第五話 魔物のお肉のスタミナ丼

「おおう。これはすごいですね〜」


「だろ?これ使ってなんか作ってくれない?」


「お前さん達、張り切りすぎじゃ無いかのう」


「ガッツリしたのがいいな」


「ガッツリ……ですか。分かりました〜。ちょっと手伝ってもらってもいいですか?」


「「もっちろん‼︎」」


「え……儂のことガン無視?流石にお爺ちゃん凹んじゃうよ……?」


調理場に置かれた肉の山を前に楽しげにはしゃぐ若者達の前に、お爺ちゃんは無力だった。


雅と一緒になってはしゃいでいるのは、この豚型の魔物の肉を取って来た、お団子にした藍鼠色の髪と黒い目のスレンダーな女性––狩猟の神アルミスと、夕焼け色の髪に緋色の目を持つ小麦色の肌のThe 冒険者と言った風貌のオジサマ––火の神ジリアンだ。


ジリアンは体は五十代、実年齢二千歳以上の立派なオジサマだが、中身は現代男子中学生といい勝負が出来るくらいという、某名探偵の逆バージョンである。

なので彼は若者に数えられます。基本男子中学生、もしかすると男子小学生と同じノリで生きているので。



「雅ー‼︎何すればいい?なあ、何すればいい?」


「取り敢えず、お肉薄切りにしてもらえますか?あ、アルミス姉さんはこっち手伝って下さい〜」


「了解」


「……わかった。」


ブンブン振っていた尻尾がしゅんと垂れ下がった幻想が見えますが無視の方針で。甘やかすと調子に乗りますので。

しゅんとする大型犬系イケオジ様は側から見るとギャップにキュンとなったりもする場面なのだろうが……。

自他共に認める小動物で、普段のジリアンを知っている雅からすると、ジリアンは「大きな言うこと聞かない猟犬」って感じなので。

あまり近づきたくないなぁと言う感想しかない。まあ、いい人なのは知っているのだが、これはもう感覚の問題だ。多分細胞レベルでジリアンの事を怖がってる気がするので。


ノリが男子中学生でも、いい人で仕事もできるジリアンお兄さんは、凹みながらもちゃんと言われたことはする。こう見えても、創造神からアルミスと共に魔物の管理を任されていて、地上で冒険者として名を馳せている出来るオジサマである。


そもそも魔物とは、創造神が造ったものではない。


自然発生した、災害のようなものだ。空気中の魔素と言う成分を取り込みすぎた動物が狂化して生まれた人間しか襲わない、危険生物。

あまりに人間と魔物の戦力差が激しいために、神がダンジョンという場所に閉じ込め、人間といい勝負ができるようにしたものの、繁殖力が強いので神であるジリアンとアルミスが数の管理を担っている。


雅が今まで使っていたお肉も全部二人が取って来て捌いていたものだ。

神が無闇に生き物の命を奪うのは禁止されているので、二人の取って来たお肉がないと雅はお肉を使った料理ができない。

そういう点から二人は雅のスローライフを支えている立役者であると言っても過言では無い。そして何より、魔物の肉は日本で食べていた、食べられる為に育てられていた家畜のお肉より美味しいのだ。

何十倍にも旨みが濃縮されていて、雅は、これが「生き物」の味なんだなあ、と初めて食べたときに思ったものだ。



「出来たぞ‼︎」


「お〜、綺麗ですね〜。ありがとうございます。じゃあ、ジリアン兄さんはちょっと待ってて下さい。アルミス姉さん、フライパンにバター溶かしてもらえます?」


「ちょっと待て……これでいいか?」


フライパンに一欠片のバターを入れて火にかけ、溶かしていく。


「溶けたんで、お肉入れますね〜。炒めてもらってもいいですか?僕、もう一つの方

を作りますんで。火が通ったら教えて下さい」


「わかった。」


雅はアルミスにそう言いながら、片栗粉を揉み込んだ肉を、ごま油を引いて強火にかけたフライパンに入れ、中火で焼き始める。この時、肉に焼き色がつくまで触らないのがポイントなので、それを待つ間に調味料を作っていく。


地上の少数民族が作っていた調味料を再現することで出来た、醤油とみりん。そして兄の誰かが調理場に置いていったお酒を混ぜ、胡椒、ニンニク、砂糖とコンソメを作るときに一緒に作った鶏がらスープの粉末を加える。これで調味料は完成した。


「火が通ったぞ」


「ありがとうございます〜。そしたら、そこのレモン汁かけて三十秒くらい余熱で火を通してもらって、そのあとこの平皿に盛り付けて下さい〜」


「了解」


焼き目がつくまで放っておいた方のお肉は、焼き目がついたら裏返してもう少し焼

く。両面に狐色の焼き目がついたらさっき作った調味料と、庭で取ったニラを入れて、もう一つと同じように、余熱で火を通したらご飯の上に中央が少し窪むように盛り付ける。

あとはその窪みに、殻の間を行き来させて卵白を取り除いた卵黄を乗せたら


「スタミナ丼の完成〜!」


「おおお‼︎うまそうだな!」


「はい、あとは、アルミス姉さん、出来ましたか?」


「ああ」


「なら後はそこに胡椒を振ったら、豚肉のバターレモンの完成〜!はい、お爺ちゃ

ん。これ持ってて〜。アルミス姉さん、スタミナ丼持って来てもらえますか。ジリアン兄さん、今日ご飯食べる人たち呼んできて下さい〜」



「今日のご飯は、アルミス姉さんとジリアン兄さんが取って来てくれたピギー・モーの肉で作った、スタミナ丼とバターレモンです。両方おかわりはあるので沢山食べてもらって大丈夫です。スタミナ丼はガッツリ、バターレモンはさっぱりお肉を食べられると思うので、両方食べてみて下さいね〜」


「それじゃあ、手を合わせて、せーの」


「「「いただきます」」」


大勢でタイミングを合わせるために小学校の給食の時の挨拶みたいになる、すっかり定着した「いただきます」の挨拶。

最初にこもっていたのは雅が言っていたように食材となった命への感謝だったが、今となっては美味しい料理を出してくれる雅への感謝が大半を占めていた。


もはやただのオカンとか言ったの誰です?

ただの末っ子ですよ。料理と裁縫が趣味のオトメンで、前世の記憶持ちなだけの末っ子です。

あ、十分規格外でしたね。



「これはウマいな‼︎ガッツリしていて、タレがコメ?とか言う東の国の食べ物にも合う‼︎」


「希望通りの味だな。美味しい…味がくどすぎないし、食べやすい。それに、卵を割ると味がまろやかになってまた違う味わいになるな」


スタミナ丼を、おかわりしながらガツガツと食べるジリアンと、味わいながら食べるアルミス。


「ほう、バターレモンの方はレモンでさっぱりと食べれるし、バターで味わい深い風味がある。これなら儂も美味しく量を食べられるのう」


途中でスタミナ丼を他の神に渡し、バターレモンを沢山食べる創造神のお爺ちゃん。


他にも美味しい、ウマいと言いながら沢山食べてくれる神々を見て、雅は


「みんな食レポ上手だなあ」


と思いながら呑気にスタミナ丼を口に運んでいた。




なお、ピギー・モーの肉が美味しい料理になったことから、この後の狩りでピギー・モーを借り尽くそうとするジリアンを必死に止めるアルミスの姿が、ダンジョンで見られたとか見られなかったとか。




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