交差 その5

『東京に潜む狂気! 前代未聞の怪事件』

『十字殺人死体遺棄事件の真相に迫る』

『猟奇殺人犯の正体は吸血鬼か!?』




 テレビ、新聞、雑誌からネットニュースに至るまで、どこもかしこもこの話題で持ち切りである。


 どうやら人々は、今回の猟奇殺人犯のことを「十字殺人鬼」と呼ぶことにしたらしく、メディアが低俗になればなるほど、この名前はより多く散見された。


 張本人はというと、安直だと呆れる一方で、存外満更でもないとも思っていた。


 世間はこうして好き勝手に騒ぎ、日常に現れた非現実的な殺人鬼の一挙手一投足に注目する。

 捜査機関は犯人に辿り着けず、その過程は難航を極めるが、終ぞ殺人鬼を暴くことは叶わない。




 彼は満たされていた。目的もなく怠惰に生きるより、ずっと有意義だった。

 自らのしたいことをして、その結果が世界中に拡散される。分かりやすい渾名も付いたことで、認知度も更に高まるだろう。


 だが、何かが足りない気がする。欠けている気がする。


 しばらく考えを巡らせ、行き着いた答えは“スリル”だった。


 このままでは誰にも自分を見つけてもらえない。

 やがて色褪せ、忘れ去られ、本当に“吸血鬼”の仕業か何かとして都市伝説にされるのは、彼の望むところではなかった。

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