私が神様です(聖女視点)③
やっぱりダメだ。
雰囲気とスタイルに惑わされるな。
国も警戒する宗教団体の現トップだぞ?
心を許せば破滅ロード一直線だ。
なんとかして信仰の対象から俺を外してもらおう。
「女神様との二股はよくないんじゃないか?」
「確かにそうですね」
「ほらな? ここは女神様一筋で頑張っていこう」
「わかりました。女神様のことは忘れて、勇者様だけを崇拝いたします」
「なんでそうなるんだよ!」
おかしいだろ!
女神と勇者の二択で、なんでぽっと出の勇者を選ぶかな?
こいつもしかして、アルカ以上にチョロいんじゃないのか?
そのうっとりした顔を近づけるのもやめてくれ。
「ダメだって! 聖女が女神を信じないとありえないから」
「確かに私の力は女神様から授かったものですが、力の源は私が信じる心です。信じる対象が代わったところで、その心が本物ならば問題はありません」
「問題大ありだろ! 急に乗り換えたら女神様が怒るぞ?」
「むしろ私が起こっています。私が辛い時、どれだけ祈っても返してくれませんでした」
「それはゾーイの能力のせいだから!」
「そんな時、私を救ってくれたのはあなた様です。あなた様こそ、私にとっての真の神なのです」
ついに神様扱いされちゃったよ俺。
勇者の次は神様ですか?
勘弁してくれ!
これで勇者ですらないとバレたら確実に殺されるじゃないか。
「俺は神じゃないですから!」
「あ、勇者様!」
俺は逃げ出した。
一目散に部屋を飛び出した。
怖すぎてこの日は一睡もできず、俺を探して名を呼び続けるセミレナの声に怯えて過ごした。
◇◇◇
翌日の朝。
俺たちは村を出発した。
村の人たちにいっぱい感謝されて、見送られながら。
「ソウジ君、眠そうだね」
「……まぁな」
「今日は僕が操縦しようか?」
「いや、大丈夫。何もしてないと寝ちゃいそうだから」
「寝たほうがいいんじゃないの?」
「……そうもいかないんだよ」
俺だって眠いよ。
眠いけど!
後ろで俺に向かって手を合わせて拝み続けてるセミレナが怖すぎるんだ!
「セミレナはなんでずっと祈ってるの?」
「勇者様に感謝を伝えているのです」
「そうなんだ! じゃあ僕も一緒に祈ろうかな!」
「よいことです」
まったくよくないから!
昨日の夜は怖くて眠れなかったし、今寝たら何されるかわからないという恐怖で、眠気と理性が戦っている。
こんなんじゃ一向に休まらない。
どうすればいいんだ……。
「セミレナ、感謝を伝えるのはいいことよ? でも、偶には休ませてあげないとソウジも疲れてしまうわ」
困っていると、なんとエリカが助け舟を出してくれた。
俺は驚かされる。
「私たちは一緒に旅をする仲間よ? ここでは立場を気にせず接しましょう」
「ですが私は……」
「ならソウジに聞いてみましょう。ねぇソウジ、あなたはどう思うかしら?」
「お、俺もこれまで通りがいいかな? 仲間なんだから助け合うのは当たり前だろ?」
「……わかりました。勇者様がそうおっしゃるなら、いつも通りに」
よーし!
ナイスアシストだエリカ!
って、安心しら急に眠気が……。
「アルカ……やっぱり運転変わってくれる?」
「うん!」
徹夜明け、眠気には逆らえなかった。
目を覚ますと、空は真っ暗だった。
馬車に座ったまま毛布をかけられている。
焚火をした痕があり、セミレナとアルカは馬車の後ろで眠っていた。
「目が覚めたでござるか?」
「俺はどのくらい寝てたんだ?」
「半日くらいでござるよ」
「だから夜なのか」
俺はゆっくりと馬車から降りる。
大きく背伸びをして、両腕をぐわんと回す。
完全に目が覚めてしまった。
「どうしようかな」
月は真上にあった。
夜が明けるまで時間は長い。
「今さらだけど、この世界にも太陽と月があるんだよな」
「左様でござるな。灯りもない故、綺麗でござる」
しばらく空を見上げて、何をするか考える。
「素振りでもするか」
「いいでござるな! 精進あるのみでござるよ!」
どうせ眠れないんだ。
偶には自主訓練をするのも悪くないだろう。
こう見えても、王都にいた頃は毎日やっていたんだぞ?
妖刀を鞘に納めたまま素振りをする。
「十、十一、十二」
「もっと正確に、斬る相手をイメージして振るといいでござる」
「イメージか」
「そうでござる。常に実戦を想定するとよい」
まだまだ未熟だけど、俺も少しずつ実戦経験を積んで戦いに慣れてきた。
いざとなったら小次郎に変わればいい。
その安心感もあってか、出発した頃に比べて不安は減った気がする。
「今は代わりに、他の不安が増えたな……」
アルカの秘密、セミレナの秘密。
どちらも彼女たちの出自や、生きる意味に繋がる重要な内容だった。
「考え事でござるか?」
「ああ。なんか今さらだけど、みんな相応の何かを背負ってるんだな」
境遇、使命、信仰……。
理由は様々だけど、各々が望んで勇者パーティーの一員になった。
魔王を倒し、平和な世界を作ること。
それが使命であり、その先に自分の目標を掲げている。
ただ選ばれたのではない。
彼女たちは皆、選ばれるために歩き続けてきたんだ。
「申し訳ない気分だな」
「そんなことはなかろう。ソウジ殿も立派に役目を果たしているでござるよ」
「運がいいだけなんだけどな」
ゾーイ戦は特にそうだった。
もしも俺に精神汚染が通じていたら、あの時点でパーティーは全滅だっただろう。
バルバトスとの戦闘も、その後の悪徳領主も。
「小次郎に任せきりだったし」
「気にすることはないでござるよ。今の拙者は亡霊、ソウジ殿がいなければ刀も振るえぬ身だ。感謝すべきは拙者のほうでござる」
「そんなに戦いたいのか?」
「斬り合いこそが、拙者の生きる意味でござった」
小次郎は月を見上げる。
懐かしそうに笑って。
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