第22話 狩猟開始!

 学院の外。そこは、今はもう訓練場としての形を大きく変えていた。


 一歩足を踏み入れると、空間魔法により広大な空間の木々が鬱蒼と生い茂る森の中。そこには魔物がウジャウジャといる魔境へと変貌していたのである。


「おぉーい! いいかぁ!? 魔物を見つけたら討伐して、討伐部位を取れ! 魔物の討伐部位は教えたから大丈夫だよなぁ?」


「「「はーい」」」


「いいかぁ!? 絶対勝て!」


「「「はーい」」」


 みんな適当に返事をしている。

 そんなにやる気に満ち溢れている訳ではない。

 なぜなら、これから二日間このジャングルに閉じ込められるからだ。


 逆に帰りたいくらいである。

 僕はテンションがだだ下がり。

 バアルくんなんかは、やってやるぞぉって感じでやる気に満ちている。


 凄いなぁ。そんなにやる気になるなんて。エリスさんは僕の横で腕を絡ませている。

 柔らかい感触を感じながら逃げられない絶望を感じている。


「ちなみになぁ、クラス対抗だからな。公平を期してランダム転移となる。だから、いきなり他のクラスの奴らと鉢合わせになることもあるわけだ。まぁ、おまえらなら大丈夫だろう」


 何を根拠にそんなことを言っているのかはわからない。

 この人自分のために言っているだろうからなぁ。

 

 情報が出回ってきたのだ。教師陣は、自分が担任するクラスの成績によってボーナスがあるらしいと。


 僕たちには特にそんなのないのにおかしいじゃないかと思ったのだが。単位を人質にとられているのであまり反抗するような態度はとれない。


「この転送魔方陣にのれ。それと、このジャングル、かなり広いからまずは生き残れ。重症の奴は外にはじき出されて治療されるからな! 死ぬことはない。安心しろ!」


 死ぬことはないけど、そのくらいの危険はあるような競技会だということか。


 魔物もかなり強いのを入れているのだろう。ただ、まだ一年生である。そこまでランクが高い魔物はいない、と思いたい。


 さすがにクラス全員を守るのは無理だし。ましてや、僕は目立ちたくないんだ。ほぼ隠れていると思う。


 ゾロゾロと転送魔方陣へと歩いていくクラスメイト。

 横で僕の腕を掴んでいたエリスさんは頬を膨らませていた。


「もぉー。なんでランダム転移なのよぉ。あっ、でも、このまま掴んでいたら一緒に転移するんじゃない?」


「たぶん無理だと思うよ? それができたらみんなやるでしょ?」


「むー。そっかぁ。じゃあ、まっさきに見つけるからね!」


 エリスさんに上目づかいで見られるとちょっとドキドキしちゃうなぁ。でも、僕は目立たないように隠れるから。

 

「僕を見つけられるかな?」


「絶対見つけてやる!」


「エリスさん、なんか一人だけ競技変わってない? オレ達は、魔物を狩って討伐部位をゲットするんだよ?」


 ここでバアルくんがエリスさんへと正論をぶつける。


「正論、お疲れ様でーす!」


「ぷっ! エリスちゃんそれはなんか逆なでしない?」


 エリスさんは悪びれた様子なく一蹴していた。

 カーラさんがそれを笑い、バアルくんは「ぐぬぬ」と悔しがっている。

 仲が良いことはいいことだ。


「じゃ、みんな、健闘を祈る!」

 

 僕の視界はその一言を発した瞬間真っ暗になり、木が付くと大きな木の下にいた。


 うっそうと生い茂る木々。薄暗いそのジャングルはなんだか獣臭く、不気味な様相を呈していた。


 まずは周りを確認する。魔物がいないか。そして、他のクラスメイトがいないか。敵はいないか。


 誰もいない感じがする。耳をすましながら少しずつ移動する。まずは水場を確保する。


 二日間生き残るには水が必要だ。探して水袋へ確保したい。


 はるか遠くでは何やら戦闘しているような音が聞こえる。その音とは逆方向へと向かう。いい感じの洞窟を探そう。


 ウロウロと山場を探しながら入れそうな穴がないかを探す。


 ──ズドンッ

 目の前に雷が落ちた。

 ありゃ?

 また油断していた。まさか攻撃されるとは。


 咄嗟に木の陰へと隠れる。


「お前黒襟だなぁ! ここでくたばってもらおう!」


 あらら。がっつり見られているし、知られているみたい。


「一番上のクラスだからっていい気になるなよ! 俺達は、座学が出来なかっただけだ!」


 まぁね。本来であれば僕も一つ下のクラスだったはずだし。

 戦闘とか魔法はできるっていいたいのかな?

 でもね。一番上のクラスの子たちって、戦えたりもするんだよねぇ。すごいよね。


 僕は返事をせずに気配を消して下がる。

 木々に隠れて恐らく見えていないだろうというところでその場から一瞬で消えた。


◇◆◇


 襲ってきた生徒は戸惑っていた。


 隠れたか。見えづらいな。


「あれ? 見えなくなったぞ?」


 くっそぉ。なんかアイツはいつも美少女と一緒にいるから腹立ってたんだよなぁ。

 

 いい機会だから見つけたら痛めつけてやろうと思ったのに。


「サンダーボルト!」


 予想をして魔法を撃ってみるが、誰もいないみたいだ。


「くっそっ! 逃げられた。あんのくろえりぃぃ! ぜってぇ場外にしてやる!」


 アイツはなんだか目立っていてゆるせねぇ。

 学院のサイトにアップされていた動画だって嘘に決まってる。

 あんなに簡単にダンジョン攻略ができるわけがねぇ。


 アイツだけはゆるさねぇ。

 変な格好してモテるなんてよぉ。


◇◆◇


 自分の知らないところで恨まれている黒襟なのであった。

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