スカイ、宙へ征く

緋色ザキ

第1話 運命の出会い➀

 スカイ・ローグレイはとても裕福な家庭に生まれた。

 ローグレイ家は古くから続く由緒ある家系であり、父は豊かな緑が広がる星、フィツアの序列三位の有力者であった。

 そのため、幼い頃からなに不自由ない暮らしを送っていた。

 しかし、その生活はスカイが七歳のときに一変する。

 スカイの父は序列一位の男、トートス・ギスカールの不正を暴こうとして、逆に返り討ちに遭い、反逆者という烙印を押されて投獄されてしまったのだ。


 スカイの生活はそこから一変した。どこにいても、反逆者の息子と言われる日々。

 家には物が投げ込まれ、落書きの数々。母は精神的な疲労で寝込んでしまった。通っていた学校でも、全員から白い目で見られ、いじめを受け始めた。

 もはや居場所がないと悟ったスカイは母とともに、フィツアの田舎にある緑豊かな村へと引っ越した。それまで住んでいた都市部とはうってかわり、前時代的な農業や牧畜などが営まれていた。機械化した街並みは自然へとかわった。

 スカイは世も末だと思った。まるで島流しに遭ったみたいだ。こんな辺鄙な村でこれから暮らしていかなければならないのか。

 彼の心にはひどく暗雲が立ちこめていた。だが、彼はそんな穏やかで前時代的な村でその後の人生を大きく変える出会いをするのであった。




 タイル小学校への転校初日。

 教室に入ってスカイが最初に覚えた感情は驚きだった。

 生徒たちはみな、見るからに安そうな服を身に纏っていた。以前通っていた、フィツア星立小であればそれだけで笑い飛ばされ、仲間外れにされるだろう。しかし、誰も自身の格好に違和感を持っている人間はいない。

 逆に、スカイが着ている鮮やかな服に生徒たちの視線は釘付けになっていた。


「ではスカイくん。自己紹介を」

 

「スカイ・ローグレイです。よろしくお願いします」


 軽く会釈する。すると、目の前に座る生徒たち目が冷たいものになり、囁きあいはじめた。みな一様にローグレイという名前に反応しているようだった。

 流石にこんな田舎でもローグレイ家の噂は知っているようだった。スカイははあ、と小さくため息をついた。


「えー、静粛に」


 そんな先生の声で教室は静けさを取り戻した。

 スカイはもう一度小さくため息をついた。こんな学校で残り三年間過ごさなければいけないわけだ。楽しく通い続けられるビジョンなど見えるはずもなかった。


 そうはいっても、はじめは僅かながら期待もあった。

 もしかしたら、この学校でもなにか得られるのではないかと。

 しかし、ローグレイという名前のためか、同じクラスの人間はスカイに寄りつこうとしなかった。そして、授業のレベルもお世辞にも高いとは言えなかった。転校前に通っていた学校はお金持ちの家のぼんぼんが集まっていたこともあり、非常に教育の レベルが高かったため、日々の授業はとても退屈だった。

 ただ、不幸中の幸いともいうべきか、教師や生徒の中で、スカイに危害を加えようというものはいなかった。

 だから、ただ、なんの意味があるのかもわからないままスカイは学校へ行き、誰と話すでもなく、なにか新しいことを学ぶでもなく、授業が終わると帰宅するという生活を送っていた。


 当然、辞めるという選択肢が何度も頭をよぎった。これであれば、自分で勉強していった方がよっぽどためになる。

 それで、スカイは家に帰ると、ベッドに横になっている母の前に立って自分の気持ちを伝えようとした。


「学校は楽しいかい?」


 しかし、いつも決まってかけられるその言葉に、スカイは笑顔を貼り付け頷くことしかできなかった。


 母は、以前通っていた学校でいじめにより苦しい思いをしていたことをひどく悔いているようであった。そして、そのためかいまの学校生活が満足かをことあるごとにスカイに聞くのだった。

 スカイは母を騙し続けていた。そして、その嘘が彼の足を学校に行かせていた。無断欠席などできるはずもなかった。そんなことになったら、学校側から母のところへ電話がいってしまう。

 スカイは自分の気持ちを偽ることで、母を守っていた。


 だが、ふとしたとき、スカイはひどい絶望感を覚えた。

 フィツア星立小に通っていたとき、スカイには夢があった。

 それは、宇宙生物学者になること。宇宙には数多の星々があり、非常にたくさんの生物が暮らしている。前人未踏の星も多くあり、まだまだ研究しがいがある分野だ。


 スカイの父がまだ投獄される前。

 たまたま父の仕事の関係で出会った生物学者の男が様々な星での生物との邂逅についてを話をしてくれた。

 それは、とても心躍る物語だった。

 いつか絶対、この空の先に行くんだ。そう強く決心した。

 でも、そんな大それた夢は叶わないのかもしれない。

 こんな自然に囲まれた学校では宇宙についての様々な知識を学ぶ機会は非常に乏しい。それに、宇宙船やその他諸々を買う費用だって用意できそうにない。

 この村という箱庭の中で一生骨を埋めることになるのだろうか。そんなのは絶対いやだった。でも、どうすればいいか、全く見当もつかなかった。

 自分はひどく無力だということを痛感した。

 そしてスカイは、自分のついていない人生を呪うのだった。

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