可憐な少女を晒し者にするのがこの国の王太子とその婚約者のやり方なのですね

残念です(ゴミを見る目)

我が公爵家はアイザック殿下(王弟)につきます!

この国の未来のために!」


国内に聞こえるくらい大きな声だった(※魔法で拡散)


流石にみんな騎士団長が言ってることを理解したようだ

今になって卒業式で茶番やっちゃったー!みたいな雰囲気になる


ドラゴンを単独討伐しちゃうようなゴリラ騎士団長にギロッと睨まれ

王様「ヒッ!ハイ!」


王様あっさり頷いた

騎士団長は威圧感たっぷりに、俺の目の前まで来ると、プリンスより丁寧に跪く


「我が君、このようなウジ虫以下の下賤のボンクラども、お望みとあらば私が物理的に首にして差し上げましょう」


「え??あ、いえ?」


「そうですかお優しいことです」


キラリと優しく笑った顔がギャップあり過ぎ

バチクソイケメンすぎて胸がキュンキュンした!クソッ!

丁寧に俺をお姫様抱っこして会場を出ていく


これまた、どでかい漆黒のペガサスに跨り空へ駆け上がる


「この国の民よ、今こそ立ち上がる時ぞ!

ボンクラ王太子と強欲公爵家では国が傾く!国王も頷くほどだ!

私は聡明で心優しい由緒正しき血筋の王弟殿下につく!みなも自分たちの未来は自分で切り拓け!私がついてる」(※魔法で拡散)


その後、人類最強のゴリラが怖くて王様は息子をサクッと切り捨てた。


元々この王様自身が妾の子

なかなか妊娠しない当時の王妃が引き取って育てたけど

12年後に妊娠して待望の王子が生まれる…

その後揉めまくって、王弟がやらない宣言して引きこもって国政から離れてようやく


なんか色々と微妙な王様とその息子の色ボケ王太子

後ろ盾の公爵家が現王妃でさっきまで偉そうにしてた王太子妃候補先の馬鹿女の実家


名門サラブレッドの王弟はとても優秀だから支援者が多数いる。これはおサルさんでも知ってる国の事情。


学生生活でちょっと浮気して遊んでただけの王太子は悪評まみれで廃嫡となり島流しに

責任の追求で現王は王弟に王位を譲り蟄居する。(※王様は逃げ切れてホッとしてる)

婚約者(候補)の公爵令嬢は修道院送りにされ、公爵領で農民一揆が起こり、てんやわんや

その間に公爵家に関わる館が田舎の別荘地や王都屋敷タウンハウスを含めて

全て物理的に木っ端微塵に。

学園の取り巻き達は漏れなく行方不明になった





カラーン(※フォークが落ちる音)


「あの…公爵さま申し訳ございません」ガクガクブルブル


「ハハハ、姫に硬い肉を出したコックにお仕置きが必要かな?」


ひぃ!

ごめんなさいコックさん!あなたは微塵も悪くないよ!ちょっと手が震えてたの!


コックが飛んできて椅子の横でジャンピング土下座で懇願する

「お嬢様!お許し下さいませ!次からもっと柔らかくします!命だけは助けて下さい!!」


「許します!次はプリンで!」

言ってる俺自身も意味わからん、何がプリンだよ!


"命だけは助けて下さい"か…

前世では耳にカビがはえるほど聞いた言葉だ

あのときは笑って弱者を踏み潰してただ楽しかった

今は少しも楽しくない


拉致監禁されて3ヶ月

実家がどうなったとか王都がどうとか全然わからない


今日は3ヶ月ぶりに帰ってきたゴリラと食事

緊張で吐きそう


食事の後に、メイドにつれられて丁寧に念入りに湯浴みされ、エロいネグリジェ着せられ、寝るのに薄っすら化粧され香油を塗りたくられ

バカでかいベッドのある部屋に放り込まれた


サイドテーブルにあったアイスペールからワインを手に持って待機だ!



ガチャ



「しにさらせぇ!」


ドアに入った瞬間、ワインボトルを叩きつけた

デカすぎて頭に当たらないの!!


肩に当たって瓶が割れる

後ろでメイドや使用人が「ひっ!」と小さく悲鳴をあげる


公爵「かまわん入ってくるな!」


ドアをしめ鍵がかかる

念入りに魔法陣でロックもかかる

この国で唯一魔法が使えるスーパーゴリラ騎士団長様

300年前まではみんな魔法が使えてたのに

聖女が張った悪魔の封印が強力すぎて、国内で魔法が使えないんだとか、忌々しい!


聖なる結界のおかけで、悪魔や魔物の脅威がなくなり国民は次第に魔法を使わなくなった。

そしていつしか使い方を忘れたようだ


嘘か本当か、他国から来る魔法使いや飼いならされた魔獣も結界内に入ったら弱体化するらしい

封印を解くと終末の悪魔が蘇るから、みんな砂の上の楽園を享受してる


でもね、その悪魔もう転生してますけどぉ?

かつての悪行が黒歴史だよ!

やんちゃしてたなぁあの頃は…今は無力なメスガキですよ!



公爵が凄い睨んでくる、イケメンの真顔怖っ!

あー、こりゃ死んだわ!

最後の悪足掻きだ!無駄な抵抗だったけどな

この後ブチギレたこのゴリラに犯されて殺されるんだろうな


公爵「…私が憎いですか?

フッ…貴方のためなら私は死んでもいい

今宵の月はあの日の夜のようです…ほら

月が綺麗ですよファウスト」



ギョッ


「なぜ?」お前が知ってる?


ファウストってのは俺の前世の名前だ


公爵は、はるか高みから見下ろし

ゴミを見るような冷たい目でため息をはく


あっ詰んだ、死ぬなこりゃ

前世の業か?ふざけんな!今はか弱い女の子ぞ!



「わたしです…聖女マリーです」



聖女マリー…?(※ロリっ娘が頭に浮かんだ)


キャァァ!

本当に今度こそ魂ごと消滅させられるぅ!神様お助けぇ!


「今は、聖女じゃなくて職業が天馬聖騎士ペガサスナイトです。

カンストしたし次はビショップにでもジョブチェンジしようかな?」


「は?」声が裏返った


「驚いてますね、無事に転生できて良かったです

卒業式に迎えに行くのは予定通りでしたが…あんな事して楽しんでるとは思いませんでした。

悪趣味なのは前世から変わってませんね。あなたらしくてホッとしました」


「は?」


「弱いふりして王太子と公爵令嬢を騙して、何かするつもりだったのでしょう?

邪魔してすみません。

でもあなたが取り押さえられて、イラッときて我慢できなくなりました…せっかくの舞台を台無しにして本当に申し訳ない。

どんな計画があったか知りませんが、代わりにキッチリ没落させましたから…

ハッ!もしかして飼いならして手駒にするつもりでした?」


「いえ?全然??」


「人間は不便ですよね?特に女の子は体も弱いですから…なのでお転婆も程々にお願いしますよ

前世の時のような捨て身の戦法は、私の心臓が張り裂けそうです」


「えっと?」


「あれ?お手紙出しましたよ?家と学園の両方に。

ご挨拶に向かい、ご実家の男爵家からは了承をもらってます」


「は?手紙?」

そう言えば、なんか間違って入ってたかも?

でも騎士団長なんて接点ないし読まずに返した

男爵からの手紙は金の無心ばっかりだったから最近は読んでなかった

ってか騎士団長が直々に男爵家訪れたの?

男爵がちょっと不憫だ



それからポツリポツリと語りだしたコイツの話し


前世の聖女マリーは男爵の妾の子だった

魔力が高く、洗礼式と同時に公爵家の養女となる

そこから公爵家の家族や使用人から壮絶ないじめを受けて酷い生活を送っていた


今の俺が聞いても悲惨ないじめを受けていた


普段からゴミみたいな庭の物置小屋に押し込まれて、雪の降る寒い夜でも藁をまいて寒さに耐え

木の根や皮や雑草を食べて生き延びていた、カビが生えたパンがご馳走なんだって。

雑草やゴミをあさってお腹を壊しても

階段から突き落とされ手足が折れても

サンドバックにされ血反吐を吐いても

顔を蹴られて口を切って歯が折れても

石を投げられ目を潰されても


自己治癒で治してから、公爵家の長男の代わりに前線に放り出されて、俺達悪魔や魔物と戦っていたらしい


えぇ!?そんなボロボロになってたのに戦ってたの?

知らなかったとは言えなんか罪悪感が…ってか人類は馬鹿なの?

聖女コイツいなかったら確実に国が半分まで減ってたよ?

逆に公爵家の人間が虐めてなかったら俺達すでに死んでたな…ゾッ!


そっか!今生ではいじめる人がいないから王道に救国の英雄してるんだな。今度はちゃんとした家に生まれて良かったな


ただ、聖女マリーは活躍しすぎて今度は教会に目をつけられて保護と言う名の監禁生活に。

ポーションや傷薬や聖水を作るためにコキ使われるようになる。

虐める人間が公爵家から教会に移っただけ

男爵の妾の子って情報はきっちり伝わってるから教会でも扱いは酷かった。

公爵家程ではないが、教会ではネチネチ嫌味攻撃と精神魔法を使って心を破壊しにくるのがウザかったと。

精神攻撃って常にイライラさせられるらしい


普通はイライラだけじゃすまないんだけどね!

 

教会のボランティア活動の炊き出しを手伝ううちに、まともな食事にありつけて

だんだん心身が元気になってしまう


元気になって本来の力をふるい、大物の魔物をサクッと倒す。

自分が強くなるのに比例して周りの人間が怯えだす

その時に、魔物が全部いなくなったら最後は自分が討伐されて終わることを悟った(※当時まだ10歳)


時すでに遅し、言われるまま国付近のボスクラスの魔物を倒してしまっていた。

最後に残ったのが俺


聖女マリーはこの世界に絶望して、俺を殺さずに逆に死ぬつもりだったらしい


俺に殺されても良かったと?!馬鹿かよ!そんな簡単に人生諦めんな!


だけど教会で言われるままに、今まで作ってきた聖水とか魔除けの御札や聖剣とかのアイテムが強すぎて

俺が死にそうになってる所に駆けつける


俺はトドメをさしに来たと思ってたけど、助けに来たらしい

あの時、最後の力が湧いてきたのはコイツの回復魔法だったの?


衝撃の事実だな!

え?相打ちに見せかけて回復魔法を放ってたの?うそん!

いや、本当に不思議と力が湧いてきたけどな!

お前だったんかーい!ありがとうな!

お陰で助かったわ!


ついでに、自分が今まで作った聖女グッズを破壊するために電磁波?みたいなのを放ってアイテムの中の基盤?核とかなんかかな?それらを破壊したらしい

ここの説明はよくわからなかった


ついでのついでに国を電磁波で囲い、国外に出てたアイテムの持ち込みを禁止にしたって

この国の結界ってそーゆー目的の結界だったの?

その電磁波ってのが強すぎて魔物も悪魔も入ってこれねーし!


後は傷ついた俺の魂を癒やすために、上の全ての事を三分以内に済ませて味方を欺き

「封印する!」って事にして、全ての攻撃から俺を守っていたらしい


「そんな戯言なんか信じられるかい!」


「気づきませんか?ここはかつての王城だった場所です。

別の都を栄えさせて王都をうつしました。

ここにあなたの力の源が埋まってます

あなたの傷ついた魂が治るまで300年もかかりました。私の癒やしでは肉体は治せても魂の再生は困難でした…。

今もこの下の永久凍土の中で私とあなたのかつての肉体が眠っているのですよ、フフッ

王城はうるさくて穢らわしい人間の吹き溜りです。私は静かな眠りを誰にも邪魔をされたくなかった

利子を付けてお返ししましょう」


はるか高みから見下ろして顎をクイッとする


月明かりに照らされた瞳は青く輝いてるのに、燃えるような熱を孕んで血の色を帯びてるように見えた


ゾッとするような美しい笑顔で見下ろしてくる


「何を…」


「この国の結界がどうして何百年も保つかご存知ですか?

結界内の人間が持つ潜在魔力を吸い出して利用してるのです。

もちろんあなた以外の人間からです

聖女などと不相応な称号をつけられさぞ不愉快極まりないでしょうがご安心を!今の教会は私の手の内です

ハハハッこの国の大量の供物たましいを生贄に貴方を復活させましょう

"愚かな人の子など駆逐してやる"

あなたの願いなら何でも叶えて差し上げましょう」


それ俺の黒歴史の時の口癖だよ!恥ずかしいっ!やめてくれ!今は俺も愚かな人の子だからっ!


「あの地獄の日々であなただけが私を傷つけなかった。

私に生きる意味とほんの少しの人間らしさを与えてくれたのはあなたなのです」


悪魔に人間らしさ教えてもらうなよぉー!

この国の人間ホントに鬼畜すぎなんだよ!身にしみて知ってるけどぉ!

ってか俺は頭脳派なんだよ!攻撃力ヘボくて悪かったな!傷一つくらい付いてると言ってくれ!


「あなたからしたら些細な事なので覚えてないと思いますが、あなたが私に見せてくれた外の世界はどこまでも広くて美しかった。今もあの感動は私の魂に焼き付いてます」


手下に馬車ごと襲わせて巣に持ち帰ろうとした時の事だよな…覚えてるよ俺以外全滅したし!

そんな嬉しそうな顔で喜ぶようなロマンチックなシチュエーションじゃなかったよね?

マリーの監禁生活が哀れすぎる!


「今生であなたの上司に結婚の挨拶に行ったのですが…些細な思い違いがあったようで、あなたの帰る場所を無くしてしまったかもしれません。

ですから、今後はここがあなたの帰る場所になると思います」


「え?上司?帰る場所っていったい……は?」


もしかして魔王様すでに討伐されたの?マジかよー!んひぃ!魔王様ごめんなさーい!


「世界はあなたの望むままにマイロード」



顎クイしたのに

スルリと手を離して手の甲にキスすんの?


俺の期待とドキドキ返して!

このまま食われるかと思ったわ!この無駄に顔だけイケメンが!

躾けてやるよこの俺様が!


「キスはこうするんだよ間抜け!…チュッ」


目を丸くして驚いたあと、嬉しそうに照れて笑った

その顔にぐっと来た



そうして悪魔と聖女は幸せに暮らしましたとさ


END

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