切替えの極意 〜琴平山〜

早里 懐

第1話

今日は息子の試合の送迎で遠路はるばる福島県の喜多方市にやってきた。


喜多方ラーメン発祥の地と言えばお分かりになる方もいるかと思う。


突然だが、今回は一つ残念なことがある。

コロナウイルス対策で試合観戦ができないという事前連絡があったのだ。


子供たちの試合はプロフェッショナルの試合と比べてしまうと、もちろん質は落ちるがプロフェッショナルのどんなにすごい試合を見るよりも心を動かされるものだ。


これは子を持つ親には同意を得られるのではないかと思う。


しかし、今日の観戦禁止は決定事項だ。


落ち込んでいてもしょうがない。


息子たちにもよく言っているではないか。


試合に負けた日はとことん悔しがって、次の日からは気持ちを切替えて練習に打ち込めと。


私も自分の言葉通り気持ちを切替え山に登ることにした。


あとラーメンも食べて、温泉入って、道の駅で買い物もして…。


だめだ。

やりたいことが多すぎる。


ということで、効率よく行動し、より多くの感動を体験するために旅のしおりを作成した。


**********************

[旅のしおり]


メンバー:

はるたろう 以上1名


旅のテーマ:

試合を観れず落ち込む心をリフレッシュ


工程:

琴平山でひいひい

喜多方ラーメンをずるずる

蔵の湯でぬくぬく

道の駅をぶらぶら


持ち物:

登山用品一式、ラーメン店の行列に並ぶ根気、タオル一枚、現金少々

**********************


今回登る山は琴平山だ。


私に与えられた自由行動の時間は4時間だ。


それにひきかえて、旅のしおりの工程は盛りだくさんだ。


なるべく試合会場の近くの山を選定した。



琴平山はいわゆる里山だ。


登山数も少ない。


雪の状況次第では引き返す覚悟で登り始めた。


登り始めると早速雪が深い。

さすが冬の喜多方だ。


チェーンスパイクでのプチラッセルで突き進む。


しばらくすると琴平山への分岐に着いた。


ここから更に雪が深くなるが、まだまだ行ける。


距離は長くないため、体力の消耗もない。


あっという間に頂上に到着した。


頂上からは磐梯山がよく見えるはずだが、今日は磐梯山の頂上付近に雲がかかっていたため、その山容を拝むことはできなかった。


上述した通り、今日やることは盛りだくさんだ。


少しの間景色を眺めたのちに、早速下山した。




下山時にちょっとした行方不明事件が起きた。


琴平山への分岐の手前で見覚えのあるチェーンスパイクが落ちていたのだ…。


私のだ。


いつの間にか外れていたのだ。


そのチェーンスパイクをつけようとして私はゾッとした。


もう片方のチェーンスパイクもない…。

行方不明だ。


時間が限られているためどうするか迷った。

しかし、私もハイカーの端くれだ。

山に物を置いてくるわけにはいかない。

私は引き返す決断をした。


暫く歩くと山頂手前で無事にもう片方のチェーンスパイクも保護することができた。


時間を取り戻すため、下山は雪にはまりながらも猪の如く猛進した。


無事に車まで戻ることができた。


次はラーメンだ。


そう、喜多方に来たからには食べずに帰るなどはできない。


そんなことはやってはならないのだ。


私は行列を覚悟していたが、昼時を過ぎていたためすんなり席に着くことができた。


どうやら持ち物リストに記載した行列に並ぶ根気は必要なかったようだ。


山登りを終えた私の体はとにかくカロリーを欲している。

メニュー表には目を通すまでもない。

注文はチャーシューメン1択だ。


注文から提供まではとてもスピーディーであった。


スープを一口啜った。

う、うまい。


あっという間にたいらげ、次は温泉に向かった。


蔵の湯で冷えた体を存分に温めて、汗でクルンクルンした髪の毛をリセットした。


その後は蔵の湯に隣接する道の駅でお土産を購入した。


今日はとても充実した1日だった。


私の好きなことBest3の登山、ラーメン、温泉を全て網羅したのだ。


まさに贅沢の極みだ。


明日からの仕事も頑張れる。


よし、帰ろう!


…。


…。


い、いけない!


気持ちを切替えすぎて、息子の迎えを忘れていた。


息子よ待っていろ。

今行くぞ!!

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切替えの極意 〜琴平山〜 早里 懐 @hayasato

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