【更新停止中】飛龍は我らの友である
ジャック(JTW)
飛龍は我らの友である
序章『無垢な子供、無知な子供』
洸龍歴669年/ヒューイ・ガゼット7歳
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風が荒れ狂う夜、遠くから聞こえる飛龍の咆哮が、私の心をざわめかせた。その時、私はまだ幼かった。父は小さな町工場の長であり、母は飛龍の世話をする者だった。私は彼らの仕事を手伝い、飛龍たちと共に育った。しかし、それは決して楽しいことばかりではなかった。飛龍は、私達の国ではただ労働力を提供するだけの家畜として扱われ、彼らの知性は無視され、その存在は軽んじられていた。私は、そんな世間とは逆に、飛龍を友達や家族のように感じていた。そして、その感覚は、私の人生を大きく変えることになるのだった。
*
ヒューイは、食事を急いで終えると、母の怒る声も気にせずに黒龍キングの元へと急いだ。背後から聞こえる母の声は、いつものように厳しいものだった。しかし、ヒューイにとってはそれも慣れたものだった。彼はただ、今は黒龍キングに会いたいという一心で、母の言葉を無視して厩舎へと向かった。
「あの子の飛龍好きにも、困ったものだね」と、ヒューイの父が苦笑いしながら言った。母は、「そうですよ! 飛龍の世話を買って出てくれるのはいいんですけれどね。でも、あの子は興味のないことを疎かにする悪癖があるんですよ。将来どうなることやら……」と、心配そうに文句を言う。父は、そんな母を優しく宥めた。「まあまあ、母さん。大人になっても同じことをするなら問題だけれど、ヒューイはまだ7歳なんだ。望むと望まぬとに関わらず、これからきっと、現実を知って、苦しむ日がやってくる。それまでは、好きにさせてやろう」と、父は優しい口調で言った。
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ヒューイが、厩舎に着くと、黒龍キングが待っていた。彼は黒い鱗に覆われた巨大な龍で、ヒューイにとっては大切な家族であり友達だった。
「ねえ、キング。痒いところはない?」と言いながら、ヒューイは鱗磨き用のブラシで、彼の背中や翼を擦ってやる。これは、ヒューイが少ないお小遣いを貯めて、黒龍キングの為に買ったものだった。すると、黒龍キングは心地よさそうにグルルと優しく唸り、体をくねらせて、ブラシで擦って欲しい部分へと誘導した。「あはは。わかったよ、右翼側だね」と言い、その通りにしてやると、黒龍キングは満足そうにフスーと鼻息を出した。
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黒龍キングの背中に抱きついたヒューイは、彼にしがみつくような体制で言葉を綴った。「ねえ、キング。大人たちは皆、飛龍を『知能がほとんどなく、言葉が通じない愚かなトカゲ』なんて言うんだ。飛龍の飼育教本にも同じようなことが書いてあるけれど……僕はそうは思わない」と、ヒューイは頬を膨らませた。
「キングは絶対に、僕の言葉を理解してくれてる。そして、本当に飛龍の知能が低かったら、荷運びをすることもできないし、飛龍士の指示通りに空を飛ぶこともできないはずだ。……大人たちは、なんてわからず屋なんだろう?」と、ヒューイが不機嫌そうに語ると、黒龍キングは、慰めるようにグルゥと鳴いた。
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ヒューイは、黒龍キングの背に乗ったまま、鱗をブラシで撫でながら話す。「ねえ、キング。僕、あと五年で国で一番の名門、ド=イグラシア飛龍士養成学校の試験を受けるんだ。絶対に飛龍士になりたいわけじゃないんだけど、母さんが『飛龍に関わる仕事がしたいなら、国で一番優秀な学校に通って勉強しなさい』って言うんだ。学費も高いし、僕みたいな平民が通える学校じゃないって、分かってるくせに。母さん、意地悪だよ」と、ヒューイは拗ねた表情を見せた。
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その時、黒龍キングはヒューイを振り返って鼻息荒く低く吼えた。吼えた声が厩舎に反響し、ヒューイは驚いて目を見開いた。もしかしたら彼は、『ヒューイ。自分のやりたい事だけにかまけず、成すべきことを成せ』と言いたかったのかもしれない。確かにこの頃のヒューイは、大好きな飛龍の世話ばかりして、家の手伝いや勉強、他のことを疎かにしていた。何となく彼の意見を感じとったヒューイは、「……うん。ごめん。わかったよ、キング。僕、母さんに謝って、食器洗いしてくる。それに、勉強も諦めないでやってみる」と謝った。
「ちゃんと、やるべきことを果たしてから、やりたいことをやらなきゃダメだよね。僕、頑張るよ」と言って微笑み、ヒューイは彼の背中から降りた。そうすると、黒龍キングは満足そうに唸った。
*
黒龍キングは、思い返してみても、飛び抜けて優しく賢い飛龍だった。彼の穏やかな眼差しと、慈しむような態度、そして温かい舌で私の頬を舐めてくれる可愛らしい仕草は、数十年経った今でも鮮やかに思い出せる。
──黒龍キングが亡くなったのは、私が8歳の頃だった。
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