愛が人を殺す村

K.night

第1話 始まりの蝉

隣の隣、またその隣に住んでいるミトさんが、丸太の上に座って、糸を引いていた。


糸の先には、蝉の脚。


ぶんぶんと、蝉は一生懸命糸の先に飛ぼうと頑張っていた。


「ミトさん。」


「何だい、ハナちゃん。」


「かわいそうだよ、蝉さん。」


「どうして、そう思うんだい?」


言われて私は考えました。何がいけないのだろう。


「だって、その蝉さん、遠くへ飛んでいきたいんでしょう。」


「飛んで行ったら幸せなのかい?」


「自由って、幸せでしょう。」


ミト君は糸を外さず、手だけ糸から手放しました。


勢いよく蝉は飛んでいきます。


「ねえ、ハナちゃん。」


「なあに?」


「君が自由に、そうだ、例えばこの道をどこまでもどこまでも歩いてゆけるとしたら、幸せかい?」


「歩いて行けるけど、選ばないだけだよ。だって、ママとパパが心配しちゃう。」


「じゃあ、幸せじゃないじゃないか。自由は。」


ミトさんと話すといつもこうです。


まるで自分の方が間違っているような気分になるのです。


「ミトさんはいつも難しいことを言う。」


そういうの、嫌い。それは決して言ってはなりません。


思ってもなりません。ここはそういうところなのです。

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