間話 儂の可愛い孫の話
神が住まう天界の寮でのこと。
「お爺ちゃ〜ん。一緒におやつ食べよう?今日はね〜お爺ちゃんが食べやすそうなお菓子にしてるから、きっと気にいると思うし」
「うっさいわ孫よ、年寄り扱いするでないわ。」
儂が孫と呼ぶ、生まれて十二、三年くらいの見た目の神、雅が寮に管理者として来てから早三日。「今日はリト兄さんがいるし、ちょうど良いから甘いものが好きな神向けの時間を試験的に導入してみよう‼︎」と思って一人で、三時のおやつの準備をしていた雅に、たまたま近くでお茶を飲んでいた儂が巻き込まれたのは偶然だった。
「雅ちゃん、創造神のお爺ちゃんはいらないみたいよ?せっかく一生懸命作ったのにねー、かわいそうに。私と一緒に食べましょう?」
「セレナよいらんとは言ってないじゃろう」
当たり前だ。可愛い可愛い孫に誘われて断る爺いなどいるだろうか。いや、いない。
孫にお爺ちゃんお婆ちゃんが弱い事など自明です。
「もうー、そんなに早口で否定するならさっさと同意すればいいのに…」
「まあまあセレナ姉さん。リト兄さんとミリア姉さんを呼んできてもらってもいいですか。お爺ちゃんは待ってて?おやつ、今持ってくるから。」
はにかんだ笑みを浮かべて調理場へ向かう彼を見て
「あーかわいい弟がかわいすぎる誰かたすけて」
などとほざきながらも、リトとミリアを呼ぶために席を外すセレナ。
普段はお淑やかながら頼りになるお姉さんな彼女は、雅関連になると、『どこの』とは言わないがネジが四本くらい外れる。
まあ、これに関しては創造神も含めたほとんどの神がそうだが。普段は問題ない創造神も時々、ごく稀に、おかしくなる時があるので。
そんな彼女が二人を連れてくるのと、雅が黄色いフルフルと揺れる物体の上に茶色い液体のかかった、お菓子なのか疑いたくなるようなものを持って来、
「今寮にいる人でお菓子を食べるのはリト兄さんとミリア姉さんぐらいなんで、今はこれだけです。他の人には別に用意してるので、これは食べちゃって大丈夫ですからね〜」
と満面の笑みで言っているのを見て、儂はあやつから雅を預けられた時のことを思い出していた。
七百年前––
雅以外の神を生み出し終わり、千年以上経った儂は特にやる事もなく、地上を見守りながらゆっくりとしていた。そんな時だった。あやつが急に、腕の中に赤子を抱えて儂のところにやって来たのは。癖のない白い長髪と藍色の瞳。会えば必ず不思議を持ってくる自由人。
「やあ、ゼン。急に済まないがこの子、ここで育ててもらえたりする?」
確かに昔から、いつも意味不明なことを言う奴だった。ニコニコと笑いながら無理難題を押し付けてくるような。そんな奴ではあったが、ここまで意味不明だっただろうか。
「説明しろ。セデス」
「それは勿論イエスなんだけど…あ〜どこから話そう」
渡り人。いつの間にかそう呼ばれるようになっていた彼は、ある事件のせいで他の神に呪いをかけられて不老不死となってしまった元人間だった。
長い長い生の中で仙人になり、幾つもの違う世界を渡り歩きながら呪いの解き方を探っている間に色んな神と気軽に話す仲になったと言う風変わりな奴で、儂とは昔からの親友だ。
我ながらよく、この不思議を人型にしたような奴との付き合いがここまで続いているとは思うが。
「実はね?この子は僕の孫なんだ。ちょっと前に人生初の大恋愛をして、その結果生まれた子供の子供。いや〜、時が経つのは早いね〜……。今はこの子の事が先か。
僕を呪った神の事、知識として知ってるでしょ?この子はアイツのせいで、本来生きるはずだった寿命を残して死んでしまったんだ。
僕が愛した人も、子供もそうだったみたい。気がつくの、遅れちゃったんだよね…。この子は僕の都合に巻き込まれたんだよ。それに、これから暫く僕の周りは騒がしくなる。
だからね?君が管理主のこの世界で、神として生き直させてやりたいんだ。
勿論、この子が生きていた世界の神には許可を取った。後はお前が名付けをしてくれればこの子は直ぐに神になる。お前、子沢山だろ?父友、いや、この歳なら爺友か。爺友ろしてさ、頼めるのはお前ぐらいしかいないんだ。だからさ」
頼むよ。
そう言うセデスの顔は見た事がないくらい真剣で、とても断る事などできなかった。
「ああ、分かった。この子にとって、お前の代わりにいい爺さんになってやるから安心しろ。問題を解決したらこの子にも儂にも会いに来るんじゃぞ?」
「ああ、感謝するよ。ちゃんと解決して君とこの子に会いに来るさ。それじゃあ、またな。ゼン」
「ああ、またな。セデス」
儂の言葉を聞いた直後。来た時と同じように、セデスは急に消えた。
それを見送った儂は託された少年に目をやって、静かに告げた。
「君の名前は雅じゃ。儂が今日から君の爺さんになる。よろしくな」
言い終わると同時に赤子の体が光り、癖のない白い長髪と藍色の瞳を持つ十二、三歳の少年の姿になった。
「ん〜?お爺ちゃん、どうかした?プリン、美味しくなかった?」
「いや?美味しいから心配せんで良い」
考え込む儂に少し心配そうに言う雅にそう返す。
卵に砂糖と牛乳を入れて混ぜ、蒸したものに砂糖と水を混ぜたものを焦がしてかけたものだというプリンはとても美味しかった。本当に。
ただ少し、雅の見た目が気になっただけなのだ。
神の見た目は生まれた時に決まる。儂は生まれた時から爺さんみたいだったし、今壮年に見えるものも、青年に見えるものも、そのままの見た目で生まれてきた。神には、見た目が成長するという事がないのだ。
儂は何もないこの世界に最初に生まれたからこの見た目の方が都合が良かったし、他の神も一番活動しやすい見た目で生まれた。だから、雅以外の神は一番上(ジリアン)と一番下(ミリア)の年齢差が五十年以内と、神にとってはほとんど誤差とも言える範囲の年齢差だが、見た目の年齢は五十代後半に見えるジリアンという神から二十代前半くらいに見えるリトとミリアまでバラバラだ。
それでもやっぱり、十二、三歳ほどの体で生活する雅はやはり変わっているだろう。どう考えても動きやすいわけではあるまい。
一度他の神達にそう話したら、
「雅なんだからそういうもんだろう」
と返された。
そう。もはや色んな神が、雅が何かしでかしても「まあ、雅だし」で納得するようになっている。その域まで来るとちょっと怖い気がしなくはない。ていうか怖い。
まあ、もう諦めるしかないことはわかっているのだが。だって相手は雅だし。
「?そう。まあ、美味しいなら何よりなんだけどさ」
小首を傾げる雅は、見た目だけではなく中身まであやつに似たようで、大前提として変わり者な上に、よく問題に巻き込まれるし巻き起こすという困った孫だが、優しく育ってくれた。
今後もその調子で元気に育ってくれと願っている。
まあ、知らないうちに堕天使のルシファーと知り合ったりしてるのは心臓に悪いのでやめてほしいが。
「美味しいよ。また今度作ってくれ、孫」
「そうよー、楽しみにしてるわ」
「私も‼︎」
「はい‼︎人気そうなので、今度はもっと違う種類のプリンを用意しますね〜」
「……楽しみにしている」
ともかく、あやつに会わせるのが楽しみじゃわい。
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