【第三部】ストレイ・ローグ ~特殊事象・異常犯罪対策庁・三係~

Imbécile アンベシル

「プロローグ」

第0話 隔世の感

───────7/27。狗養イヌカイ 護流マモル、19歳。


 騒がしい下町の路地を歩きながら、空き缶を蹴っ飛ばして溜め息をつく。世の中のパワーバランスが変わっちまった。正しく言えば、運次第の世界に。

 ハディクィルとかいう得体の知れない野郎が、取りついた人間に超能力を芽生えさせる「種」をバラ撒いたかなんとか。

 テンションを計りかねたニュースキャスターが定食屋のテレビでそう報道していた。趣旨はそれだけだ。当惑した様子も隠せてない。

 そして、特異庁。正式名称は「特殊事象・異常犯罪対策庁」。突然おっ立てるにしては突飛すぎる名前をしていたからよく憶えてる。

 超能力者を仲間にして、悪い超能力者を取り締まるのが役目らしい。通説だって流れてる。超能力者は国の飼う能力者に捕まると一生実験動物にされるだとか。

 普段なら笑っちまうくらい馬鹿げたことだ。そんな事に国の金を使うんじゃねぇ、超能力者なんかいてたまるかってな。


 「種」を見つける方法はないらしい。なら、もしかしたら俺にもあるのかもしれない、そう考えていた。昨日までの俺は。

 馬鹿げた、と思っていた。そんなまるで漫画みたいな話ありえないと。

 だが運を掴んだ。起こってしまった。その馬鹿げた話が、疑念まみれだった俺自身の身に。

 いつものように公園で、スーパーで買った特売弁当をかっ食らっていたある日。

 俺は道を肩で風切り歩く金持ちそうな男を睨み付けた。恨めしい、あんな人間は全員くたばっちまえばいいと。

 その時、頭に電流が走るような感覚が訪れた。同時に記憶に無理矢理ねじ込まれる形で、芽生えたモノの「使い方」を理解した。


 俺は頭を捻った。コイツを有効活用するにはいったいどうしたらいいか。意気揚々と妄想を膨らませてみたものの、結局過程で引っ掛かる障害が多すぎてダメだった。

 「万能鍵クラーヴィス」。それが俺に与えられた力の名前。突拍子もないモンだったが、覚えちまえば簡単に扱えた。

 刺した鍵をつまんで捻る動作をするだけで、ありとあらゆるものに「施錠」と「開錠」ができる。施錠したものはその場から動かせなくなって、開錠すれば動くって具合だ。

 一般的に鍵やロックと呼べるものなら無敵。南京錠だろうがキーカードだろうが、スマホのパスワードだって無視して開けられる。ある程度近くにあるものにしか使えないのが残念だ。


 だが、工業高校を卒業してから職にも就かないままその日暮らしをするくらいに頭の弱い俺だ、空き巣やスリなんかの軽犯罪くらいにしか活用の幅を見出だせそうになく。

 それでも嬉しかった。これがあれば、思いつきとやりようによってはこのクソみたいな人生を逆転できる。軽くなる俺の足取り、向かう先はとっくに決まっていた。

 浴衣姿の人々の後を追い、垂れ下がった提灯を一瞥する。今日はこの下町で縁日が開催されると聞いている。

 祭りだ。俺の祭りがこれから始まる。ろくにタコ焼きも買えない有り体にされるとは思いもせず、おめでたいニッコリ面晒しやがって。


「ぷっ、くくっ....」


 我ながら下卑た吹き出し笑いを手のひらで隠しながら、俺は人混みの出来ていく方へ早歩きした。

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