第5話 友達

 試験の合格発表の日が訪れた。

 今日は発表のみだけど、合格した人はタブレット端末を配ったり、マジックバックを配ったりするらしい。


 ドキドキしながら学院へと向かっていた。

 受かってるかなぁ。

 どうだろうか。


 人がすごい。既に番号を見ている人はガッツポーズをしたり、落胆したりしている。


 僕はどうだったかな?

 あんまり表に出したりしないようにしないと。

 目立ちたくはないからね。


 魔道具版に表示されている番号を見ていく。

 10498

 10500

 マジか。いきなり飛んだ。

 10501

 次だ。

 10502

 ん? あった! あったぁぁぁ!


「よっしっ!」


 思わずガッツポーズしてしまった。

 直立に戻る。

 危ない危ない。

 誰にも見られてないよねぇ。


 スーッと校舎の方へと歩いていく。

 受験票を出すとタブレット端末とマジックバックを渡された。


「この端末は授業で使うので壊さないでくださいね? あと、入寮する方はあちらです」


 そう口にする職員の目にはなんか力が籠っていた。

 一体なんで僕だけ?

 壊すと思われてるのかな?


 嫌だなぁ。壊さないですよ。

 そーっとマジックバックへ端末を入れる。


 良かった。今日から入寮できる。

 宿泊代も馬鹿にならないからね。

 王都の宿泊費高いんだもの。


 親から貰ってきたお金はまだ余りはあるけど、親のお金はあまり使いたくない。

 バイト探そう。


 まずは寮に。


「すみませーん。リオンですけどぉ」


「リオン・ドラゴニルさんね? 部屋はこっちのエレベーターを上がった先よ。これが、カードキー。二人部屋だから仲良くしてね?」


 早口で説明してくれるけど。

 ん? 聞き間違えか?

 何人部屋だって?


「えぇっと? 何人部屋って?」


「ん? 二人部屋よ? 聞いてなかった? 仲良くできる人を増やすための対応なのよ。この学院ならではのね」


 なんて対応してんだよ。この学園は。

 そんなことしたら僕が竜人だってバレちゃうじゃないかぁ。

 どうしよう。バレないようにずっとこの格好のまま過ごせばいいかな。


「そう……ですか。わかりました」


「どうしてもっていうならVIP部屋があるけど、月々お高いわよ?」


「あぁ! 結構です! 二人部屋で……」


「そう。じゃあ、この先のエレベーター上がって十階の1050号室よ」


「ありがとうございます!」


 泊まれるところがあるだけよしとしよう。

 夜まではバイトで稼いで、寝るだけにすれば同じ部屋の人とも会わないだろうしいいよね。


 十階の1050はここか。

 カードキーをかざすと鍵が開く。

 扉を開くと廊下があって右にトイレ、左に洗濯洗面所、その先にリビングが広がっている。


 そのソファーに座っている人がいる。


「あ……あの、今日から同じ部屋になります。リオンです」


 クルリと振り返った顔は見たことがある顔だった。

 あれ?


「あー! 黒襟さんと一緒なんてオレはラッキーだ!」


「あぁ! あの時の。大丈夫ですか? ちょっと後が残ってますね……」


 その人の顔には痛々しい打撲の後が顔に残っていた。痛そうだなぁ。こうなっちゃうと押すと痛いからねぇ。


「大丈夫です! オレ、バアル・バホムっていいます! 魔人族です!」


「あぁ、僕はリオンです」


「友達になってくれませんか?」


 いきなり友達になって欲しいとは凄いコミュ力の持ち主だなぁ。でも、僕も友達は欲しいんだし。いいかな。


 この前は女の子を助けるために体を張って割って入ったんだし、いい人なことは確実なんだよね。だったらいいか。


「はい。喜んで。僕、あんまり目立つの好きじゃなくて……」


「プッ! そうなんだ。わかった。あまり聞かないことにするね」


 わぁー! 凄いいい人だよぉ! 良かったぁ! なんだかバレても大丈夫そうだけど、バレないようにしよう。


 一応ね。竜人ってバレたら友達やめられるかもしれないし。それはちょっと寂しい気がするから。


「ごめん、こっちの部屋勝手に使っちゃったんだけど、良かった?」


 左側はバアルくんが使ってるらしい。


「いいよ。僕は、こっち使わせてもらうね」

 

 部屋なんて何処でも全然構わない。

 僕は右の部屋を開ける。

 結構広い部屋だ。棚とベッドがある。


 これはシェアルームってことだね。

 プライベートルームがあったからまだよかったよ。部屋には入らないようにお願いしておかなきゃね。


「あのー。お互い、部屋に入る時はノックして、返事を待ってからにしない?」


「そうだね。それがいいと思うよ。オレは別にいいけど、リオン君は嫌でしょ?」


「そ、そうだね。ごめん」


 なんだか隠し事しているのが申し訳なくなってきた。でも、これは知られる訳には行かないんだ。知られたらみんな変な目で見てくるかもしれない。


「ううん。いいよ。オレさ、男の友達初めてなんだ。ここで少し親睦会しない? ジュース買ってきたんだ。お酒が良かった?」


「あっ、ううん。お酒飲んだことないから」


「そっか。よかった」


 立ち上がってコップを持ってきてくれた。

 なんと気の利く人なんだ。


 コップにオレンジ色の液体が注がれていく。オレンジジュースみたいなものかな?


「ルームメイトに乾杯!」

「乾杯」


 グラスを合わせて飲む。

 僕の場合は服のチャックを開けて口に運んでいく。


「プッ! そうやって飲むんだ!」


「うん。なんで?」


「不思議だったから。どうやって飲むのかなって」


「食べる時はもうちょっと開けないと食べられないけどね」


「邪魔じゃない? それ」


「ううん。これは母さんが僕の為に作ってくれたんだ」


「そっか。いいお母さんだね」


「うん」


 僕はこの日初めて友達ができた。

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