第26話 大規模魔法の威力

 しばらく草むらの中へと隠れていた。

 来るならそろそろ来てもいい頃だと思うんだけどなぁ。


 木々が揺れている。

 その揺れがだんだんと近づいてきた。


「あれー? この辺だったんだけどなぁ?」


 現れたのはエリスさんだ。

 僕が行くより先にバアルくんが飛び出した。


「僕の合図に気が付いてくれたんだね!」


「あっ! バアルくん! リオンくんは?」


「そこに──」

 ──ドドドドドドドドォォォォォ


 僕とバアルくんの間に岩の壁がせり上がってきた。

 分断されてしまった。


「はっはっはぁー! ようやくお前と戦えるぜ黒襟!」


 序盤に雷魔法を放ってきた生徒が現れた。

 別の生徒と協力して壁を作り、僕を叩こうといったところか。


「学年主席のアイツがいないと何もできないだろう!?」


 今まで決闘とかもしてきたけど、そんなに目立ってないのに何でこんな絡まれるの!?

 僕が何したっていうのさ!?


「おまえばっかり可愛い子にチヤホラされてハラワタが煮えくり返るわ!」


「いや、僕は別にチヤホラされているわけでは……」


「ええい! 問答無用! 敵に鉄槌を! サンダーボルト!」


 僕はカーラさんを抱きかかえながら下がって避けた。


「あー! 今度は綺麗な人族の子を連れてる! 隠してたなコノヤロー!」


 なんだかよくわからないが、嫉妬されているみたい。

 自分も話とかしたいってことなのかな?

 だったら友好的にすれば話すこともできるかもしれないのに、こんな攻撃されてたんじゃ無理だよね。


「なんだか面倒だ……」


「ウチがやる! なんかあの人、気に入らない!」


 おぉ。なんかカーラさんが怒っている。

 僕の横へと並ぶと詠唱を始めた。


「我は汝を使役するものなり。我の魔力を糧とし、極限まで火力を高めよ。敵に地獄の業火を! すべて燃えろ! インフェルノ!」


 凄まじい魔力の高まりを隣から感じる。

 空気自体が発火するように周囲の温度が高まる。

 生徒は「ヒィィィ!」と言いながら逃げ惑っているが地獄の業火は逃がさないようだ。


 生徒が先ほどまでいた場所は地面から炎が噴き出し、そこを中心に地面が割れる。

 割れた所からも炎が噴き出し、生徒の足を掠った片足か消し炭になる。


「がぁぁぁぁ! あついぃ──」


 その生徒は転送されていった。

 完全回復の回復薬か、最上位の回復魔法をかけるか。そうでなければ、あれは治らないだろう。

 

 それよりも、このカーラである。

 なんて恐い魔法を使うのだろうか。

 僕の身も震えた。


「ウチ……なんかやりすぎちゃった?」


「そうだね。うん。凄い魔法だったね。まだ火を噴いてるし、壁も壊したね」


「あっ! エリスちゃんは大丈夫かな!?」


 壁の方へと近づいていくカーラさん。

 壊れた壁から反対側の二人を確認しに行った。


 僕の魔力探知では大丈夫そうだったけどね。


 ゆっくりと歩いていくと、二人は談笑していた。

 よかった。やっぱり大丈夫だった。


「そっちから凄い音してたけど、大丈夫だった?」


「ちょっとね。カーラさんが怒って大規模魔法使っちゃって」


「あぁ。だからその有様なんだね?」


「そういうこと。燃えてるけど大丈夫かな?」


「いやいや、魔法で延焼しないように対応しよう」


 流石は、優等生のバアルくん。

 僕なんかは学院が用意したもりだから燃えてもいいかなんて思っちゃったよ。


 皆で燃えてる枝を切り落としたり、燃え移りそうな枝を伐採したりと延焼しないように対応した。

 さすがに生徒みんな焼死は笑えないか。


 カーラさん、火属性だったのね。


 今さらなんだけど、この世界には、火、水、地、風、雷、光、闇の属性があるんだ。

 固有属性として竜と木っていうのがあるんだけどね。


 大体、一人一属性を使える。


「よーしっ。いいかな? カーラさん、ここはジャングルだよ? ほどほどにしてね?」


 バアルくんは優等生らしくカーラさんへと注意している。


「うん。ごめん。ウチ、カッとなっちゃって……」


「いや、僕がすぐに対応しなかったからだよ。ごめん。魔法を撃たれる前に気が付いて対応できていればよかったんだ」


「ううん! 違うよ! ウチが悪い! リオンくんばっかり責任感じる事じゃないよ」


 そうなのかもしれないけど。

 壁の出現に驚いて反応が遅れたというのが悔しい。

 僕の落ち度だ。まだまだ精進が足りないな。


「じゃあ、二人で反省しよう。僕も反省すべきところはあるから」


「うん! そうしよ!」


 クシャッとした笑顔を見せるカーラさん。

 なんだかこの競技会で距離が縮まって、仲良くなれたような気がする。

 それが嬉しかった。


「むー! リオンくん! なんかカーラちゃんと近い!」


「そう? そんなことないよ?」


 僕がそう返事をするとエリスさんの顔を見てカーラさんはケラケラと笑った。


「エリスちゃん、ヤキモチ妬いてるの? かわいぃなぁ!」


「べ、べつにそんなんじゃないし!」


 口を尖らせて顔を背けるエリスさん。

 なにでヤキモチ妬いたんだろう?

 僕がカーラさんをとると思っているんだね?


「ごめんごめん。カーラさんはとらないから大丈夫だよ?」


 エリスさんは、目を見開いてキョトンとしている。

 カーラさんはお腹を抱えて笑っているし、どうしたんだろう?


「もぉぉぉ! クソ鈍感ヤロー!」


 エリスさん、口が悪いよ? バアルくんにいっているのかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る