第33話 黒髪くんと取引き
なんとかハードな夜を乗り越えることができた僕とカーラさんは、バアルくんとエリスさんを探すために去って行った方向へと向かっていた。
ジャングルを彷徨っていたのだが、全然他のクラスの生徒と会わないなぁと違和感を感じていたのだ。
答えはやってきた生徒により明かされることになった。
「あっ! 会えてよかったです! 黒襟さん!」
そこへ現れたのは、僕が最初の方に助けていたアイアンクラスの黒髪くん。
黒髪くんの後ろには五人のアイアンの生徒を引き連れていた。
なんだ?
強襲か?
少し身構えて迎撃の体勢をとると、黒髪くんは慌てたように手を振った。
「敵対の意思はないです! 攻撃しません! ちょっと相談がありまして!」
「ん? 相談? なにかな?」
「あの……この競技会、手を組みませんか?」
それは意外な相談だった。でも、実際組んでなんのメリットがあるんだろう?
「リオンくん、アイアンの生徒と組んでもメリットがないと思うけど……」
カーラさんも同じ意見だったようだ。
「情報があります。他のクラスの生徒は、アイアンクラス以外のクラスで徒党を組んでいます! 黒襟さん……リオンさんを倒すために……」
「あー。そういうこと。だから他の生徒に会わなかったんだ」
「あと、バアルさんと、エリスさんの位置を把握しています」
こちらの名前を把握している。位置も把握していると。悩むなぁ。それは良い情報だけど、守る人を増やすことになる。
「うーん。ただ、その人数を守ることになると結構辛いんだよねぇ」
僕は正直に告げた。
黒髪くんは後ろの生徒を見ると頷いて、意思を持った強い目でこちらを見つめてきた。
「ここにいる僕たちは、戦うことはできません。学力もありません。ですが、ダイバーが好きです。マニアなんです」
「というと?」
「ダイバーになる卵のこの学院の生徒もその対象になります」
「うん? 好きだからどうなの?」
「全生徒の名前、顔、属性、特徴を把握しています。謎なのは、リオンさんだけです」
それには僕も驚いて思わず目を剥いた。
凄いなぁ。それは。
役に立つことは間違いない。
情報は、時に力をも凌駕する。
それは最強種と呼ばれる僕が、里で口を酸っぱく言われてきたことだ。
だから、自分の強みや切り札は隠しておけと言われている。
弱点を突かれれば、いくら力が強くても負ける可能性が跳ね上がるからだ。
こういう人は恐いぞ。
情報を集め、虎視眈々と自分が上に立てる時を狙っているのだ。
「なるほど。わかった。組もう」
「リオンくん! 本当にいいの?」
「情報は僕たちを助ける力になるはずだ。まずは、バアルくんとエリスさんの所に連れて行ってもらおうかな」
「はい! こちらです!」
黒髪くんに案内されるまま、僕とカーラさんは後をついていった。
これが罠である可能性もある。
そこまで信用できる人かどうかはわからないからね。
だから、念の為、何があってもいいように心構えだけはしておくことにしたんだ。
僕たちの後ろにはアイアンの生徒がついてきているし、万が一何かあった場合は、カーラさんの大規模魔法で乗り切らせてもらおうか。
「ちょっと! ホントに動かない方がいいの? リオンくん達といつまでも合流できないよ!?」
「いや、きっと待っていた方がいい」
少し先の林の中からそんな声が聞こえてきていた。
少し胸をなでおろす。
黒髪くんの言っていたことは本当のことだったか。
「バアルくーん」
「あっ! リオンくん……」
林の中から顔を出したバアルくんはバツが悪そうに顔をうつむかせた。
「ごめん! 勝手にムキになって離れちゃって……」
「ううん。僕もバアルくん達の気持ちをちゃんと考えていなかったよ。この競技会が終わったら、話を聞いてくれるかな?」
「うん! もちろんさ!」
僕も言いたいことが言えたから会えてよかった。
「ようやく話してくれるの!?」
「う、うん……なんか知りたがっているって聞いたから」
「そりゃそうだよぉ! 楽しみだなぁ」
何がそんなに楽しみなのかわからないけど、僕からしたら気が重いことだからなぁ。
少し暗い気持ちになりながらも、割り切るしかない。
「それはそうと、その後ろの人たちは誰なの?」
「この人たちが、僕たちを連れてきてくれたんだ」
「オレたちの場所を知ってたってこと?」
「僕たちと組みたいんだって。この人たちは、情報をくれるんだ。全生徒の情報を握っているらしいよ?」
「おぉ」
全生徒の情報の話をすると、バアルくんはその重要性をわかったみたいで納得していた。
「バアルさん、エリスさん。我々、戦うことはできませんが、情報を集めることは得意です」
「もしかして、隠密的なこと?」
眉間に皺を寄せながらバアルくんが、黒髪くんへと問う。
「はい! 気配を消し、ありとあらゆる情報を集めます。ちなみに、エリスさんのスリーサイズも……」
「わー! なんて情報持ってるのよ!」
「我々は、情報屋としても動いておりまして……」
「私の情報なんていらないでしょ!」
「そんなことありません。エリスさん、カーラさんはアダマンタイトクラスのニ大美女のお二人ですから、情報はかなり高く売れます」
それを聞いたエリスさんが目を吊り上げた。
「ちょっと! 変な情報売買しないでよ!」
「まぁまぁ。まず、僕たちを狙っているという他のクラスの情報をもらおうか」
ここからは、アイアン・アダマンタイトクラスVSゴールド・シルバー・ブロンズクラスの戦になる。
果たして、無事にこの競技会を勝ち抜くことができるのか。
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