号外号外!!健康健康!!

悪本不真面目(アクモトフマジメ)

第1話

おのれ、タンパク質め。おのれ、ビタミンめ。おのれ、脂質め。おのれ、カルシウムめ。おのれ、炭水化物め。おのれおのれおのれ・・・・・・。


授業参観日だった気がする。小学五年生の頃。特別な授業で、何故かあの時の僕はこの『塩』の授業に目を輝かせてた。なんか塩について語ってた授業で、とにかく塩の授業だった。塩分高めのこの特別授業で僕は決心した。海賊王に俺はなるぞ!ではなく、海のしょっぱさではなく、僕はこの授業の内容に近い職業に就きたいと思った。ついこの間はマンモスの復活を夢見たばかりだと言うのに、この時はマンモスより塩に変わってた。と言っても別に塩関係の職業に就きたい訳ではない。もっと研究や化学者のような類。それで色々調べて辿り着いたのが、栄養士だったのだ。善は急げ!すぐさま行動した。


父親に黙って、あまり我がままを言う方ではないが、勝手に栄養関係の本をよく知る本屋のおじさんに注文した。その本はシリーズもので所謂、子供用の絵がたくさん描いてある学習本。『炭水化物』『脂質』『たんぱく質』『ビタミン』『カルシウム』というタイトルの計五冊を購入した。今考えると一冊千二百円くらいするから、合計で六千円と結構な金額である。お菓子買ってとよく言う方がタチが良いかもしれない。とにかくその本を読んで読んで、テンションを上げてた。

「うぉービタミン、うぉー脂質、うぉーたんぱく質!!」

あの頃に推し活が流行っていたら、自分は栄養素を推して活動をしていただろう。僕は、流行には流されないが、他人が納得しづらいものに流されてしまう。舞い上がりやすいタチなのだ。


この時の情報源はネットも使うが、どっちかというとTVだった。栄養士になると決めて、僕はTVもそれ系を熱心に観ることにした。『どっちの料理ショー』『元祖でぶや』今思うと、栄養士と関係がない番組だなと思う。特に『元祖でぶや』は真逆かもしれない。この番組で学んだことはウッチャンナンチャンの南原清隆さんは香川県出身だということだけかもしれない。香川県のロケに南原さんが待っていた。もう一つ見ていた番組があって、これが一番の栄養士らしい番組だったんだが、嘘の情報を流してしまって打ち切りになってしまった。ネバーギブアップ。


栄養士という夢、希望、未来を夢見て羽も生えてないのに舞い上がっていた。インプットしたものをアウトプットしたい。読んでいった本やTVの情報を、血肉としてまさしく栄養素を他のみんなにも分け与えたいと思った。みんなも健康になろう。小学五年生の男子はそう思った。これぞ栄養士を志す若者のあるべき姿だと、僕は思っていた。僕が通ってた学校は三回路線を変えて一時間近くかかった。朝は六時くらいに起きていたが、眠くてよくぐずり、七つ上の兄がキレていた。栄養士という夢の栄養素で舞い上がっていた僕は、ぐずらず早く起きて、すぐに学校へ向かった。わくわくしながらアレを持って。そして、教室に一番乗りして、みんなが気づくように勝手に、画用紙をセロハンテープで貼った。おそらくみんなの思ってる倍は大きいサイズの画用紙。そこには大きく『栄養新聞』と書いている。実際、新聞に近い縦長サイズのA4サイズよりも大きいA3サイズだった気がする。僕は作文とか選ばれたりしなかったが好きで、いつもみんなより多く書いていた。今思えば、まとめるのは得意ではなかったかもしれない。そんな僕だから、中身もわちゃわちゃで、基本的に本に書かれていることをそのまま書いているがそれ以外は無駄なほどの栄養素への自分の思いが書かれていた。第一回は『炭水化物』を特集していた内容で、「炭水化物はすごく大事でもっと評価されるべきだ。」といった当たり前のようでズレたことをひたすら書いていた。


待っていると、同級生が次々と入って来て、もちろん扉に貼ってるものだから必ず目につく。見た人たちは当然のごとく戸惑っていた。それは平穏な一日に何やら泥水でもさされたような嫌さがあったことだろう。体が重くなり前へと進みずらくなる。

今ならお察しできるが、この時の僕は、栄養に侵されていた。担任の先生の反応はどうかと気になるかもしれないが、全く覚えていない。自分にとって不都合で不愉快だったのか、透明だ。透明歴史。もちろん一時間目の授業までには剥がして、くるくる巻いて輪ゴムで縛った。さて、僕はこの後も計四回はこの『栄養新聞』を書き続ける。一回目『炭水化物』二回目『たんぱく質』三回目『ビタミン』四回目『脂質』毎週水曜日に宿題をする時間を削って書いて貼っていた。周りからは「やめて」とは言われていないが、望んでいる人は誰もいなかった。しかし、舞い上がっているので関係がない。この時の僕には『やめる』という選択肢はなかった。ところが、終わりを迎える出来事がおきてしまった。


学校の掲示板に貼られた原稿用紙。それは小説だった。クラスの中の一番面白い男子の書いた、RPGのスライムを主人公としたギャグテイストの小説。これは大好評で面白い、面白いとなってしまい、これもしばらく定期的に貼られるようになった。

その第一回目の人気っぷりに、なんだか扉にどかどか貼られている自分の新聞が、それも紙の大きさが原稿用紙の何倍もあるので、余計に虚しく見えてしまい。誰かに伝えもせずに勝手にやめた。よく探したら『やめる』という選択肢はあったのだ。その後、誰もそのことについて聞いてこなく、おそらく彼ら彼女らにとって『栄養新聞』は透明なスライムのような透明な歴史になってしまったのだろう。しかし、僕にとっては何十年、約二十年経つ今ではこの記憶黒黴のように黒ずんでしまっている。


ここいらで終わるとしよう。腹がへったコンビニ行って、何か買ってこようかな。足りなかったらまたいつものようにカップ麺食べればいいか。

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