20240218日 クリアな視界と見たくないもの

 朝早めに起きた。

 すでに朝陽が昇り、晴天になりそうな気配に煽られて起き上がってしまった気もするが、数日寝込んでいた体は、実は曜日の感覚もなければ時間の感覚もずれているので、本当は眠いのか眠たくないのかもはっきりしていない。

 早朝すぎて、スリッパで歩く音もはばかられるほど家の中は静まり返っている。

 しかし、両耳に取り付けられたイヤホンから流れるK-POPのおかげで、ひとりノリノリでパリピになっている自分。その勢いにのってコンタクトも装着してしまった。

 休日は目の休息と1dayコンタクトの節約の為にメガネで過ごすことが多いのに、今朝はとことん視界をクリアにしたかった。

 度数を抑えてあるメガネ生活の霞から5日ぶりに抜け出し、クリアな色彩で雑多に散らかった台所とリビングはまるで別世界だった。

 見えないって、幸せなのかもしれない。


 *


 夕食は具沢山ちゃんこ鍋を作った。

 とにかく冷蔵庫の野菜室の野菜が残りに残っているので、その消費がしたかったし、胃にも優しい温野菜が食べられるというナイスな献立をチョイス。

 男達には肉類を入れてあるので、食べ応えもあるはず。


 ちゃんこ鍋が出来上がったころ、夫が「少し熱っぽいから夕食はいらない」と言ってきた。その代わり「卵焼きを作って欲しい」と。

 胃腸炎をうつしてしまったかもしれない。それなら食べられるときに食べたいものを食べたほうがいいと思い、すぐに作って夫の部屋に持って行った。

 そして、ちらっと夫愛用のグラスを見てしまった。

 見たらきっと落胆すると分かっていたのに見てしまったら、案の定、中にはお酒が入っていた。

 夫は、いつもの休日のように昼まで部屋に閉じこもっていたので、昼食も食べていない。だから、空きっ腹でアルコールを摂取していることになる。

 涙がどわぁっと流れた。

 あっけにとられてこちらを見ている夫に言った。

「具合が悪いときに食べたいものを作って欲しいと言える奥さんが居て、いいね。でも今度からこういうことはお母さんにお願いして欲しい。もしお母さんに頼めないなら自立するしかないよ。私はあなたのお母さんじゃないから頼られても困る」

 あっけにとられた夫の表情に、「?」が追加されたので、要約してもう一度言った。

「お酒ばっかり飲んで好き勝手やってるくせに甘ったれないでって言ってるの」


 卵焼きを作るのは簡単だけど、些細な気遣いが必要で、優しい気持ちがないと上手く焼けない。

 愛情にも似た、美味しく作って美味しく食べて欲しいという度合いが強い料理だとも思う。

 だから、『卵焼きいいよ』とか『卵焼き出来て当たり前』という言い回しには無性に腹が立つ。

 今日の夫は、食欲はないけど酒のつまみに『卵焼きいいよ』という気持ちが見て取れてしまった。

 小さな裏切りと絶望ばかりを見せてくれる夫には、もう2度と卵焼きは作らないと固く誓いを立てて台所に戻り、そのままになっていたフライパンを泣きながら洗った。



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