転生神流スローライフ
❄️風宮 翠霞❄️
第一話 スローライフを目指して
「そうだ。神様、やめよう」
よし、思い立ったが吉日だ。やめよう、今すぐに。
そう考えた僕はすぐにお爺ちゃんに会いに行く準備を始めた。
僕、
裁縫や料理が趣味で、学校の好きな教科は断トツで家庭科だった。
自分は一生裁縫や料理を趣味としてやり、可愛いものに囲まれて生きていくんだろうなあと思っていたのに、高校の時の担任に主要五教科の中では一番良かった理科の化学系の企業を勧められ、「まあ化学も好きだしいっか」と思って就職したのが運の尽き。
そこが見事なブラック企業で、僕は就職後は趣味を楽しむ事ができないまま過労死した。でも、死因が過労で良かったともちょっと思う。死因がトラックに轢かれてとかだったら自分の肉片を見て今後一生肉が食べられなくなるところだった。
その点、過労死は言い方は悪いが、やつれているだけなので。真っ暗い空間で、何が起こったのか分からずにワタワタとしていたら急に眠くなって、次に起きたら転生していたんだから。全く、こんな事が起こるなんて人生は何が起こるか分からないものだ。
前置きが長くなったが、僕は仕事中に死んだ。だから、次の人生は必要最低限の仕事だけしてスローライフを送ろうと思っていたのに……
「お爺ちゃんにいつの間にか仕事覚えさせられて知らない間に神になってた‼︎」
「ふぉっふぉっふぉっ、不思議なことを言うな、孫よ。試験を受けるか儂らは確認しただろ?」
「『孫よ!人生ゲームするか?』が神の試験を受けるかどうかの確認なんて分かるわけないでしょ!お爺ちゃん‼︎試験も普通の人生ゲームで一位になる事だったし‼︎神様って卑怯‼︎」
「そんなことを言うなよ。それで孫よ、そんなことを言いに来たわけじゃないんだろう?」
僕にとってはそんなことで済まされることではない死活問題なんだけど、確かに今日はそれを言いに来たわけじゃないから素直に頷く。いけない、いけない。爺ちゃんを見るとつい恨みが爆発してしまって本題に入るまで長くなってしまう。
「重労働な神様業が嫌になったから、僕神様辞めるね。」
今までのらりくらりと僕の言葉を交わして笑っていた白い長髪と立派な髭のお爺ちゃんが、俺の言葉に固まり、藍色の細い目を開いた。今まで見た事のない急な変化に驚いていると、
「ま、雅‼︎」
「え、お爺ちゃん僕の名前覚えてたんだ。いつも孫って呼ぶから忘れてるんだと思ってた。」
「そ、そんなわけないじゃろ!雅の名前つけたのは儂じゃぞ!創造神じゃからな。って、そんなことはどうでも良くてじゃな!何で急に辞めるとか言うんじゃ!そもそも神を辞めれるわけないじゃろ!」
「え〜そうなの?でも、ルシファー叔父さんとかは辞めて悪魔のボスになったじゃん」
「あやつは神じゃなくて天使‼︎辞めたんじゃなくて堕天‼︎そもそも何処であやつと会ったんじゃ!あやつは天界を追放されてるじゃろ!」
「ん?そうだったの?この前天界の端の方で会ったんだけど。」
「……」
「おじいちゃ〜ん。大丈夫?」
黙り込んでしまったお爺ちゃんの顔の前で手をひらひらと動かして遊ん、ゴホッ、心配していると覚醒したお爺ちゃんは頭を抱え出した。
「孫にいじめられて辛い。儂、結構偉いんだよ?創造神だよ?世界作ったんだよ?天界のトップだよ?」
「?今更言われなくても知ってるって」
「––ハア……本当に辞めたいのか?」
「勿論じゃん。僕は自分の好きなことだけする自給自足の生活を送りたいんだよ。」
憂鬱そうに聞いてくるお爺ちゃんに即答すると「自給自足は甘くないぞ。」と抵抗されたけど、お爺ちゃん覚えてないのかな。
「僕の
僕はあっけらかんとお爺ちゃんに笑いかけた。
好きなことを簡単にできる手段が揃っているのに、神様の仕事は社畜時代といい勝負が出来るほどに忙しいし、神様の一員としての威厳やら何やらと言われて我慢していた雅だったが、好きな事を出来ない生活というのに限界を感じていた。
そして考えたのだ。神である事が問題なら、神を辞めればいいじゃんと。決意を固めたオトメンは強かった。それはもう、創造神たるお爺ちゃんがこれは無理だと思わざるを得ないほどには。
「もう!雅、お前が神様を続けずにスローライフを送りたいのはよく分かった。」
「じゃあ!」
「だが、儂らは一応試験を設けているとはいえ、生まれた時から既に何かを司る神として存在している。神を辞めることは儂がどうしようと無理なんじゃ。」
オーマイゴッド。初めて知った雅だが、よく考えれば確かに神になる前から原子を操る力は使えた気がする。つまり、神は辞められない。唯一何とかできる可能性がある創造神の爺ちゃんがどうしようも出来ないなら、本当にどうにも出来ないじゃないか。万に一つもない。
立ち去りかけた僕に爺ちゃんは声をかけた。
「だが、十年の休暇ならやろう。お前に回す仕事量も検討し直す。忘れていたが、よく考えたらお前はまだ神としては子供だ。今度からはそれを検討した仕事量にすると約束するからそれで折れてくれんか、孫」
神の命に限りなどないが、一応千年で一人前の大人として扱われる。五百歳で神の仕事を始め、まだ七百歳の僕は確かにまだ子供だ。ここまで桁が大きくなるともはや子供って何?と言いたくもなるが。
ともかく…
「つまり、僕がスローライフを送るのを手伝ってくれるって事でいいの?爺ちゃん」
「そうだ。不本意だが––たいっへん!不本意だがな!」
「ありがとう!爺ちゃん大好き!早速準備してくる!」
許可を得たならもう用済みだ。七百歳児の雅は爺ちゃんが叫んでいる声を背に走り出した。なんて言ってたのかは謎だけど、優しい爺ちゃんのことだからきっと、「元気に頑張るんだぞ〜」とか、「体に気をつけてな〜」とかだろう。
ついに夢のスローライフの始まりだ‼︎
「頑張ろ〜っと♪」
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