断罪終了後の悪役令嬢はもふもふを愛でる~ざまぁするつもりはないのですが~
猫好き。
第1話
「ほらっ、さっさと降りろ!」
乱暴に馬車から下ろされ、運悪く一人の令嬢は石に躓く。
ラベンダー色の美しいドレスを着ているのに、転んだ瞬間、繊細なレースはビリビリと破れてしまう。しかも膝まで擦りむいたようで、痛みで動けない間にも、彼女を下ろした馬車と兵士を乗せた馬は去っていく。
一人、森の手前に残されたのは、チェルシー・バークモンド。
バークモンド伯爵家のご令嬢である。
彼女は珍しい紫色の瞳の持ち主。そして小柄だが、メリハリが効いた体をしており、その髪は艶々ロング。しかもこれまたこの世界では珍しい、巻き髪ではなく、ストレートのホワイトブロンドなのだ。
そして彼女はただのご令嬢ではない。
乙女ゲーム『シュガータイムLove』の悪役令嬢なのである。
だがしかし!
彼女は日本人としてその乙女ゲームを楽しんでいた記憶が、覚醒していなかった。
このまま覚醒せずに終わるのかと思いきや!
伯爵令嬢としておとしやかに生きていれば、激痛体験とは限りなく無縁である。
だが今、彼女は乱暴な扱いを受け、大変痛い思いをした。
その結果。
まさかの断罪終了後に、前世の記憶が覚醒するのである。
そうまさにこの瞬間に。
「痛い……。なんでこんな目に遭わなければならないの? 悪役令嬢だからって、こんなの、ひど過ぎるわ」
ちょっ待って。悪役令嬢って何の事かしら?
「チェルシー、ようやく思い出したようだね。そう、君はボクを助け、乙女ゲーム『シュガータイムLove』の世界に転生してしまったんだ。ボクのこと、覚えている? クロだよ」
すぐそばにいるのは、チェルシーの飼い猫であり、名前はクロなどではない。大好きなロマンス小説に登場するアランという名前で……いや、クロ。
「クロ! あなた、あの突然天気が急変した時、うちの庭の木のそばで震えていた子猫よね? 数日前から見かけていたから、『クロ』って呼んで、鰹節をのせた猫まんまをあげていたわ……って、え、猫まんま!?」
「落ち着いて、チェルシー。君は突然起きた竜巻からボクを守ろうとしてくれた。家の中にいればよかったのに、庭へ飛び出して、ボクを助けようとしてくれたんだ。君がボクを抱き上げた時、トタン屋根が飛んできて、それは君の頭に直撃した」
クロの言葉に怪我などしていないはずなのに、後頭部が痛み、そしてクロの言う景色が脳裏に浮かんでいる。
「ボクを助け、君が天に召されるなんてひどすぎる。だからボクはもふもふの神様に祈った。彼女を助けてくださいって。そうしたら君のスウェットに入っていたスマホが突然輝いた。君はそのスマホで『シュガータイムLove』という乙女ゲームで遊んでいただろう? そのゲームの世界に君の魂は導かれたんだよ」
「つまりは……異世界ファンタジーへ転生した……わけね。どうしてクロまで一緒に?」
「それは……ボクが君のそばにいたいと願ったから、かな?」
「せっかく助けたのに……!」
するとクロは「えへへ」と笑う。
クロは長毛種と短毛種を両親に持つのだろう。
毛は全体的にもふもふなのに、手足はすらりと長い。
もふもふと言えば、可愛いにゃんこ。だがクロはもふもふなのに、キリッとしていた。
「待って。状況はなんとなく分かったわ。乙女ゲームの世界に転生しているということは。でもなぜ猫であるクロと会話できているのかしら? ゲームの世界観に多少のファンタジーはあったけど、まさかそのせいなのかしら!?」
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