十人十花 ~異世界で植物の力を借りて、人も魔獣も魔族も癒していたら、聖女と呼ばれるようになりました~
唄川音
第1章
1.神のお告げ=前世の記憶の欠片
「シュゼットって聖女さまみたいだな。みんなの体を健やかにしてくれる、本の中の聖女様」
「すごいのはわたしじゃなくて植物だよ。聖女だなんておこがましい……」
「町のみんながそう言ってるぞ。冬風邪を防いでくれたシュゼットは聖女だって」
エリクにそう微笑まれたシュゼットは、最初の日のことを思い出した。
シュゼットが神のお告げを受けた、基、「前世の記憶を思い出した」日のことを。それがすべての始まりだった。
『――父さん、これって水蒸気蒸留装置だよね?』
五歳のシュゼットの口からよどみなく出た言葉に、父親のセドリックは目を見開いた。
『シュゼット! お前はとても賢いな! 父さんたちの話を聞いて、理解していたんだな。そうだ、これは水蒸気蒸留装置といって、ブランデーを作るための機械だよ』
『ううん、知ってるの』
『……知ってる?』
これが、シュゼットが最初に神のお告げを受けた、基「前世の記憶の欠片」を思い出した出来事だった。
さらにシュゼットは水蒸気蒸留器を使えば、植物から精油を抽出できることも思い出した。
それもそのはずだ。シュゼットは前世ではフランス人で、植物の力を借りて、人々を癒す仕事・アロマとハーブでテラピストをしていたのだ。精油の蒸留など日常的に行っていた。
しかし前世の記憶を取り戻したこの時、シュゼットは今世ではまだ五歳の幼子だった。
そのため、これが自分の前世の記憶だとは思わず、「これは神様が自分の役割を示すために見せている不思議なイメージだ」と勘違いをした。
そしてそれ以降もずっと、前世の記憶を神のお告げだと勘違いをし続けている。
八歳になったシュゼットは父に頼み込み、自分専用の小さな水蒸気蒸留装置を作ってもらった。魔法動力の冷却装置はとても子どもに用意することができなかったため、井戸水を使うように言われてしまった。それでもシュゼットは十分嬉しかった。
――これでお告げの通りの仕事ができる!
それからというもの、シュゼットは身の回りにある様々な植物を採取しては、精油を蒸留して集めた。その精油を使い、前世の記憶の知識を頼りに、家族の心身のケアをするようになるまでに時間はかからなかった。
そして十五歳で義務教育学校を卒業すると、家を出て、家族以外の人々のケアをするまでに成長していた。
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