老人ホーム

篠塚麒麟

老人ホーム

「はじめまして、妙子さん。介護スタッフの高橋です。今日からよろしくお願いしますね」

 そう言う若者に手を引かれ、妙子は今日から生活する部屋に入る。

 ゆっくりとベッドまで歩くと、杖を立て掛けて座る。

「妙子さん、お荷物ここに置きますね」

「えぇ?」

「お荷物、ここに、置きますよ」

「あぁ、もう夕飯かい?」

 耳が遠い妙子は的外れな返答をする。

 若者は少し困った後、

「まぁいっか。どうせわかんないんだし」

 と小さく呟き、適当な場所に荷物を置いて部屋を出ていった。


 ふぅとひと息ついてスマホを取り出す妙子。慣れた手つきで連絡帳から『老人介護師育成所』をタップする。

 プルルル プルルル

「あ、お疲れ様。妙子です。ひのきホームの高橋さん、もう一度座学からやり直しね。えぇ、もちろん私が試験官だとは気付かれていないわ」


 ここは老人ホーム。

 裏の顔は老人介護師育成ホーム。


「ボケたふりするのも楽じゃないわね」

 そう言ってどこか楽しげにウフフと微笑む妙子であった。


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老人ホーム 篠塚麒麟 @No_24

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