交差 その5
『東京に潜む狂気! 前代未聞の怪事件』
『十字殺人死体遺棄事件の真相に迫る』
『猟奇殺人犯の正体は吸血鬼か!?』
テレビ、新聞、雑誌からネットニュースに至るまで、どこもかしこもこの話題で持ち切りである。
どうやら人々は、今回の猟奇殺人犯のことを「十字殺人鬼」と呼ぶことにしたらしく、メディアが低俗になればなるほど、この名前はより多く散見された。
張本人はというと、安直だと呆れる一方で、存外満更でもないとも思っていた。
世間はこうして好き勝手に騒ぎ、日常に現れた非現実的な殺人鬼の一挙手一投足に注目する。
捜査機関は犯人に辿り着けず、その過程は難航を極めるが、終ぞ殺人鬼を暴くことは叶わない。
彼は満たされていた。目的もなく怠惰に生きるより、ずっと有意義だった。
自らのしたいことをして、その結果が世界中に拡散される。分かりやすい渾名も付いたことで、認知度も更に高まるだろう。
だが、何かが足りない気がする。欠けている気がする。
しばらく考えを巡らせ、行き着いた答えは“スリル”だった。
このままでは誰にも自分を見つけてもらえない。
やがて色褪せ、忘れ去られ、本当に“吸血鬼”の仕業か何かとして都市伝説にされるのは、彼の望むところではなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます