第11話:私がラーメン屋になるまで
初めは自分でお店をやるなんて、そんな大それたことを考えたこともなかったんです。
きっかけは「秋葉原」でした。私の母は、私が小学校の時に離婚しました。父は厳しい人でした。私を守っての離婚だったのかもしれません。
母は女で一つで 私を育ててくれました。パートも掛け持ちしていました。でも、私は家のことは全く手伝っていませんでした。悪い息子だったと思います。
大学生になるとだいぶ時間的にも余裕が出てきたけど、バイトぐらいしかしてなくて、どっちかっていうと学校以外は引きこもり みたいな生活を生活をしていました。
母のガンが見つかったのは、私が大学2年の時でした。体調が悪いって言って、病院に行ったらいくつか検査を受けることになって……。その時に病気が見つかりました。
ガンが見つかってからは早かったです。3ヶ月後には母はお骨になって墓に入ってました。
それからは、私は益々引きこもりになっていきました。外に出るのはラーメンを食べに行く時ぐらいで、近所のお店はもうほとんど行ってしまったんで、少し遠くの店まで足を伸ばすようになってました。
母は私の学費にと100万円以上お金を貯めてくれていました。私は大学にも行かず引きこもって、そして時々ラーメンを食べに行くみたいな生活をして貯金を減らしていきます。
あと10万円切ったってところで秋葉原に行くことにしました。東京の秋葉原です。別に、何があった訳じゃなかったんですけど、なんとなく憧れがあって1回は行ってみたかった、ただそれだけです。
お金がなくなったら、きっと死ぬんだろうな って思ってたから、その10万円を使い切った後のことなんか何も考えてなかったです。
秋葉原ではメイド喫茶に行きました。だいぶ質の悪いメイド喫茶 だったと思います。内装は素人がやったかと思えるほど出来が悪かったし、テーブルと椅子は折りたたみなんじゃないかと思うほど華奢で安そうなものでした。
料理も冷凍食品か、明らかに素人が作ったオムライスでした。でも、女の子だけは可愛かった。
そこで 思ったんです。「これでいいんだ!」って。商売ってもっとちゃんとしてないといけないと思ったのに、これでいいんだって思ったんです。衝撃的でした。
なんか急にやる気が出て、家に帰って自分のラーメンを作ることにしました。
目指す ラーメンはうまかっちゃん。
これは九州限定の袋麺インスタント麺です。これをお店で出せるようにしたいて思ったんです。自分の舌で感じたうまかっちゃんに近い店のラーメンを目標にしました。
最初はうまかっちゃんに中華スープ を加えたりしてみましたが、どうもそうじゃない。
次に醤油を加えてみました。でも、やっぱりなんか違う。味の素を加えたりいろんなことやってみましたが、目標にしてる味に近づいてるように思えなかった。
そこで 考えついたのがめんつゆでした。思いついたというよりは、試行錯誤した結果でした。冷蔵庫に入ってるものを、次々放り込んで行ってどんな味になるか自分の舌で確かめて行った感じです。
結果として、「めんつゆ」と 「ナンプラー」を入れるのが美味しいみたい、と気づきました。
生姜とニンニクは、どんなもんでも入れときゃ だいたい上手くなるんです。できたと思いました。自分だけのうまいラーメンできたって思いました。
うまいラーメンができて、あまりにも嬉しかったんで、珍しく飲みに行ったんです。天神でした。天神は福岡の繁華街です。若者の街って言うとこかな。飲みに行って、ちょっと飲み過ぎました。
気づけば知らない人と肩を組んで歌ってました。居酒屋の中で。まあ、年齢的には大学生だし、そんなこともあるだろうと思って、その日は楽しく過ごしました。
びっくりしたのは翌日です。朝起きたら自分の部屋に知らない男がいるんですから。
知らない女の子がベッドの中にいれば、ライトノベルになるかもしれません。ところが、知らない男が家にいるって、ものすごくやばい状況じゃないですか!?
何があったのかって、とりあえず自分の服とか確認したけど、昨日着てた服そのままでした。そのうち、私の家にいたその男も目を覚ましました。
その人は割と記憶があったみたいで、意気投合してずっと酒を飲んでたらしいです。
そして、うまいラーメンができたから是非食ってくれと私が家に誘ったらしいんです。美味いラーメンができてあまりにも嬉しかったからっていうのが想像できたんで、多分本当だなって思いました。
私はひどい二日酔いでした。でも、その人にラーメン作って出してあげたんです。呼んどいてそのラーメン 出さないのは申し訳ないと思ったからです。
そしたら、その人がすごく喜んでくれたんです。美味しいって、すごいって喜んでくれたんです。嬉しかったなぁ。
その人の名前は皇木雄二さん。名前はちょっと嫌だったけどでも、人はすごくいい人でした。年齢も近かったと思います。
ちょっとだけ年上だなと思ってますけど、皇木さんはダブルのスーツを着ていました。コンサルティングとかってなんかちょっと難しそうな仕事をしてる人らしいです。
その人は私のラーメンをすごく褒めてくれて、店が出せるって言ってくれました。私も例の秋葉原に行って店を出すことに対してのハードルがすごく下がってたんで、 ふたつ返事でやるって言ってしまいました。
お金のことなんかに考えてなかったけど、色々話したらその皇木さんがお店の場所を見つけてくれて、開業資金300万円を貸してくれました。
そこからは、まずラーメンの完成にしばらく準備期間を取りました。スープは完成してたけど、麺がどうしても納得できなかった。チャーシューや煮卵も入れたかったから、毎日毎日ラーメンを作って食べて、作って食べてっていう生活が何ヶ月か続きました。
卵の仕入れ先とか、チャーシューの肉の仕入れ先とかを皇木さんが紹介してくれて、安くて良い材料が手に入ることになりました。
麺も困ってたら製麺所を紹介してくれました。そうして私のラーメンは完成したんです。
お店はオープンしてからお客さんはすぐに入ってくれました。商売ってこんなに簡単なもんじゃないと思ってたのに、立地が良かったんだと思います。
すごく人通りの多い道の1階にラーメン屋さんを出すことができたんで、スープの匂いが表の通りにするようにわざと窓を開けたりして、通り沿いに匂いがこぼれるようにしました。
そしたら、ラーメン食べたい人がふらりと入って来てくれるようになったんです。
……そんなことをまるみちゃんに話しました。もちろんスープのことは秘密にして。スープのことは皇木さんにも秘密にしています。
それは私の最大の秘密であり、罪悪感の元でもあるのでした。
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