20240121 溶ける時間と爪

 ビリー・ジョエルのアルバムを聴きながら、推しを追いかける。

 X、インスタ、TikTok、YouTubeを目まぐるしく行き来する。

 韓国のファンカフェに出席届を提出。「출석チュルソク(出席)」とハングルで書いて投稿ボタンを押す。

 日本のファンクラブサイトで推しの笑顔を堪能する。

 肩が凝り、気が付けば日曜日の午前中が終わりそう。

 耳には偉大なビリー・ジョエル。目には推し。眼福。

 けれど、これでいいのか自分、とも思う。

 自分の手には何も残らない。何も生産していない。

 こんな時に編めたらな。

 手に馴染んだ道具と毛糸で、ちょっとずつ編んでいく手間が本当に好きだった。

 それなのに、編んでる最中にくしゃみを連発して、体が痒くなってしまう。いくら好きでも耐えられないくらいに。

 編みかけの靴下は放置したまま。悲しい。

 コットン糸なら編めるけど、靴下やセーターには不向きな糸だし、伸縮性のない糸は編みづらい。

 手が、暇を持て余してる。

 手で、何かを作りたい。

 推しの曲を聴きながら手作業をすることが、何よりも至福な時間で、自分には必要だった。

 時間が溶けてなくなっていく。

 なんか勿体ない。

 どうしたらいいか。

 何をしたらいいか。


 爪の甘皮を取る。

 手の指も足の指も、きれいさっぱり気持ちがいい。

 深爪しない程度に、白いところを切り、やすりで形を整える。

 もう随分とマニュキュアを塗っていないせいか、爪がピンク色に保たれている。

 特に左手の薬指の爪の形が細長くて、バランスが良い。

 全部の指がそうならいいのに。

 親指の爪は分厚くなって、貫録を発揮しちゃってるし。

 隠せない。

 職場の女子達のほとんどがネイルをしている。

 書類を貰ったりするときにちらっと見える指先が可愛い。

 そのネイルの色や柄は、それぞれの個性にぴったりで、自分がするとしたらどんな風にするかなって想像したりする。

 想像だけで、なかなか行動に起こせず、ずっと憧れのまま。

 絵心が全くない自分にはセルフネイルは危険すぎるし、ネイルサロンを探したり予約するのも面倒が先に立ってしまう。

 そこよ。そういうところよ。

 だからあか抜けないのよ。

 もっと、自分に対して美意識を持たないとだめなのよ。

 けど。

 それほど「美」に、こだわりがないから仕方ないか。

 人様に不快感を与えなければいいんじゃないか。

 ハッピースマイルで何とかなるんじゃないか。

 と、楽な方に逃げてしまう自分がいる。

 




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