枝葉 その4

 ——おじちゃん! 肩車して!


 ——よっしゃ、こっちこい!


 ——あっははー! たかーい!


 ——ほどほどにしなさいよ沙織。あんたも、あんまり甘やかさないでよ?


 ——こんなの遊んでるだけだろ、甘やかす内に入んねぇよ。なぁ……


「沙織」




 その一言に驚いた彼は、自分は夢を見ていたのだとすぐに悟った。


 重たく霞んだ眼を開けても、閉じている時と変わらない晦冥で塗り潰されている。


 尾崎は横になったまま頭上のカーテンを少し捲り、寝ぼけ眼で窓の外を見る。まだ陽は昇っておらず、放棄されて久しい古井戸の底のような暗闇が窓枠いっぱいを覆っていた。


 朝方、四時半前。彼は右手の甲を額に当てて、大きく溜め息をついた。




 起きて支度をするには当然まだ早過ぎるが、かといって、このまま寝直すこともできなさそうだと直感した尾崎は、仕方なく身体を起こし台所へ向かうと、まんじりともせずコーヒー一杯分のお湯を沸かした。

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