第21話 お互いに様子がおかしい

 中間テストから解放されて、穏やかな日々が戻ってきたのを謳歌する。


 最近なんだか浩之の様子がおかしい。チョコをあげてからというもの、なんだかなれなれしくなったというか、余計にくっつきたがるようになったというか。


 学校にいる間はそれほどでもないのだが、学校帰りだとかライブ終わりに家に送ってもらってる間はちょっと距離が近くなった気がする。


 話す内容も他愛のないものから、俺自身のことを聞くようになってきた。何が好きかだとか、作曲はどうやっているのかだとか。その程度のことだが。


 俺はそんな浩之に違和感を覚えつつも質問に返答を返す。好きな食べ物とか、母さんとのことは話さなくても家でボイトレしたりしてることを話すと浩之は穏やかにそれを聞いていた。


 あとは学校でクラスメイトと会話したことを話すと、ちょっと不機嫌になりつつも話は聞いてくれる。


 なんか、わかりやすくなったなこいつ。俺のことが親友として好きなのは公然の事実だが、それにしてはやりすぎではないか?


 ああ、そういえばチョコを渡したんだっけ。元男だとしても見た目は完全に女の子にチョコを渡されればそれは多少は意識してしまうのも無理はない。


 だが、その変化は俺も例外ではない。


 今日もバイトで美人のお姉さんと浩之が話していると心がざわつく。女性と楽しそうに話している浩之を見ると、クラスメイトが浩之を好きだと知った結果穏やかな目で見れなくなってしまったのだ。


 浩之に彼女ができたら。俺は、親友としてちゃんと祝ってやることができるんだろうか。今は女の影がまったくないが、もし、そうなってしまったら。


 俺は、心中穏やかではないかもしれない。


 俺の作った料理をおいしいと言って食べて、俺を守ってくれる浩之が離れていくのは、耐えがたいような気がした。


「瑛太。瑛太ってば」


 浩之に話しかけられてはっとする。いけない、考え事をしすぎた。昼休みの最中にぼーっとするなど、確かに最近暖かくなってきたが期末テストを控えている学生のすることではない。


「おっと。ごめんごめん。なんだっけ?」


「期末テストのヤマの話だよ。俺英語苦手なんだよね……。瑛太は?」


「俺は英語そんなでもないよ。今度ノート貸そうか?」


「ほんと!? うわー、助かる。ありがとな」


 今日も笑顔が眩しくてよろしい。わんこはやはりこうでなくては。


「でもノート見ても根本的な解決にはならないからな。ノート見て意味が理解できなきゃいけないんだし」


「うっ……。ごもっともです」


「……話変わるんだけど。浩之さ」


「ん?」


「彼女作るの?」


 これは、俺が一番聞いてみたかった言葉。中学生のとき彼女がいたなら、高校に入っても彼女を作ったとしてもおかしくはない。


 昼休みはいっつも二人でいるのが当たり前になってみんなこっちに注目してないからできることでもある。


 浩之はびっくりした顔をして、うーんと唸ってから、へにゃ、と笑う。


「作らないよ。今は瑛太といるほうが楽しいし」


「そ、っか」


 モテる男が俺といるほうが楽しいと言う。それに勝る喜びがあるだろうか。


 俺はちょっと調子に乗って、からかい半分で言ってみる。


「浩之は俺に夢中だもんな」


「……えーっと」


「……そこでどうして黙る」


 なんだか困った顔をする浩之に俺は聞く。


 急に黙るなんてらしくない。いつものへにゃへにゃの笑顔で冗談をかますところなのに。


 すると浩之の顔がちょっと赤いのに気付く。どうしたんだ。風邪でもひいてるのか。


「その、ちょっとここではそれは言えないっていうか」


「どういう意味だよ」


「そういう意味だよ。あんまり、聞かないでくれるとありがたいんだけど……」


「親友の俺に隠し事か?」


「そういうんじゃなくて。えーっと。なんて言えばいいんだろう。これは瑛太を傷つけないためっていうか、おれも傷つかないためっていうか。瑛太は俺の隣でたまに笑ってくれればそれでいいというか」


 なんだそれは。ますますわけがわからぞ。


 いやでも、なんか心がむずむずする。その答えを知りたいけど、知りたくない。俺自身としては効きたいんだが、心はそれを拒否している。


 俺は一体どうしてしまったんだ? 浩之と一緒にいすぎて距離感バグってしまったか?


 沈黙に耐えかねたのか、浩之は頭を横に振ってほんのり赤面していたのを振り払う。


「もう! この話はやめよう! とりあえず今日はもう英語の授業内からノート貸して。明日には返すからさ」


「ん? おお。……ほい」


 俺は机の中からノートを取り出して浩之に手渡す。浩之はスクールバッグの中にノートを入れると、俺に両手を合わせた。


「ほんっとーにありがとう! しばらくテスト期間でバイトもないし、瑛太の頭脳を借りるね」


「なんかその言い方グロいからやめろ」


 まったく、調子がいいやつだ。そんなところも嫌いではないのだが。


 そのとき、予鈴が鳴った。浩之といる昼休みは時間があっという間に過ぎていく。浩之と話すことに最近楽しみを見出し始めたからだろうが。


「じゃ、また放課後にな」


「うん。午後もがんばろー!」


 浩之はそう言って机をくっつけていたのを元に戻して教科書とノートを取り出し始める。


 俺も準備をしなくては。横に向けた机を前に直して俺も教科書とノートを取り出し始めた。

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