第10話 視点を変える1
春人は考えていた。あの証拠として出された映像が何なのかを。
シュッ、シュシュッ。
拳が空を切る音がする。VRでボクシングをしていた。春人は知っている。もやもやしていることがあると体を動かすのがいいことを。先ほどから負けっぱなしだが。
「あー、くそまた負けた。」
汗をかいたので、春人は風呂に入ることにした。足を伸ばせるここのお風呂は家よりも大きい。春人は湯船の心地よさに身を任せた。その時だ。閃いたのは。
春人は急いで風呂から上がり、もう一度タブレットの動画見た。そうだ。間違いない。
「タオさん!タオさん!!」
叫ぶとモニターが繋がった。
「何してるんですか!?」
タオは慌てて視線をそらした。その時に気づいた。春人は濡れたままの裸だったことに。
「すみません!」
慌てて春人は大事なところを隠して浴室に戻った。体を急いで拭いて、扉をそっと開く。
「タオさん。」
「なんですか!?」
「あ、まだ繋がってました?すみません、お見苦しいものを見せてしまいまして。」
「うるさい!」
「はい。申し訳ないです。」
そろそろと浴室から出てくる春人。バツが悪い。
「要件は!?」
「えーとですね、この動画なんですけれど。」
「まだ証拠が欲しいだの言うつもりですか!?」
「いえ、違うんです。最初は俺もこれ作った映像なのかなって疑ってたんですが、視点を変えてみたんです。」
「視点を?」
「そう。これ、おかしいんですよ。まるで俺がいるみたいなんです。そもそもこれ、テーブルにカメラ置いてるでしょう。おかしいじゃないですか。いろんなカメラがそりゃあるかもしれないけれど、わざわざこんなとこに置きます?」
「…。」
「それで思ったんですよ。これって、俺がいるんじゃないかと。誰かが俺の代わりに家で生活してるんじゃないかと。どうやって変装してるかわからないんですが、それならありうる。そう思ったんです。」
「…誰かが変装しているなんてありえません。」
そう言って、タオは映像を切った。切る直前小さく何か聞こえた。
「俺、結構頭いい~。」
多分、そういった。ひどくよく知る声で。春人には確かに聞こえた。
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