第14話 命の大切さ

 その後、ダンジョン探索は順調に進んでいった。


 怪我人は少しでたけど、何とかみんな攻略してきていた。

 そんな中、ソロで挑む人がいた。

 デームくんだ。


 決闘後から浮いていたみたいでなかなか輪に入れなかったみたいだ。さっきは誰かと居たみたいだけど。


「先生。俺もソロでいいですか? 他の人は信用できません」


「あぁ? 別にいいけど、死ぬなよ?」


「ゴブリン程度大丈夫です」


「このダンジョンはな、最後の階層、最大五体出る。当たりを引かねぇことを願うんだな」


「うす」


 ダンジョンへと入っていった。

 デームくんはちょっと意地っ張りなところがあるからねぇ。大丈夫かなぁ。


 一階層目はゴブリン一体は問題ない。

 斬り伏せてるね。

 あっ、罠踏んだ。


 腕に矢が刺さっちゃったね。

 回復薬飲んでないけど、大丈夫かな?


 そのまま進むんだ。動きが悪くなったね。

 ゴブリンに苦戦してる。

 魔法で何とか倒したけど、次が二階層か。

 怪しいね。


 なんとかゴブリンは倒してるけど。

 また罠が発動した。

 火の玉が飛んできたじゃん。

 

 避けきれてない。背中を火傷した。

 このままでは三階層なんて無理だよ。


「先生!」


「待て。判断を自分でするのも訓練だ」


 そんなことしてたら手遅れになる。

 けど。これで出ていってデームくんが単位貰えないと困る。


 三階層に着いた。

 扉の先には五体のゴブリン。

 剣を掲げて突撃していくデームくん。


 一振で近いゴブリンにダメージは与えた。

 でも。それだけ。

 ゴブリンの持っている剣と棍棒に攻撃されている。


 ドンドン傷を負うデームくん。


「おいおい。あんだけ啖呵切っておいてこれかよぉ」

「なぁ?」

「だっせぇ」


 そんな事ない。

 誰よりも命をかけているじゃないか。

 頼みの綱の転送用の玉も落としてしまったみたいだ。


 僕は我慢できずに立ち上がった。


「リオンくん?」「どうするの?」

 エリスさんとバアルくんが心配そうに見つめる。


「ちょっと、トイレ」


 一瞬でその場から消えるとダンジョンへ。

 罠にかかろうが何しようが無視。

 デームくんがまだいる間は、さっき見てた道とは変わってない。


 最速で行く。

 目の前にはデームくんが血を流して倒れていた。


 一瞬でゴブリンとの距離を詰め。

 一体一体殴り倒して終わらせる。

 それも瞬きの間のできごと。


 デームくんを抱えて転送装置を発動させて転送される。


 ホールに着くと寝かせて回復薬を飲ませて傷のところにもかける。


「なんで、見捨てようとしたんですか?」


「あんまりダンジョン探索をなめるなよ? 命張ってやるもんなんだよ。自分の判断ひとつで命を落とすんだ。それが分からねぇやつにダイバーになる資格はねぇ」


「だからって……」


「こいつは自分の判断で死ぬことを選んだんだ」


 なんて横暴な。酷すぎる。

 それが学院のやり方なのか?


「それを嘲笑っていたヤツがいるのも事実。ナメてんだよ。命を張ることをよ。そういう奴は、目の前で命が失われないと気が付かない! 違うか?」


 だからってデームくんを見捨てるのを良しとはならない。


「まぁ、黒襟が行かなきゃ俺が行ってたが。ギリギリだったかもな。嘲笑ってたヤツら、ソロでいってもいいぞ? 命張る度胸があるならな」


 笑っていた人達は下を俯いていた。

 あんな場面。

 笑うところじゃない。


「俺は……」


「あ、気が付いた? 危ないところだったね」


「リオンが助けてくれたのか?」


「危なかったよ。ギリギリ。どうして、回復薬使わなかったの? それに、最後は無謀だったと思うよ?」


「俺は……」


 その後語られたのは、デームくんの家の事情だった。


 住んでいるところは王都から少し離れている村で、母親一人に育てられたそうだ。でも、食べるものを買うお金がなくて。


 母親は身売りと畑仕事をしながら金を稼いでいたんだとか。学院に行くお金もそれでどうにかしたそうだ。


 長男であるデームくんだけでもと。兄弟が多く四人兄弟なんだとか。だから、回復薬を使う分だけでもお金を浮かせて仕送りしたいんだとか。


 どうしてもダイバーになってお金を稼ぎたいんだという。その為には学院をいい成績で出て、注目するダイバーだと言われたいと。


 その為には誰よりも強く、いい仲間が必要だと思ったんだとか。だから色々と強がっていたみたい。


 リオンにできるなら自分にもできると思ったが、難しかったという。惜しかったけどね。後は罠を発見する技術ともしもの時に回避できる反射神経があればいい。


「そっか。もしかして、バイトしてるの?」


「あぁ。夜の見回りのバイト。時給が良くて夜だから学院と被らないんだ」


「紹介して! 僕もやりたんだ」


「話しておくよ」


 こうしてこの日のダンジョン探索の授業は終わりを迎えた。


◇◆◇


 教師side


 デームを助けるタイミングは黒襟が行かなきゃやばかったかもなぁ。


 俺じゃあ間に合わなかったかもしれん。

 命の大切さを分からせるためと思ったが、ちと危ない橋を渡っちまったかな。


 黒襟に感謝しないとな。

 だが、これでダンジョン探索の大変さと危険性は認識できただろう。


 しかし、目立ちたくねぇと言いながらも正義感が強いからなアイツ。このまままっすぐ育ってくれれば。もしかしたら……。あんまり期待しちゃいけねぇか。

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