第14話 黒紫憧さんと4月の日々⑤

 五時間目になった。なってしまった……。


 約二千人の全校生徒が今日の一大行事、部活動紹介を見るため、体育館へと集まる。最初に校長先生のあいさつが有るが、そんなのは前座みたいなもん。いやかの人の立場的にそれはまずいか。つまりはシールつきチョコ菓子の、お菓子みたいなもん。これで体面は保たれるだろう。ほんとうか?


 羽麗ハレイ高校は近隣の学校と比べても明らかに生徒数が多いし、設備が整っている。それは要塞みたいな体育館ひとつとっても明らか。


 こんな都市みたいな人数が集まっているにも関わらず、暑すぎず、寒すぎない。それはきっと気温だけでなく感度すら計算し、調整するシステムが備わっているからだろう。天井付近のアレとかソレとかに。


 うわさによると、創立時から教育を重要視するスポンサーがついており、その援助のおかげで学費に似合わない環境が用意されているとか。なんだか物好きな富豪もいたもんだ?


 一説には代々続く『姓に色がついた』名家とか。はてさて、うちにもついているな。白が。実はぼく、富豪ボンボンだった――!? 


 いや、そんな訳はなく。両親は普通の務め人でぼくはヤマ感が当たり運よく入学できたラッキーボーイだ。当時の両親の喜びようといったら、それはもうぼくが生まれた時より大きかった。ぼくの存在意義とは、果たして? そんな訳で、ぼくの学校での成績は下の中くらいだし、決してなまけてとかではなく、毎度毎度本気をだしてその結果だ。ザマだ。ワハハ! 


 ……どんだけ優秀な人たちが集まっているんだろう、この要塞ガッコウ


 校長先生のお話が終わり、すこしの休憩を経て部活動紹介となる。ちなみに並びは体育館の前から一年生、二年生、三年生の順で、クラスごとに横に縦列を組んでいる。そしてクラスの列は男女に別れており、背の順だ。


 平安時代の武士と比べれば巨人であるところのぼくは、必然、一年生の真後ろに位置している。いやー、壇上がよく見えるな。障害が少ないって素晴らしい。これが平安時代だったら、もっと後ろで部活動の雰囲気とかわかんなかったかもしれないけど、今は令和だからなー。いやあいい時代だなあ。


 先頭であることをかし、ひそかに、だれにも見られないよう、肩で男泣きをする。せめて身長だけは……人前にほしかったなあ……。顔とか、頭とか、そんなのは別枠でいいからさ。服の種類とか限られてくるんだぞう。毎回体育とかで先生の顔を近くでながめるの、気まずいんだぞう。くそう……。


 悲しい自己評価を淡々たんたんんでいると、なんだか聞いたことのある声が響いてきた。ぼんやりとした中に耳を掴んで離さないハスキーさが宿る、外国の美味しくないアメみたいな声だ。ヴィレッジャ・ヴァンヴァ―ドとかに売っていそうなタイプの。


 それが司会進行の教師の声だと理解し、ぼくは今日の行事に戦慄せんりつを覚える。


「あー、テステス。あー、テステス。これもう本番だけど、なんとなくテステス。うわははは!」


 救世ぐぜ導子どうこだ……!

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