我々には三分以内にやらねばならない事があった
菅原 高知
地球の命運をかけた日
我々には三分以内にやらねばならない事があった。
宇宙開発事業の発展が目覚ましい昨今。
遂に人類は惑星間の有人長距離移動を可能にした。
その恩恵は目覚ましく、無限とも思われる資源に土地。人口増加の一途を辿り、資源枯渇や食糧難に陥っていた人類にとっては正に起死回生の一手であった。
しかし、画期的な発明がもたらしたのは有益なモノばかりではなかった。
宇宙人――俗に
彼らとの利権を掛けた戦争が勃発した。
しかし、血で血を洗う戦い――とはならなかった。
人類より更に高度な知性と技術を持つ彼らに対して武力闘争などもっての外だった。
そして、彼らもまた武力による解決を良しとはしなかった。
高度な知性が闘争を、戦争を――
そして、何より。
彼らは飢えていた――娯楽に。
なまじ知能が高い分、頭を使う娯楽は彼らにとって擬似に等しかった。
そこで、地球人が外宇宙人工生命体が辿り着いた答えがこれだった。
四方に立った四つの巨大な支柱。
ソレラを結ぶ強靭なゴム紐。
そして創り上げられた正方形の
双方が代表を一人立て、三分間相手が戦闘不能もしくは戦う意志がなくなるまで殴り合う代理戦争。
――ボクシング。
人類は過去百九十五回の戦績で零勝。
負ける度に領土が減っていき、遂に残された領土は後一つ。
この戦いに負ければ地球は完全に外宇宙人工生命体の手に落ちる事となる。
その最後の舞台を任された光の戦士が上空からリングに飛び降りてきた。
舞い散る砂埃と、溢れんばかりの歓声。
期待の高さが伺えた。
「ったく、派手な登場しやがって。俺が教えた事むだにすんじゃねぇぞ! 」
セコンドに付く眼帯のオヤジが怒鳴り散らす。
「シャ」
光の戦士が大きく頷いた。
「ははは。凄まじい歓声ですな。この星の最後を任せるにはうってつけという訳だ」
相対する外宇宙人工生命体側のセコンドが前に出てきた。
確か大佐という肩書だったぼずだ。
「さぁ、彼らに我らの叡智の一端を見せてやるのです!」
声と同時に、陽気な音楽が流れ出した。
タラララッタタラ――――
その音色からはお前を料理するのには三分で充分だという事がありありと伝わってきた。
上空から何かが飛来する。
光の戦士に引けを取らないその巨大がフワリと着地した。
「巨神兵――我らが戦士の力を思い知るが良いっ! ワハハハ ハハハハハ!」
「おいっ! カップラーメン用意しろっ! 試合後アイツ等の眼の前で喰うラーメンはさぞ美味いだろうよッ!!!」
カーーーーンッ
そして運命のゴングが鳴った。
光の戦士のストレートが巨神兵の顔面に迫る。――が、寸前で躱される。
的を失った拳は支柱の一つを穿ち凄まじい振動が世界を震わせた。
「ははは。確かに威力は凄まじい。だが、巨神兵をお前が普段戦っている怪物と一緒にするなよ。光線を出せないお前などただの木偶の坊なのだよ」
「それはお互い様だろうがッ!」
巨神兵はかつてその凄まじい火力で一つの惑星を滅ぼした過去がある。――まだ、外宇宙人工生命体が武力を行使していた時代の事だ。
互いに必殺を封じられた状態。
しかし、機動力は巨神兵の方が僅かに上のようだ。
「はははッ。そろそろ降参してはどうかね。それともその
ピコン ピコン ピコン
「マズい……! 時間がない!?」
決め手を欠いた状態で、向こうのセカンドの挑発に耐えながら勝機を探していたが、そうも言っていられなくなった。
「ヤレッ! 人類の未来はお前に託した!!」
両雄が向かい合い、同時に駆ける。
振りかぶられた拳が交差する。
――――勝利は
ピピピッ カーーーーン
タイマーと同時にごんが鳴った。
「ラーメンをよこせっ!」
晴れ渡った空にセカンドの声が響き渡る。
我々には三分以内にやらねばならない事があった 菅原 高知 @inging20230930
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