アイドル育成計画

MERO

アイドル育成計画

「あいちゃん、おつかれさま~。今日のリボン、最後解けちゃってたよ」

 舞台から戻ってきたアイドルグループKのあいちゃんに俺は声をかけた。


「えーやだぁ」


「こんどはしっかり結んでおかないとね」


「うん、じゃあ、やまとにお願いするね」


「わかった」


 俺は日村大和ひむらやまと。弱小アイドル育成プロダクションの社員。

 仕事はアイドルの管理と育成。


「あ、やべっ。連絡忘れた」


 もうそろそろレッスンが終わった別グループの子たちへの連絡をすっかり忘れてた俺はスマホを取り出して連絡する。


『皆、1日レッスンお疲れ様。今日はこれから事務所で打ち合わせだから戻ってきてほしいです。疲れてると思うので事務所付けでいつものスタマの飲み物1つ買ってきてくれていいよ!」


 そうこうしているうちに他の子からチャットが来る。

『やまとー。もう私にはもう無理だよ』


 グループ抜ける話でヤバイなって思った俺はそのチャット相手にすぐに電話。

「ゆうな、だいじょうぶか?」


 うんうんと相槌を打ちながら、近くの事務所まで歩く。

「もうさぁ、むりむりむりぃ」


「ゆうな、この前のサイン会で1番人気だったじゃん。あれ、やっぱり髪色を変えた影響だと思うんだけどさ、俺個人的にはゆうなは前髪と横下ろして2つ結びが似合うと思う、ほら今、ビデオ通話にしてみせてよ?」


 ゆうなは素直にビデオ通話にした。顔は泣いていたのか少し目が赤い。

 困った顔をしながらも髪を2つ結びにして見せてきた。


「めっちゃ可愛い、俺のゆうな。何、照れてんだよ。明日、それな。迎えに行くから」

 

 機嫌がよくなったから電話を切った。

 俺の仕事は女の子をやる気にさせる仕事。

 

 彼女たち一人一人が何が好きで何が苦手で何を言えばいいのか、承認要求強めのアイドルの卵の管理は一筋縄ではいかない。メンテナンスを怠れば、すぐに離脱してしまう。そういう彼女たちの管理を彼女らに恋しているように声をかける。男女交際禁止のアイドルグループの中でほんとにそれを守っている子たちもたくさんいて、俺みたいなやつは重宝される。


 俺?

 女の子を褒めて可愛がって疑似恋愛してお金がもらえればよくない?

 短絡思考だが、久々に誤算があった。


 スマホを見ながら到着した事務所の前には俺の担当の女の子が数十名ほど並んでいる。

「やまと、今日、何の日か覚えてる?」


 2月……14日

 あっっっ。


「やまとの本命はどの子なのよ?」

 

 アイドルたちに詰め寄られる。俺は後ろに下がる。

 これは……逃げるしかないだろ?


「ちょっとぉぉぉやまと――、答えなさいよ――!」


 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れのように、アイドルたちが事務所の前の廊下の脇に摘みあがっているいろんなものを蹴散らかし、俺を追いかけてくる。


 こうなってしまっては彼女らに可愛さは一つもない。

 むしろ、いつもは隠しているであろう闘争心だけがむき出しとなったその姿をみて、俺は本能で逃走している。俺の明日はどうなる!?

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アイドル育成計画 MERO @heroheromero

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