一年目 春

第ニ話 名付けとフレンチトースト

「んにゃ〜!ここどこ⁉︎」


あ、自分の家だったわ。

五分ほど騒いでから、自分のいる場所が天界の端、桃源郷のすぐ横にある自分の家だと気がついた雅は、今日から念願の休みだった事に気がついて両手を上げて喜んだ。


「うわ!柔らかいベットで六時間睡眠とかもう最っ高‼︎何年ぶりだろう〜」


ベットで眠れる事に感動している雅は確かに社畜神への道を歩んでいた。今回休暇を取っていなかったら前世と同じように働いていた気がする。

遅刻の心配がないとわかった雅は、ゆっくりと起床準備をしてから調理場に立つ。

袖を捲り、料理をはじめようとして、


「さ〜て、今日作るのは「雅ちゃーん‼︎何作るの?」


後ろからの声に遮られた。振り返れば背後には十二単のような格好をした赤い髪と金色の目の艶やかな女性と、紺色の髪と銀色の目の書生のような格好をした青年が並んでいた。対照的な色の二人が並んでいてとても絵になる。絵にはなるが……


「ミリア姉さん、急に入って来ないでくださいって言ってるじゃないですか!リト兄さんも止めてくださいよ〜」


「だってー」


「––すまん。止められなかった。」


魔法を司るミリアと武と戦を司るリトは色味も性格も反対だがなぜか仲がいい。正確に言うとすぐに突っ走るミリアを冷静なリトがストッパーとして止める役割をとっている。今はミリアの転移魔法で移動して来たのだろう。いつも暴走を止めるリトが止められなかったのなら何かよっぽど急ぐような事があったのだろうか、と思って不満そうなミリアの言葉を待っていると


「雅ちゃんが楽しそうに調理場にいたから、昔みたいに美味しいもの作るのかと思って……。ほら、昔は私達に料理作ってくれたでしょ?」


「ああ、なるほど」


まだ神になる試験を受ける前に、ミリア姉さんにごねられて作ったものだろう。あの時はまだ少しくらいなら止められなかったから、色々なものを作っていた。二人が着ている十二単もどきと書生スタイルの服は重くなく、息苦しくないように魔法を付与して僕が作ったものだ。見た目に似合わず甘いものが好きなリトも食べれるようにクッキーとラスクを作った事もあった。リトの目をやるとそっと逸らされたので確信する。


「つまり、何か食べたいんですね。」


「そう‼︎」


力強く頷かれた。雅は「わかりました、じゃあ、少し待っていて下さい。」と言って調理場に置いていた材料を直し、もう一度棚や、自作した冷蔵庫と冷凍庫から材料を取り出した。


作業場に出したのは昨日のうちに作った、牛乳と生卵、そして砂糖を混ぜた卵液に浸していたバケットとバター。今日のおやつにしようとしていたヤツなのであまり多くはないけど、三人分の軽食ぐらいにはなるだろう。不思議そうな、少しワクワクしたような表情で僕の作業の様子を見る二人を微笑ましく思いながらフライパンを火にかけて先にバターを溶かしてしまう。

固くなっていたバケットが卵液で柔らかくなっているのを確認して、バターが溶けたところでフライパンに乗せる。カリカリ食感にするために、全面に狐色の焼き目がついたらOK‼︎

大きいお皿に一つずつ乗せ、脇にメープルシロップを添える。自分とミリアには紅茶、リトにはコーヒーを淹れたら完成だ。


「フレンチトーストの完成〜!はい、リト兄さん、ミリア姉さん、持っていって下さい。一緒に食べましょう。」



「おうひいー‼︎」


「口の中無くなってからしゃべって下さいよ、ミリア姉さん…」


「美味しい‼︎美味しすぎるよお!」


メープルシロップをかけて口いっぱいに頬張るミリアを注意する雅はほぼオカンだったが、そんなことを突っ込む人間(神)はいなかった。ミリアは食べるのに忙しかったし、リトは甘いフレンチトーストに夢中になっていてストッパーとしての役割を放棄していた。

夢中になって食べている二人を雅は楽しそうに見る。そもそも雅はオトメンとして料理や裁縫を趣味としてやっているが、それを使って他の誰かに喜んでもらえるのも好きだ。元気なお姉さんと普段寡黙なお兄さんが美味しそうに料理を食べているのはそれだけで見ている人を幸せにする。料理を美味しく食べられるのは良いことです。



「ありがとー!」


「美味しかった」


「喜んで貰えたならよかったです」


二人が仕事に行く時間までゆっくりとお茶を飲みながら話していた雅は、ふと前から思っていたことを聞いてみた。


「リト兄さんたちの名前って僕と同じでお爺ちゃんが付けたんですよね?」


「そうだが…?」


「僕だけ名前の系統が違うのってなんでなんですか?」


ミリアやリトと雅。どう考えても同じ人物が考えた名前とは思えない。


「そういえば確かにな。」


「ね〜?なんでなんでしょう?」


「なんかねー、雅を見た瞬間に浮かんで来たからだって前に言ってるのを聞いた事があるよー」


首を捻る二人の疑問に答えたのは暇そうにお茶を飲んでいたミリアだった。


「へえ、なんか、よくわかんないですね〜」


「ああ」


「名付けってそんなもんじゃない?どれだけ考えてても、本人を見て、『これだー‼︎』って思える名前が一番良いんでしょー!私も雅の名前聞いた時は納得したしねー」


「ああ、俺もだな。…気になるなら今度爺さんのとこに聞きにいったらいい。直接聞かんと分からんこともあるだろう。」


「はい!今度聞きにいってみますね〜」


その後は和やかに少し話して、ミレイとリトは仕事に行く、雅は家の庭に野菜を植える準備をしに行く時間になったところで解散した。

ちなみに、今回の事で雅が試験を受ける以前のように、頼んだら何か作ってくれることを知ったミリアとリトが時々、雅の家に来るようになったのは余談だ。

二人は美味しいものが食べれるし、雅も自分の料理を喜んで食べてもらえるのでウィンウィンだったので。両者が良ければいいのです‼︎



これは雅の休暇一日目。この後、創造神のお爺ちゃんが、雅に名付けに関していじり倒されるまであまり時間はなかった。可哀想である。



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