第15話 見回りのバイト1

 早速デームくんにバイトを紹介してもらいに自警団の詰所に来ていた。


 かなり使い古されたような印象の建物で人もそんなに入りそうにない。ここが詰所だとしたら粗悪過ぎる。


「おぉ。リオン。この人が見回り長だ」


 紹介されたその人は豹の獣人だった。

 すごく足が早そうなフォルムをしている。


「よろしくお願いします! 僕、この格好のままでもいいですか?」


「あ、あぁ。構わんよ。ちょうど夜の勤務をもう一人増やそうとしていたんだ。一人ずつじゃ最近危険でね。これが自警団証ね。持ってて」


 それならちょうど良かった。

 なんでも今日から二人ずつ二交替で夜は警備するみたい。


「君たち学生だろ? 学院終わってから六時から夜中の零時まででお願いできるかな? 今のデームくんと一緒だよ」


「わかりました」


「今日からいいのかな?」


「はい! もちろんです!」


「ダイバー学院の生徒なら大丈夫だと思うけど、揉め事に出会ったら気をつけてね」


「大丈夫です。慣れてます!」


 それには首を傾げたが、にこやかに頷いてくれた。

 そのままデームくんと勤務に当たることとなった。バイトにありつけてよかった。


 いつものコースを案内してもらって一緒に回る。


 最初は城前の池の当たり。

 ここはカップルが多いのだが、前のように絡んでくる輩もいるから要注意なんだとか。


 やっぱりかぁ。

 この前は魚人族だったけどねぇ。


「ねぇ、この見回りしてて揉め事に会ったことある?」


「あぁ。まだ数日しか働いてないけど、何回か。俺もやられそうでやばかった」


「なんかさ、王都の治安悪くない?」


「だから、俺たちみたいなのが必要なんだろうけどな。見回り長は、国王が人族だからだって言ってた」


「やっぱりそうなんだ。でもそれで治安悪くなるの? こうやって警備してるのはデームくんみたいな魔族とかさっきの獣人族の人でしょ?」


「たしかにそうだな」


 僕が里で聞いた話だと、国によっては働けない種族があったりして、種族差別があるって聞いた。


 この国は差別がないから自由にできるだけ。それに甘えている人たちが好き勝手やっているだけじゃないかな?


 だとしたら、どうしたらいいのかは僕は分からないけど。


「おい。さっそくだぞ。ほらっ」


 デームくんの視線の先を見ると、カップルに絡んでいる奴がいる。

 魚人族かな?

 よく出没するね。

 池が近いからなの?


 カップルは人族の男性と獣人族の女性かな?

 なんだか言い争ってる。


「お前が俺をバカにした目でみたんだろう!?」


「何を言ってるか分からないって。ボクはそもそも見てない!」


「あぁ!? 独り身を馬鹿にしてんだろう!?」


「してないって!」


 これは言いがかりみたいだ。

 酔っ払いかな?

 デームくんの腕の見せ所だね。


「失礼。自警団の者です。揉め事ですか?」


「この人が言いがかりをつけるんだ!」


 人族の男性は魚人族の人を指してそう喚いている。


「なんだと? オメェわけえな? 俺に勝てると思ってるのか?」


「まぁまぁ、なんで絡んでるんです? 羨ましかったんですか?」


「あぁ!? 羨ましかねぇ!」


「わかりました。あっちで話聞きますから」


 ちょっと離れたベンチに座る。

 魚人族の男は酒を煽ってため息をつく。


「俺にゃあ何もねぇのよ。チビチビと養殖した魚を売るしかねぇの! 嫁も貰えねぇ」


 まさかの同族を売ってるんだ。

 まぁ、魚食べるんだもんね。

 食べるやつは別か。人ではないから?


「今はさ、結婚遅かったりが普通じゃないっすか。結婚が全てじゃないと思うっすよ。俺んち母ちゃんしかいなくて。兄弟多くて、食わせるの苦労してるっすよ?」


「そうかぁ。そういう家庭もあんだもんな。あんた、苦労してんだな」


「長男だからみんなを食わせたくて……」


「グスッ……くそっ。泣かせるじゃねぇか。頑張れよ! 俺も腐ってらんねぇわ!」


 なんとその魚人族の人は涙を拭うと手を振って去っていった。

 デームくんやるじゃん。すげぇ。


「凄いね。デームくん。見直したよ」


「なんかさ、あぁいう人たちって鬱憤うっぷんが溜まってるんだよな」


「感心した。僕にできるかなぁ」


 何となくだけど、デームくんだからできる会話だった気がする。僕は僕なりの対話の仕方を見つけないとな。


 続けてその先の公園を見回り。

 酔って寝ている人を発見。

 まだ七時とかだけどね。


「大丈夫ですかー? もしもーし!」


 これもデームくんが見本を見せてくれるらしい。


「うーー?」


「寝てたら風邪引ますよー? 送っていきましょうか?」


「あーー。いやーー。ぐぅぅぅぅ」


 また寝ちゃったどうするんだろう?


「よいしょ」


 デームくんが背負った。


「俺、詰所にこの人届けてくる。リオンはグルっと繁華街通って戻ってきてくれ」


「わかった。任してー」


 僕は残りの見回りを託された。

 この先はマジックパークの辺りの賑わっているところを通って繁華街だ。


 初日だけど頑張ってみよう。

 見本はさっきデームくんが見せてくれた。


 僕にもできるはずだ。

 なんか自分なりの。


 マジックパークの通りへ行くと何やら騒ぎが起きていた。

 何やら人だかりができている。

 何が起きてる?

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