第35話 予想外の魔物

 生徒達が逃げ惑うなか、嬉々として詠唱を唱える者がいる。


「吹き荒れる嵐よ! すべてを吹き飛ばす柱となれ! トルネード!」


 エリスさんの前に風が渦巻き始める。

 それは生徒の逃げて行った方へと向かっていく。

 その竜巻は炎を飲み込み、火柱として生徒たちの元へと襲い掛かっていった。


 周囲を焦げたような匂いが包み込んでいる。


「クッソー! 攻撃しろ―!」


 その叫びは虚しく虚空へと消えていく。

 僕はその声を頼りに、主犯格の元へと向かっていた。

 少し離れた所で安全を確保しながら指示していたゴールドバッチの奴らを見つけたのだ。


「きみたちさぁ。自分達ばっかり安全なところにいちゃだめだよぉ」


「サンダーボ──」


 ──ボトリッ


 生徒が掲げていた杖を持つ腕が地面に落ちる。


「あぁぁぁぁ! うでがぁぁぁ!」


 その生徒はそのまま転送されていった。

 周りにも剣を突きだしている生徒がいる。


「アイアンの生徒を魔法の的にしてたんだってぇ?」


「だからなんだ!? やつらは落ちこぼれだからいいんだ!」


「僕からしたら、君たちの方が落ちこぼれだと思うよ? だから、


 拳から放った衝撃波で一人の剣を持つ腕を破壊する。

 続いて、他の人の足を。

 残りの腹を。


「やっぱり……黒襟は、残虐非道……」


 その言葉を残して転送されていった。

 この会場の外では大騒ぎだろうなぁ。

 治療で忙しそうだ。


 しかも部分欠損が多いからかなり魔力を消費するし、回復薬もかなり高価なものを使わないといけない。大変だねぇ。こんな大会を開いたのがいけないんだよ。


 これで大半の生徒はいなくなっただろう。

 今日の夕方がタイムリミットだけど、残っている生徒が他にいるのかな?


 生徒がいないということは、別にポイントをとらなくても僕たちのクラスが上の方にいることだろう。


 それならば、あの担任は何も言わないだろうし、いいかな。


 みんなの元へと戻ると周りは酷い有様だった。


「うわぁ。カーラさんとエリスさんの魔法凄いねぇ」


「ふふふっ。見た!? 私の特大魔法!」


「うん。いつの間にか中規模魔法も使えるようになってたんだね!」


「ふふんっ! そうでしょう! 日々の努力の賜物よ!」


 それには素直に感心した。

 なにせ、少し前までは小規模魔法しか使えなかったのに。

 エリスさんの中では特大魔法だろうけど、そこまでの規模の魔法ではない。


 でも、威力的にはカーラさんの魔法と合わさって極悪なほどの威力の魔法となった。あの生徒達のトラウマになったんじゃないだろうか。


 あの生徒達、来年の狩猟競技会出られるかな?

 まぁ、どうでもいいけど。


「ウチの魔法でなんとか相殺できてよかった」


「カーラさん、ばっちりだよ! すごい!」


「そう……かな?」


「そうだよ!」


 僕が褒めると少しモジモジしながら顔を赤くするカーラさん。

 可愛らしいなぁ。


「むー! 私も凄かったでしょ!?」


「だから、すご──」


 ──ベシッ


 近くに何か飛来してきたので、それを叩き落とした。なにかの虫かな?


 落ちた所を見ると、緑に輝く宝石のようなものを背負ったカブトムシみたいなのがひっくり返っていた。


「なんだこれ? 一応入れておこうか」


 マジックバッグの中へと入れる。

 こうして、競技会の生き残りは、アダマンタイトクラスの僕たちのパーティ。そして、アイアンクラスの情報屋の子たちだけだった。


◇◆◇


 結果は残った人たちが少なかったことで、もうわかったも同然だったが、一応発表された。

 今は、結果を見ながら自分たちの教室で休憩中だ。


 一位はアダマンタイトクラス。104,330ポイント。

 二位はアイアンクラス。5ポイント。ゴブリンは倒せたみたい。

 

「えぇー? 何このポイント。そんなに魔物倒してないのにね?」


「説明によると、一体で100,000ポイントの魔物を取得していたらしいよ?」


 バアルくんが僕に教えてくれる。

 一体何をとったっていうんだ?


「オレとエリスさんはその魔物を取得してないんだ。リオンくん心当たりない?」


「何をとったらそんなポイントもらえるの?」


「エメラルドビートルっていう、視認するのも難しい速さで飛ぶ魔物なんだけど……」


「もしかして、宝石みたいなの背負ってる奴?」


 僕の心当たりはあの時、変な虫だと思って叩き落としたものだった。

 もしかしてあれが?


「そうそう! 幻の魔物って言われていてね」


「そうなの!? 変な虫だと思って叩き落としちゃったよ。もう少し丁寧に扱えばよかった」


「まぁ。いいんじゃない? 宝石もらえるらしいよ?」


 それはそれでどうしたらいいんだろう。

 目をキラキラしてこちらを見ているエリスさん。


「ど、どうしたの? エリスさん……」


「私ねぇ、宝石に目がないんだぁ」


「な、なんてド直球なアピールなんだ……」


 バアルくんが呆れたような顔で見ている。

 そこに担任がやってきた。


「おぉ! 俺の英雄だお前らは! 臨時ボーナスだよ! ありがてぇ! これは、黒襟にやろう。まぁ、うりゃあ、数百万ガルくらいにはなるだろ! 好きにしろ!」


 僕の手の中へと緑に輝く宝石がわたってきた。

 その宝石をジィと見つめるエリスさん。

 渡してもいいんだけどね。


 でも、競技会の間にいろいろ話を聞いちゃったからね。

 

「カーラさん。これ、お母さんにでも渡して?」


「えっ? だって、数百万ガルだよ?」


「僕はいらないから。それに、競技会の間、色々話せて助かったし。お礼ってことで受け取ってくれない?」


「でも……」


 カーラさんは遠慮して受け取ろうとしない。

 すると、僕の手から奪い、カーラさんの手へと宝石を乗せた。

 犯人は、エリスさん。


「もらっちゃいなよ! カーラちゃん! リオンくんがこういっているんだから! ねっ!」


 こういうときにエリスさんには助けられる。

 僕が言うより自然だから。

 嫌味もなくこうやってズケズケと行動できちゃうんだからすごいよ。


「う、うん。リオンくん。ありがとう」


 その瞳には光る物があった。

 こうして、狩猟競技大会は幕を下ろしたのであった。

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