第28話 ちょっと昼休憩

 隠れやすそうな空間を見つけた僕達は、昼休憩をしていた。


「はぁぁ。お腹すいたわねぇ」


 エリスさんは完全に腹ペコのようで獣の鳴き声のような音がお腹から聞こえてくる。

 それにはカーラさんもこらえきれず笑っていた。


「僕、ワイルドベアの肉取っていたから、それを焼こうか?」


「さすがリオンくん。オレは、木の実を回収していたからそれを出そうか」


 マジックバックから次々と丸々とした実を出しているバアルくん。

 こういう時にちゃんと食料を回収しているあたりが流石優等生って感じ。


「ウチは、そんなに食べるのはもってなくて、ハーブを見つけたからとってたんだけど……」


「あっ! いいね。ワイルドベアの肉は少し臭みがあるんだ。だからそのハーブと一緒に焼くと良いかも」


「役に立ててよかった」


 胸をなでおろして一安心しているカーラさん。

 別にあんまり気にする必要ないと思うよ?

 だって一人は何もなさそうだから。


「えぇ? みんななんでそんなに食べるの集めてるのぉ? 私、そんな余裕なかったよ!」


 そう言い張るエリスさん。

 四人で合流できてよかったね。こういうサバイバルの時は水と食料は確保しておかないと危険なんだよ。


「集められるときに集めておかないと、お腹空いて倒れちゃうでしょ?」


「うん。私、お腹すくと動けない……」


「はははっ。今焼くから木の枝を集めよう。焼き上がるまでバアルくんの木の実をもらおう」


 その辺から枝と葉を集めて山を作る。


「カーラさん、火ってつけられる?」


「……私、火力調整が難しくて。ごめんなさい」


「あっ。だよねぇ。火打ち石でつけるね。気にしないで」


 少しの間、カチカチと石を打ち付けて火をつけると、別で用意していた枝を削って尖らせる。


「ホントにリオンくん器用だね。枝を尖らせてどうするの?」


「これはね、こうやって、肉を刺すんだ」


 尖らせた枝へと切り分けた肉を刺していく。

 それを、炎の近くの地面へと刺して焼いていく。


「すごぉい! なんでもできるんだね?」


「僕の住んでいた所って結構山奥でさ。狩りに出たりして、お昼はこうやって調達して食べることが多かったから」


 エリスさんに褒められて少し恥ずかしくなる。

 こんなことで褒められることなんてないからね。

 

 肉が焼けるまでの間、木の実を食べることにした。

 さっきバアルくんが出した木の実は前世で言う林檎みたいな果物だ。

 ただ、色が異世界仕様で、紫と黒の縞々。

 その皮を解体ナイフで剥いて切り分けてあげる。


「リオンくん、そんなこともできるんだ。そうやって剥けるなんて、良いお嫁さんになるねぇ」


「エリスさんもできるようになった方がいいんじゃない?」


 エリスさんから褒め言葉かわからない言葉が紡がれると、それに反応したのがバアルくんだった。

 できるようになった方が良いと言われたエリスさんは頬を膨らませてご機嫌ななめだ。


「むー。だって、じいやが危ないっていうんだもん」


「もしかして、凄い貴族みたいな生活してるの?」


「そんなことないもん! 十人くらいの使用人がいるくらいだから大したことないよ!」


 果物を頬張りながらバアルくんに反論している。

 いやいや、十人の使用人を抱えているって結構な貴族じゃないか?

 貴族はいるだろうとは思っていたけど、まさかこんなに近くにいるとは。


「まぁまぁ。でも、こういうサバイバルの時に覚えるといいんじゃないかな? 教えてあげるよ?」


「むー。本当? じゃあ教えてよ」


 口を尖らせながら木の実をとるエリスさん。


 後ろへと回り込んで右手にナイフを持たせる。


「どうやってきるの? こう?」


 見よう見まねで切ろうとするがナイフを突き刺す勢いだ。


「ちょっと待って。ゆっくりと、こうナイフを入れて……」


 後ろから覆いかぶさるようになってエリスさんの右手に同じように手をかぶせる。

 そして、木の実を一緒に左手で動かしながら皮を剥いていく。

 なんかいい香りがする。この実の香りかなぁ。


「こうやって、実の方を動かしながらナイフは固定しておくんだ。わかる?」


「えっ? う、うん。わかるよ」


 なんだか声が小さいに心なしか耳がピンクになってるけど、大丈夫かなぁ?


「そうそう、上手。このまま回していけばマルッと剥けるよ」


「う、うん。ありがとう……」


 なんだ。教えればちゃんと剥けるじゃない。

 エリスさんはやってないだけでやれば器用な方なんだな。


 エリスさんから離れて肉の様子を見る。


「リオンくん、それ無意識でやってるの?」


「えっ? 何を?」


「いや、ごめん。なんでもない」


 バアルくんの言っている意味がわからなかった。

 何を無意識でやってるって?

 僕、何もしてないよね。


「リオンくん。要注意だわぁ」


 カーラさんが何かつぶやいている。

 

 肉が良い感じに焼けてきたからひっくり返す。

 もう少し焼ければいい感じだろう。

 でも、こういう香ばしい良い匂いをさせていると寄ってくる者たちがいるのは仕方がないこと。


 周囲の草むらから気配がする。

 こうなることはわかってた。

 けど、やることは変わらないし。


 ただ、寄ってきた魔物を討伐するだけ。

 逆におびき出せるからいいかもしれない。


「匂いにつられて何か来たよ。食べる前に狩っちゃおうか」


 餌になるのは、魔物か人か。

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