奇血病躯

前藤

第1話 少年は藁ではなく鬼を掴んだ


 吸血鬼それは70年程前にこの日本大陸に侵攻し戦争から立ち直りつつある地を再び地獄に造り替えた化け物。

 英雄によって勢いを失った今彼らが奴隷として扱われ始めたのがここ数年の話。

 彼ら吸血鬼の故郷があると信じ、それを探し資本にしようと画策する者と吸血鬼を滅しようとする者とで今の日本の上は混乱を極めていた。


 東京都某区、時間帯正午

 その日は太陽が昇っていたのにも関わらず奴隷である吸血鬼が暴動を起こし。

 最悪な吸血鬼が復活した。


***


 ##はデパートに来ていた。いや来ていたというよりもここが家なのだ。

 ##は産まれた時から親が居なくこのデパート内にある孤児保護の施設にいた。

 今年高校生と言われる位にまで成長して里親の申し出があった。それで今日はその引き取り日で待ち合わせをしていたのだった。

 デパート内のレジャースポットで遊ぶ子供達が見える。彼らと何度か遊んだことがあったがいつも彼らの語るお話が共感できなかった。弟が産まれて母親が構ってくれないとか、父親の帰りが遅くて寂しいとか。


「キスしたとか言ってたガキがいたなぁ、俺以外あの"施設に子供居なかった"からな恋なんて出来なかったぜ」

 

 だがそれも今日から共感出来るようになるかも知れないとなると心が躍るような感じがした。


「さて最後にアイツらと遊んでやるか ?!」


 再度##が子供達の方を見たら子供達は居なくなっていた。いや存在を認識出来なくなっていた。何故ならアジのように開かれていたからだ。


 その瞬間、頭に鈍い音が響いて##の意識が切れた。


***


 この間も無く死ぬ男は一人で映画を観にデパートに来ていた。

 待ち時間にフードコートにいた時だった、突然建物が崩壊した。

地獄の手前なんじゃないかという深穴が

出来ている。

 何層も階がある大きな地下駐車場が剥き出しになっていて。

 元々上にあった建物が深穴に蓋をしている。

 正に非日常な映画のような光景だ。


 絶望よりも先に、なぜだか疑問が湧き好奇心が出て来ていた男は考える。自分の臓器が落下により潰れている事にも気づかず。



ーーなんで昼間なのに吸血鬼が暴れている?

なんで奴隷的扱いの吸血鬼が暴れている?


 意図せず家族を思う間もなく、

ただその疑問を残して一人の男性の意識はそこで止まってしまった。


***


 同時刻事件現場地上


 ポリスラインが引かれサイレンが青空の下

鳴り響く。

 その内側で仁王立ちを決め、

ジーパンに上着を巻きつている男。

 口に咥えた本日10本目のタバコをゴスロリ女に引っ張られても離さず器用に吸う男。

 なんとも締まらないなりをしているその男の名は心動しんどう 衛助えすけ、吸血鬼を狩る、ヴァンパイアハンターの組織、陽組の隊長格である。


 衛助が深穴に建物が蓋をしているという異様な光景を見下ろし言った。


「チョココロナねみたい」


「衛助あんた何言ってんの?!」


 衛助のふざけた形容をゴスロリの少女もゆるがツッコミを入れた。

 そこで彼女はどさくさにタバコから手を離した。

そして自然な所作で衛助の鼻を摘んだ。

 鼻を塞がれたので途端に息が苦しくなる。

衛助はタバコを吐き出すほかなかった。


「ゲホゲホ」


 タンの絡んだ咳が響き渡る。


「おいタバコを地面に捨てさせるような真似しやがってマナー悪りぃじゃねーか!」


「まだ昼なのに10本目! こっちは副流煙ずっと吸ってんだよ! そっちの方がマナー良くないでしょう!」


 閑話休題、話を戻す。


 チョココロネは食べ方にいくつもの派閥が

ある食べ物この現状に重ねれば。


「いや結構的を射ってるんだってほら救助下から行くか上から行くかそれとも」


「別れて行動しましょ」


 二人の肩に自分の腕を掛ける形で、

若い茶髪の好青年、不破麻広ふわまひろが会話に割って入った。学校の制服に見えるトラッドスタイルの服装をしている。


ーーうわータバコくさー。


 ちなみに二人の身長差があるので

結構腕が辛そうである。


「いや俺一人で足りるわ」


「じゃあ制圧後は僕が救助や後始末を斡旋します」


 麻広は気さくな笑みで返した。

 衛助は刀の入った鞘をブランド物のベルトに慣れた手つきで固定する。

 それを横目にもゆるが言う。


「その間……というか深穴に蓋をしている建物にいる人達の救助はもう終わりそう」


 麻広はこちらの台詞にも同じ笑みを浮かべて返した。


「まずデーパートの屋上に避難して貰ってますからね、後は引っ張り上げるだけです」


 そう深穴に蓋をしている建物は大型のデパートだから救助者も多い。

 避難出来ていない人を救う為に衛助は飛び降りた。

広大で空気の音がする暗い暗い穴に。


「ヴァンパイアハンター陽組心動 衛助いきまーす」


 結局この三人衆は揃いも揃ってポリスラインの内側に入れるような格好をしていなかった。


***


 同時刻深穴内


 ##は深穴で頭痛と引き換えに記憶喪失に

なって目覚めていた。


「で君は記憶喪失で目覚めたらこの深穴で

どうしたらいいか分からないってこと?」


「お、うん」


 彼女は天下乃あまかの、頭を打って倒れていた##を介抱してくれていた。


「でも不便よね名前が無いと」


 天下乃は綺麗なお姉さんといった容姿なので不思議な色気を纏っている。

 そう言って彼女は少しの間思案にふけ。

口元に笑みを浮かべ。


「あなたの運命に沿った名をあげる」


 と言い放った。

 はい? としか言いようがない


ーーこの人は今俺のお母さんになろうとしている!?


「リュウ君ね、理由は勘よ、本当の名前思い出せると良いわね」


 天下乃は未来を見通すような

目をしていた。

 例えるならUNOで勝ち筋が見つかったようなそんな感じ、嫌な目だった。

 というか手から波動拳が出せそうな名前を

つけられてしまってリュウは困惑した。

 その困惑に釣られて現状を思い出した。


 「というか! どうしたらいいの?地上までめっちゃあるし吸血鬼達が暴れてるし俺記憶喪失だしー」


「リュウ君?」


「ハイ、リュウです!」


 リュウはここまでの切り替えは早いなと

思ったここまでは。


「残念ながらこの騒動であなたが生き残るのは難しいあっちをみて」


 天下乃さんは物怖じせず道を指し示すような軽さで指を刺したがその先は地獄だった。

 噛み砕いている途中かのようにひしゃげた

人間たち。

 そしてその残忍さを施された人の数を

 知らしめる血溜まり。

 気がつけばその光景と血生臭さに吐き気をリュウは催していた。


 そして次はお前の番だと現実が次の瞬間やってきた。

 どうやら息がまだある男性がこちらの存在に気が付いて、希望の眼差しを向け助けを求めていた。


「良かった! 助け……」


 吸血鬼に頭を潰された。いとも簡単に雑草をひっこ抜くような軽い感覚に見えた。

 吸血鬼はこちらを見つけ何か言い飛びかかってきた、奴が何を言っていたのかわからなかった。

 死の寸前、奴の鋭利な牙が目前。

 何故だか何も聞こえない静寂がただゆっくりに感じる。これがタキサイキア現象というのだろうか。

 この恐怖の暇でリュウは何かをしなければならないのだろう。

 だが奴の牙がリュウを裂くことはなく大きく後ろに飛んだ形で床に伏せていた。

 どうやら天下乃は銃を携帯していたらしく。その銃声と共に死の予感から引き戻された。


『パン!』


ーー気づかなかったこの人、銃持ってたのか。


「私は今から下に行くからさようなら」 


とても淡白に天下乃は言った。

 それを聴いて思わず戸惑いの声が出たのは言うまでもない。

 助けてくれるんじゃないのか?

とリュウは瞬く間に不安で支配された。そうじゃなくても。

 自分が何者なのか分からない、知識はあるのに記憶がない状態で正直気持ち悪くてしょうがない。

 それでも無理矢理にでも前を向かなくちゃ

ならない気がした。

 そう自分が忘れた自分がそう言っている。


ーー気持ち悪い……


***


プロフィール(見なくてもいい)

リュウ(主人公)

主人公

年齢高校1〜2年くらい

髪は無造作な黒髪(薄くワイン色)

記憶喪失だけど知識はある

(個人的な情報は忘れていて一般教養はある)

一番覚えているのはネットスラング


***


 同時刻


 とある宗教団体儀式場大広間

 

 床に執事のタキシード服を着た男が7人

雑に散りばめられ死んでいた。

 鮮血を思わせるカーペットが更に血で染まっている。鮮血を思わせるのは此処が吸血鬼信仰の場だからだ。

 この殺人現場を作り上げた青年は余裕そうに手の塵を払う。


「スゴイですね」


 愉快な笑い声と拍手を送りながら現れた、

その男はまるで仲間が死んだのを悲しんでいるようではなかった。


「君名前は?」


 そう聞かれたら青年は淡々とした口調で

答えた。


有我あるが うつりヴァンパイアハンター」


 そして立て続けに。


「今東京で大規模な暴動が行われているな? 答えろあれほどの頭数の吸血鬼全部が

未契約な即ち人殺しできる奴らな訳がない 

どうやって主に不殺の契りを無効化した?」


 日本国内の吸血鬼は大半が奴隷で人に危害を加えないという契約を政府にさせられている、つまり人に危害を加える吸血鬼がいるという事は、政府を通していない未確認の吸血鬼か契約を無効化した吸血鬼のどちらかがいるという事だった。


「彼らは私の12番弟子とは言え良くも7人も殺れましたね」


ーー話聞けよ!


「さて私も名の乗れば私はカーティス、常夜吸血鬼崇拝団体大司教」


 カーティスから穏やかな殺意が溢れた。だがそれは映にとって開戦のゴングには足りなかった。


「もう一つ教えてやる俺は紅魔術は使わない

低級の吸血鬼を使役して戦う、それはもうコキ使う」


 空気に変化の兆し。


「コロスゥゥゥガキィィ」


 ニッコリ笑顔が一変、そして洋館内の穏やかな殺気がヒリヒリとしたものに変わって満ちた。

 なぜ映が煽ったのかそれは吸血鬼が嫌いからきている。

 カーティスが怒ったのは言わずもがな吸血鬼を崇拝しているので愚弄されたのが我慢ならなかったのだろう。

 煽りに成功した映、殺す意義を見つけたカーティス。

 要するに2人とも殺しに差し支えない状態になった。


***


設定公開

有我 映 (あるが うつり)

16歳


非合法なヴァンパイアハンター、天下乃の指示で吸血鬼信仰の館に来た。


***


 一旦戻って場面は深穴内


「待って置いてかないでくれ!」


 リュウの頭は真っ白に、心臓は縛りつけられるような感じがしている。

 それは身体の一切を支配した正しく恐怖、

その様子を受けて天下乃は。


「じゃあ自分の身を守る方法を授けてあげる」


 おもむろに天下乃はリュウの顔に自分の顔を近づけて艶かしく目を真っ直ぐ見つめ。


「目を閉じて」


 深く唇を重ねた。一つは恐怖心を消すためもう一つは。

 リュウに三つの"処置"を施す為。


「これで大丈夫あなたにおまじないをかけたの」


ーー!?


 リュウの頭は以前真っ白、心臓も苦しいままでそれに赤く染まる頬がプラスされた。


「それじゃあまたね」


 後ろを頭で振り返る形で天下乃は小悪魔な笑顔でそそくさとその場を立ち去った。

 そしてそれを皮切りにしたかのように吸血鬼が襲ってきた。

 吸血鬼は鋭い爪でリュウの二の手を抉った。

 あまりの勢いで痛みはないが驚きがある、

そのせいでリュウは助けを呼ぶ声も驚く声も出ない。


『おかしいな切り落ちるはずだが……!?』


爪の吸血鬼は驚愕しただかそれは。


『リュウの肉体が彼の切断を拒否』したからではない。これを見たのだ、治った腕そして知っているはずのドス黒い覇気。


「オマエら!こっちこい!」


 一気に5体の吸血鬼が駆けつけた。

 それぞれに鉤爪が付いていたし中には

カマキリのような形状もいる。

 流石にリュウからしたら抉れるだけでも

致命傷になり得る。

 だが奴ら吸血鬼が攻撃、恐怖の対象としたのはリュウではない。


「かかれ!」


 5体一斉に迫ってきたがその攻撃を二の腕を押し付けるようにいなし。

 鎌の吸血鬼は鎌をもがれ。

戦慄する間に胴はぐちゃぐちゃにされ。

 次に2体一斉にパンチキックと破裂して

いった。

 どうやら彼らには逃げるという選択肢はないようだった。

 逃げることすら叶わないそういう本能が走ったからだろう。ならいっそ一太刀くらいはと僅かな思いで爪を立てたがいつのまにか見えていた映像が暗闇に切り替わった。


 生き残っていた3者一斉に。


 天下乃がリュウにした"処置"の内一つ目。

強力な吸血鬼との契約これで、

強力な吸血鬼『チャカ ファイラーム』

を使役するに至る。


「契機は戦線離脱するまでだな」

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