第12話:まるみちゃん

 うちは丸美庸子、YouTuber やってるっス。


 小学校の時から特別あだ名とかつかなかったんス。 特に特徴もなくて……。でも大学で初めて合コンっていうのに連れて行かれた時に、自己紹介もうまくできなくって「丸美です」言ったら男の子が「まるみちゃん!」て、呼んでくれたのが今の名前の由来っス。


 大学生の時って下の名前で自己紹介したりして、 妙に馴れ馴れしい感じもするけど、うちはそんな感じの学生じゃなかったっス。


 だけど、苗字が下の名前っぽいから勝手に勘違いして人の名前だと思ったみたいっス。その日、 男の子からはずっと「まるみちゃん」って呼ばれた。


 その時が楽しかったから、ウチもYouTuberになった時に名前を「まるみちゃん」 にしたっス。はっきり言ってうちはあんま目立たないっス。だから、目立つように髪をピンクに染めたっス。


 大学ではアルバイトとかはしたけど、でも就職は怖かったっス。だから、結局大学も卒業しなかったし就職もしなかったっス。YouTuberも最初は良かったんス。色々やってみたかったこととか、くだらないことをいっぱい試してみたっス。


 人気のYouTuberさんの真似とかして、よくあるような企画ものの企画を考えて色々やってみたっス。


 大食いとかやってみたすけど、そんなにいっぱい食べられなかったっス。女性リスナーを狙ってコスメとかもやったし、男性リスナーをターゲットにお色気 路線もちょっとやってみたスけど、そんなには 登録者数も再生数も伸びなかったっス。


 登録者数が10万人ぐらいに行くまでは、まあまあ頑張ってたんすけど、その後全然伸びないんス。


 それどこか 再生数がどんどん減っていくんスの。挙句の果てにゃ YouTube の広告の単価がすごく下がったス。


 収入ガタ減りで生きていくのが精一杯になったっス。そうなんすよ、ウチは別に面白い人間じゃないから、面白いことをして人を楽しませて生きていこうなんて所詮無理だったんス。


 そう思ったら急になんか全部が嫌になって、お酒を飲みに行ったっス。そして、お酒を飲んだ帰り道お腹が空いたから ラーメンを食べに●●に入ったっス。


 ラーメンが美味しかったっス。 なんか懐かしい味で すごく良かったんス。 店長さんはウチよりちょっと年上ぐらいでまだ若かったっス。


 若いのにこんなお店を持つなんてすごいなと思ったんス。 ウチとは大違い。どうせもう YouTube はやっていけないから 、近々 引退するだろうなと思ってたっス。


 その時 ラーメン屋さんで食べていけたらいいななんて都合のいい事を考えて店長さんからどうやってラーメン屋さんになったか聞こうと思って話を聞いてみたっス。


 当然そんなに簡単に教えてくれないから、毎日毎日とにかくラーメンを食べに行ったっス。そんな下心いっぱいでラーメン屋さんに通うと段々とラーメン屋さんで友達ができたっス。


 中洲で働いてるオネエの人やキャバ嬢の人、ホストの人、そして、話聞いたらすごく面白かったス。


 そこで 思ったんスよね。 この話、YouTube で流したらどうかなって。ウチは別に面白い人間じゃないから、面白いことも言えないし面白いこともできなかったっス。でも、人の話を聞くならできそうって。


 他人の人生は やっぱり面白かったし、どうせ今がうまくいってないんだから、面白いことがあるなら それをやってみようかなって。それぐらいのつもりで始めたんス。


 でも、それから急激に登録者数と アクセス数が伸びてったっス。 ウチはこれだって思ったっス。


 そして、店長さんにはちゃんと 許可を得てないけど、この店でお客さんに話を聞くのが面白いってことに気づいたし、だから 店長さんも巻き込む意味で店長さんのインタビューも取ることにしたっス。


 それで、話を聞いてみたら 思ったより 店長さんの話が重たくてびっくりしたっス。 なんだか言葉遣いとかも丁寧だし、真面目な人だろうなと思ったんスけど、 意外と めちゃくちゃで意外と大変な人生を送ってたんだなって思ったス。


 最初はラーメンが好きになって、そして お店が好きになってったから、話を聞いた店長さんのことも段々気になってきたス。


 深夜のラーメン店の店長と、YouTuberのカップルはダメスか?ウチは店長さんのインタビュー動画を編集しながら、そんな都合のいい事を考えてたっス。

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