小さなバッファロー

クロノヒョウ

第1話



 思えば、ここに来たばかりの頃はみんな恥ずかしがってなんにも喋らなかったっけ。


 少しずつ慣れてくるとみんな元気いっぱいでたくさんお話ししてくれてびっくりしたな。


 それに最初はみんな本当に自由で大変だった。


 誰かが走り出したらみんな真似して走り出しちゃうし、誰かが歌い出したらみんな歌いはじめて大合唱。


 突然服を脱ぎ出す子もいれば急に寂しくなったのか泣き出す子もいたりして。


 外で遊んでる時はどれだけ体力があるのかずっと走ってたよね。


 運動会で踊ったダンスの動画は何度見ても可愛くて今でもたまに見て癒されてるよ。


 私はお行儀よく座っている子どもたちの顔を眺めながらみんなとの思い出を頭に描いていた。


「……以上をもちまして卒園式を終了いたします。卒園おめでとう!」


 園長先生がそう言うと会場は拍手で包まれた。


 保護者席からは鼻をすする音とシャッター音が聞こえてくる。


 子どもたちの成長は毎日感じられていた。


 日々できることが増えていく様を目の当たりにしてきた私の目にも涙が溢れてくる。


 子どもたちの有り余るパワーはまるで全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れのようだった。


 それが今ではちゃんとお行儀よく椅子に座っておとなしく前を向いている。


 その姿にはきっとここにいる誰もが感動しているだろう。


「先生、本当にありがとうございました」

「先生、お世話になりました」


 会場を後にする保護者らが頭を下げながら私の前を通りすぎてゆく。


 拍手を贈る私は泣きながら「卒園おめでとうございます」と声にならない言葉を発していた。


 子どもたちのほんの数年間。


 その数年間でもこうやって見守ることが出来たことに心から感謝していた。


 私にとってはみんなが我が子かのようにかわいくて愛しかった。


「先生さようなら」


「さようなら、元気でね」


 最後に子どもたちに負けじと手を振った。


 これからの素敵な未来と子どもたちの成長を祈って、私はみんなをとびきりの笑顔で送り出した。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小さなバッファロー クロノヒョウ @kurono-hyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ