バッファローの群れVSアナコンダ夢の対決
黒イ卵
全ては呪いのせい
俺には三分以内にやらなければいけないことがあった。
まずは大地へ埋めた五つの聖石の欠片へと、俺自身の聖なる力を送る。
合図と共に、五人の聖女がそれぞれの欠片へと聖なる力を送り始めた。
俺は祝福の言葉を唱える。
三分以内、三分以内にだ。
途中、舌が絡れ、噛みそうになりながらも、長くて難解な古代聖語を、一心に祈りながら唱えた。
「ムゲュジムゲュジ レキリスノウコゴ……」
舌を鮮やかに回しながらふと、あの日の事が頭に過ぎる。
ーー既にご存じかもしれませんが、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが、あなたのご両親、なのです……。
あの日、沈痛な面持ちで、執事が告げた。
俺は呪い鑑定の結果を持って、執事へと詰めていた。
その結果が、こうだ。
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れへと変わり果てた両親によって、薙ぎ倒された領地の家々、森、豊かな大地。
決して王都のようなきらびやかさは無いが、堅実に日々を営んできた土地の人々、その実り。
遺されたのは、何も無い荒野と俺、執事、散り散りになった領民達だ。
それでも俺は、この地を興す。
全ては、バッファローの呪いを解くために。
呪いを解く方法を見つけたのは、ほんの偶然だった。
一族の中で、結婚し、子供が出来た者のみかかる、バッファローの呪い。
呪いは当代につき、一度発動する。
言うなれば、直系とその配偶者にかかる呪い。
傍系には掛からず、また、子供の有無が優先されるため、後から子供が出来た、本来なら直系のはずの、兄弟姉妹は助かった。
何かそこに、呪いを解く鍵がある。
俺は直感した。
手当たり次第に血族の歴史を探り、ある文献を紐解いた。
遠い遠い、古の時代。
俺の先祖が力を願い、聞き届けた神が座した。
この地を統べる事で、神は力を貸した。
長く細く続くように。
全てを巻き取るように。
しかし、近隣に新しい神が生まれ、この地の神の力を削ごうと、呪いをかけたのだ。
「……ツマイラウフ ツマイランウ ノギョイスリジャイカ ローファッバポイパポイパ!」
バッファローの呪いよ解けよ、三分以内にこの祝福を捧げん、という意味の古代聖語。
古代聖語早口選手権があったとしたら歴代優勝し、殿堂入りを済ませているだろうと思わせる貫禄でもって、俺は舌を繰り出した。
二枚舌。
本来なら人が持っていないはずの、身体的特徴。
蛇神様の愛し子の力。
直系だけに顕れる力は、ずっとずっと封印されていた。
つまりは、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れの呪いによって。
「……ケスウチョノイメウキュウチョ ア ナ コ ン ダ!」
五つの聖なる欠片には、蛇神様の御名が一文字ずつ、刻まれている。
まるで五芒星を描くように光り出したそれらは、この地に封じられた蛇神様、アナコンダ神を顕現させる。
光が一層輝いて、星の形を示した蛇神様が、俺に入って来た。
三分。三分間だ。
人の身に神を宿せる、制限時間。
祝福の言葉を唱えた時間は、そのまま、神降しの上限となる。
広がれ、富め、我が大地よ。
体を揺らす度に畝ができ、荒れた地は黒くなる。
チロチロとした舌が、崩れた家々をペロリと舐め取ると、新しい家が建った。
踏み荒らされた領地が、かつての姿を取り戻すその時、荒々しい雄叫びが聞こえた。
グルォオオオッッ……!
バッファロー神が気付いたようだ。
俺、もとい巨大アナコンダは、ひらりと跳び上がると、山々を越え、隣の領地へと着地した。
そこには何百頭ものバッファローの群れが、鼻息荒くこちらを見ていた。
軍神ではなく、群神、バッファロー。
新興の神に負ける訳にはいかぬ。
バッファローの群れVSアナコンダ。
睨み合いは数日に及んだ。
当然、三分後に俺は元の俺に戻り、あとは神様同士に任せて退散した。
隣の領地は滅びた。
(完)
バッファローの群れVSアナコンダ夢の対決 黒イ卵 @kuroitamago
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