第1話 4章 発火

日差しがあるのでチャカは追撃を躊躇い少しの間ができた。


「バァ……」


 黒洞の吸血鬼は喘息持ちのような呼吸をしだした。

 それをみてチャカが思い当たることがあったようだ。


「どうやら生き血を食せなかったようだ

死体の血はまずいし栄養価も大分落ちる」


 それは黒洞の吸血鬼が飲み込んだ建物に生きた人間がいないかった事を意味する。

 だが以前食事をせずに人間が沢山の吸血鬼に鏖殺されている理由は不明。食べ物を捨てているようなものなのに。


「あっヤバい!」


「ん?」


 説明を聴きながらもリュウは冷静でいられなかったが一抹の気配を見つけた。

 遠くの壁側に8歳くらいの幼い女の子だ。

足を痛めているようで小さな手で足を押さえながら。天を仰いでいる。生きてる。


 チャカもそれを認知した瞬間。


『ヒュー』


 黒洞の吸血鬼もそれに気がついたようだ。

奴が起こした吸い上げに女の子が浮き上がる。


「アァー! やだー!やだよ!」


「死んじまう!」


 女の子は理不尽を前に飲みんでしまう程の

涙を流す。

 そのまま吸い込まれてしまいそうだ。それをみてリュウは駆け出す……

 バシッっと背中を引っ張る感触がある。どうやらチャカが止めたらしい。リュウは言う荒く強い形相で。


「離せ! 護衛はもういいから!」


「勘違いをするな! オマエが死んだら契約で罰を受けるのは俺だ!」


 お互いに風が宙を切り裂く音で五月蝿い中

声を荒げる。


ーーそうか自分の為だったのか……というかコイツ吸血鬼だった、そうだよな人間なんて食事だもんな。


「でも! 無理やりにでも前を向かなくっちゃって! 止まっちゃいけないって……

俺の忘れた俺が言ってんだ!」


 今リュウの意識を支配しているのは人を土塊のように扱う吸血鬼への憎悪だが、その憎悪の対象はたった一つであるはずなのに何処か八つ当たり的なニュアンスを帯びていた。

 何故見ず知らずの枯れた命が心を痛ませるのだろう。リュウはその女の子を知っているような気がしたしそうでないような気がした。

 瞬間リュウの頭に知らない優しい声が。


ーー尊い命だ。


 それは優しい男の声だった。その言葉を契機に。

 リュウは咄嗟に腕で十字架を作りチャカにそれを見せつけた、吸血鬼にとって十字架は弱点である。

 それにはチャカも例に漏れない結果反射的に顔を覆うために背中から手を離してしまった。


「しまった」


 強い風に身体中を揉まれる。リュウの身体は女の子と違って何かに捕まって抵抗しようともしなかったので。

 女の子が瓦礫から手を離してしまった瞬間に、黒洞の吸血鬼の眼前へと行き着いたがリュウに勝算は無い。

 だがリュウの脳内には太陽で燃えない吸血鬼が燃え上がる情景が見える。

 本能でリュウの右手から火炎が出た。

その火炎は黒洞の吸血鬼を覆う。奴は苦しそうにのたうち回る。必然回復するために血を呑むので攻撃が止む。


 そして奴の口元に目掛けて飛んできた女の子を守るように抱きしめる。

 だがなぜだがリュウの身体も燃えだす。


「アァ!」


 身体に火が着いてすぐに気がついたらいつのまにか元の日陰がある壁際に戻っていた。


ーー燃え尽きる前にダッシュで俺を避難させたのか? あれ?


 実際チャカも太陽に焼かれた。

そしてリュウの考えた通り身体が燃え尽きる前に日陰に入った。

 日陰に入った事で二人の身体を包む炎は

消えた。

 だがチャカの顔は怒り一点でこちらは消えそうも無い迫力だ。正に鬼の形相。



***


設定公開(呼び飛ばして良い)


前にチャカが異形の吸血鬼は人型よりも

弱いと言っていましたが、

じゃあ芋虫(異形)よりも爪の吸血鬼達(人型)

が強いかと言われたらそんな事は無く

イメージは、

人型(例爪の吸血鬼)≦異形<人型(例チャカ)


そしてリュウがチャカに対して十字架を

見せましたが効きません。

何故なら十字架の吸血鬼に対する効果は

十字架を見せた本人に信仰心がないと、

いけないからです。


***


 黒洞の吸血鬼はよほど炎が効いたのか、

グッタリと伏して、回復のため犬のように血を舐めている。

 そして女の子もリュウのすぐ横で倒れている。恐怖で気絶したのだろう。


『ダン!』


 リュウを壁に軽く押し付ける。契約で主を傷つけてはいけないから手荒な真似は出来ない。


「俺の力まさか残滓があったとは……天下乃それすら童に渡るよう仕向けるか」


 チャカは頭に天下乃を浮かべ借りを返す者として刻んだ。

 もう怒りはないたまたまリュウに怒っているように見えただけで壁に押し付けたのも当てつけである。


「さてこれからどうしたものか面倒臭い返す借りが増えたな」


 リュウはチャカの発言とさっきの事を結びつけて、ただ疑問を言う。


「あの炎ってお前の力なのか? つーかこの右手も」


 天下乃がリュウに施した処置の内一つ目

強力な火炎の吸血鬼『チャカ ファイラーム』と契約し魔術の因子"血痕"が刻まれる。


「火炎は俺の力で右手のそれは血痕、吸血鬼との契約の証だ、まあ俺も良くわからん人間と契約した事がないからな、その血痕がまさか俺の力を与える物とは知らなかったが待てよ契約内容が力を与える物ならこの童を殺しても罰はさほど無いはず……」


 チャカは心の中で心の底から嫌なにやけ顔をする。


「おい! 後ろ!」


「ん?」


 初めチャカはまた黒洞の吸血鬼が回復を済ませたのだと予想していた。

 だが違う振り返った瞬間何者かが顔にニンニクを擦り付けた。


「グァ……」


 十字架と違ってこちらは使用者を選ばない

チャカはリュウの元に倒れる。

そして続け様にリュウにもその魔の手が及んだ。


「ちょ なんで俺まで」


『バダン!』


リュウも倒れた。


***


「あれ? こっちの小僧は吸血鬼じゃねーのかいやすまんすまん燃えてたからつい? いや違うな吸血鬼みたいで人間みたいな? なんだ? カリフラワーとブロッコリーのハーフかよお前は」


 衛助は軽くとても申し訳ないとは思っていないような口ぶりで謝った。そして一瞬考える。


ーー吸血鬼の成りかけ? いや違うな分かんねえ。


「シュオー」


 だが考えている暇は無かった。早く標的を滅ぼさなければ。


 チャカの予想より遅れたが黒洞の吸血鬼は

回復した。

 弱った犬のような姿勢も落ち着き、再びその恐ろしさを空間に放っている

 リュウらは倒れ黒洞の吸血鬼は立ち上がっている。

 状況はひっくり返ったたった一つのニンニクで。


 タオルでニンニクまみれの手を拭うそして

チャカの顔にダメ押しとばかりにそのタオルを押し付ける。


「お前! 訳ありだろ! 殺しはしないがそこで眠っててグンナイ!」


 粋なダジャレ。くんない? とグンナイ(おやすみ)がかかっている。

 そして視線を黒洞の吸血鬼へと向ける。


「さてこの芋虫野郎倒せばもう全滅だろう吸血鬼は」


 今一度状況を振り返る。


ーー上の建物は消えちまったまあ救助は終わってるから良いとして、問題は穴の中恐らく、道中で保護した16人とここにいるコイツらが生き残り。


 刀を抜いて芋虫野郎にその刃先を向ける、

中段の構えだ。

 だが標的と距離がだいぶある。本来刀の間合いの外だ。だが魔術を使えば問題ない。


 真っ直ぐ向けられた刀の影が延びる、

そして刀を上に振りかぶり真っ直ぐ振り下す。

 その光景は横から見れば正に文房具の。


『鋏おろし』


 延びた影が刀を振り下ろすと共に宙に浮き上がる。

 鋏で言う下側の刃が影で出来ていて

黒洞の吸血鬼を綺麗に断ち切った。

 心動 衛助の肩に刻まれた影の血痕が怪しく光っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る