ヒロイン視点

第8話

●こわ~いヒロイン視点です●


チェルシーとサール王太子を婚約破棄させることに、成功したわ!

これでサール王太子と婚約できる。


ピンク色のフリル満点のドレスをつまみ、クリルと回転したいぐらい、嬉しくなった。

自慢のブロンド髪を、あのチェルシーがやるみたいに、肩からはらいたくなっている。


でもなかなか手強かった。

サール王太子が思いの他、私になびいてくれないから。

私への嫌がらせ程度では、チェルシーを嫌いにならないと思って、あれを用意して正解だったわ。


あれ。


レッドダイヤモンド。


とても希少性が高く、滅諦に採掘されない。ゆえに多くが模造宝石か偽物。でもチェルシーはそのレッドダイヤモンドのネックレスをつけていた。街で偶然出会った時に。


舞踏会じゃないのよ? たかが街で買い物だか食事するために、そんな希少性が高く、高価なものを身につけているはずがない。そう思って、どうせ偽物だろうと指摘したら「いいえ、これは本物のレッドダイヤモンドです」と言い切るからカチンと来たのよね。


「まあ、レッドダイヤモンドはとても希少なのに。こんな大ぶりのレッドダイヤモンドをお持ちなんて、さすがチェルシー伯爵令嬢ですわね。実は私、レッドダイヤモンドを探していましたの。新しいイヤリングを、レッドダイヤモンドで作りたくて」


ピンクダイヤモンドを唯一産出していた隣国の鉱山は、昨年、閉山された。つまり掘り尽くしてしまった。レッドダイヤモンドは、ピンクダイヤモンドの赤みが濃く発色したもの。つまりピンクダイヤモンドを唯一産出していた隣国の鉱山が閉山されたとなれば、もはや新たにレッドダイヤモンドが手に入ることはない。既に流通しているものが取引されるか、新たに鉱山が発見されない限り、新規入手はできない――ということは、サール王太子が教えてくれた。


現に、ここマーネ王国の首都の宝石店を見て回ったけれど、レッドダイヤモンドは販売されていなかった。レッドダイヤモンドの希少性の高さが分かっているので、今、それを手にしている者は手放すはずがない。家宝として代々受け継ぐはず。


私は男爵家の令嬢。レッドダイヤモンドなんて買うお金はない。でもレッドダイヤモンドは、お金の有無に関係なく、もう手に入らない。だから欲しいと嘘ぶいても問題なし。そう思ったら……。


「なるほど。ではそのレッドダイヤモンド、ご用立てしましょう。父上の商会で取引可能ですから。今、レッドダイヤモンドは普通のルートでは手に入りません。店頭に並ぶこともありませんから、なかなか手に入りませんよね。どのお店も、上客用に取り置きしているのです。上客からお屋敷に呼ばれた時、初めてお見せする。ですから入手が困難なのです」


チェルシーが澄ました顔でそう説明した時は、唾でも吐いてやりたくなっていた。


あなたはどうせ男爵家の令嬢。宝石店に行っても、相手にされない。上客なんかじゃない。だからレッドダイヤモンドを入手するルートも知らないのでしょう――チェルシーにそう言われていると感じた。


悔しい、悔しい、悔しい!


絶対に、この女から、サール王太子を奪ってやる。


あの時、そう心に誓い、私は笑顔でチェルシーに頼んだ。


「まあ、チェルシー伯爵令嬢、素敵なご提案ですわ! 再来月、殿下とオペラの観劇に行くの。ほら、チェルシー伯爵令嬢はその日、王太子妃教育の一環で、王太后様とお食事でしょう。殿下がお一人ではお寂しいって。そこへ付けて行こうと思っていますの。……間に合うかしら?」


「かしこまりました。ご手配します。……私が同行できず、ルナシスタ男爵令嬢に労をおかけし、申し訳ないです。殿下のこと、よろしくお願いいたします」


な、手配できるの!? 再来月よ? 半年後じゃないのよ!?


何よりも頭を深々下げるチェルシーを見て、驚きよりも頭に来た。


私がサール王太子の心を虜にするはずがない。この男爵令嬢程度にサール王太子がなびくはずがない。そう思っているのだわ、この伯爵令嬢は! 爵位が上だからって偉そうにして。ちょっと美人でスタイルがいいからってつけあがって。負けないわ、こんな女になんか!


少し大人なキスをしてやれば、あの初心なサール王太子は、レッドダイヤモンドを買うお金を出してくれる。


チェルシーは馬鹿よ。男なんてお堅い女じゃダメなの。適度のスキンシップをしてその気にさせないと。婚約者なのに、エスコートしか許さないなんて。自業自得よ、チェルシー。


あなたはゲームのシナリオ通りに、婚約破棄され、断罪されるの!

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