星祭のザネリ
マイケル
星祭りのザネリ
午後の授業。
ボクは暗い顔をしてるやつが嫌いだ。そういう人間を見ると徹底的にからかわないと気が済まない。
いつも一人ぼっちでぐずぐずしているあいつをからかうのが楽しかった。
ボクは金持ちで優しいあの子と話すのが楽しかった。なのにあいつは貧乏で勝手に孤立してるくせに、
あの子と仲良くしているのが気に入らなかったんだ。
でもそんなこと、今はしてない。てか、できない。
学校が終わった。桜の木の下で、何人かが話しているのが見えた。
話の内容は多分、今日の祭りのことだ。
ボクは走り去った。あんな話聞きたくないから。
学校が終わって何時間か経った後、あの祭りが始まった。
近くの川には沢山の明かりと、花束がある。
ボクの友達だったあの子が、ここで死んだ。
なんで死んだのかって?それはボクのせいだ。
あいつに意地悪をしようとしてボクが川に溺れたところを、あの子は助けに来たんだ。
ボクが船に戻ったら、あの子は見えなかった。
ボクは自分がしたことを理解してお父さんのところに逃げた。
あの子のお父さんもその時川に来てたけど、あの子が川に入って45分経ったとき、諦めた。
それからあいつとは口もきいてない。聞きたくない。
ボクはこの祭りの会場から離れた丘に来た。
丘から夜空を見上げると、たくさんの星が輝いていた。
白いぼんやりとした銀河の川も見えた。
そういえばあの時の午後の授業も、あの川についての授業だったな。
いつもは聞いてない授業の内容を、ふと思い出した。
ボクは丘に横になって、目を閉じた。
さっきの夜空を思い出す。真っ黒な南の地平線。さそり座の赤い星。
ずっと目を閉じていると、鉄道の音が聞こえた。
きっとこの鉄道は銀河を走っているのだ。ボクもこの列車に乗ってどこまでも行きたい。
そう、銀河の果てのどこまでも___
「ザネリ。」
ふとそう呼ぶ声が聞こえた。
「こんなところでどうしたんだい?」
声の主はあいつだった。なんでこんなところにいるんだ!
「列車に乗ろうとしたんだ。銀河を駆ける列車に。」
「そうか。なら乗り遅れてしまったね」
すると奴は丘を下ってこっちに向かって手を振った。
「こっちにおいでよ。一緒に祭りに行こう。」
あいつの笑う顔を見て疑問が浮かんだ。
この祭りにはあの子が死んだという、事件がある。それはあいつもよく知っているはずだ。
そしてその原因はボクだ。ボクがあの子を殺したようなものだ。
あの子のことはあいつも好きだったはず。なのになんでそんなまっすぐな笑顔を、この人殺しに向けられるのか。
「いやだね。お前となんかいくもんか」
「どうして?おいでよザネリ!」
ボクが背を向けてもまだボクの名前を呼び続けている。
「一緒にお話ししようよ」
「ボクはお前とはもう口もききたくない!」
「実は僕も列車に乗ろうと思ってたんだ。でも、僕もおいていかれてしまったよ。」
あいつに振り返った。
「だから、いいじゃないか。話そうよ。今夜乗り遅れた者同士さ!」
「お前はどうして、そんなにボクなんかと仲良くしたがるんだ!」
「え?」
「ボクはお前のことをずっといじめてた。お前も嫌がってたくせに、それにあの日の事故だって、ボクが川に溺れたせいで起きてしまったんだ。こんな最低な奴と、どうして仲良くしたがるんだよ!今だってボクはお前のその優しすぎる性格に腹が立っている。今すぐからかってやりたいよ!あの事故の後も、いっぱい泣いたのに、何で泣いたのかわからない。なんで博士が川で45分も待ってたのかわからないんだ。
それがわからない限り、ボクはお前みたいに優しくなれない。みんなの嫌われ者で、意地悪な奴のままなんだ!ボクみたいなやつがお前みたいなヒロインなんかと、関わっちゃいけないよ」
あふれる思いを振り絞ってあいつに言った。何秒か後に、あいつから返事が返ってきた。
「…ザネリ、南の空を見てごらんよ」
指のさされた方向を見ると、美しい満月が浮かんでいた。
「綺麗な満月だ。あの月をピカピカにしたのは君だろう?」
「…お前は何を言ってるんだ?」
「ザネリも探してるんでしょう?彼は暗い銀河の果てに行ってしまったけど、
月をピカピカにして照らせば見つけられるかもしれないじゃないか」
あいつの目には満月が映っていた。
「そんな、僕はヒロインなんかじゃないさ。僕は君を助けたい。だからこうやって呼んでいるんだよ。」
「知らない!!ボクはあの子…カムパネルラが死んでから、考え方は変わったけども、根本的な性格は変わってないよ。ボクは意地悪だ。嫌われ者だ。それでいいだろ。」
ボクはあいつ…ジョバンニの反対側に向かって走った。
「待って!ザネリ!」
「ボクはもう変われない。君とは仲良くなれないよ」
目から涙が溢れてくる。
「…きっと明日も意地悪なんだ」
遠くからジョバンニの声が聞こえる。
「ザネリ!ザネリ!!」
無視して走り続けた。
やっぱりあいつは嫌いだ。カムパネルラの最後の最後まで、一緒にいたんだから。
それもこんなに綺麗な夜空を、列車で旅するなんて。
ずるいよ。
目を塞いでいたい。そうすればボクも旅の終わりまで連れてってくれたかもしれない。
街にたどり着いて、路地裏を見た。すると小さい男の子が一人で泣いていた。
ボクは泣いている奴をからかうのが大好きだ。
「今日もまた誰かを嘲笑うんだな、ボクは」
空にはピカピカに磨かれた満月が輝いていた。
明日もきっと意地悪だろう。
星祭のザネリ マイケル @mai610
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