第15話 失恋記念パーティー



 侯爵家本邸にたどり着いた私を迎えてくれたのは、祖父母でした。

 彼らは急な事態に大変驚いた後、もの凄く憤慨してくれました。


「ああ、キャリーすまない。彼がそんな人物だったなんて見抜けなかった……」

「いいのよ、お祖父様。それより、折角祝ってくれたのに、ごめんなさい」

「キャリーが気にすることじゃないわ! こんな時にまで私達に気を使わなくていいのよ」


 しっかりと抱きしめてくれる二人に、目頭が熱くなるのを感じながら、私は問いかけます。


「ねえ、チルチルは?」

「……」

「……」

「お祖父様、お祖母様」


 二人は顔を見合わせた後、侍女に命じて、私をチルチルのところに案内するよう促します。


 そうして辿り着いたのは、使用人部屋ではなく、夜会の会場としても使うことのある大広間でした。

 なんだか騒いでいるふうな声が聞こえますし、お酒の匂いがします……。


「旦那様も太っ腹だよなー、この会場を貸してくれるなんて」

「いや本当、使用人思いの良い主人だよ。ありがたい限りだぜ」

「このワインも差し入れてくれたんですよ、私達では手が出ないワインですよ」

「どうりでそのワインの近くから離れないと思った」

「ソムリエがワイン一人占めしてるんだけどぉー!」


 な、何なのかしら。

 使用人だけで、私の結婚祝いでもしているの?

 ここに本当に、チルチルがいるのかしら。


 そう思っている私の耳に、ある会話が飛び込んできます。


「チェレスティーロ、飲め飲め」

「なんだよ、結局何も言わずに振られるなんて、情けねーなぁ」

「小さい頃からなんだろ? もっと攻めてもよかったんじゃねーの」

「うっせーな、もう勘弁しろ」


 扉越しに聞こえた声に、私はなんだか早る気持ちを抑えられなくて、扉を思い切り開けてしまいました。


 音を立てて開いた扉に、そこに立っている、いるはずのない私に、大広間の皆の視線が突き刺さります。


 その会場には垂れ幕がしてあって、『失恋記念パーティー』と書いてありました。


 その垂れ幕の一番近くのテーブルに、青い髪の私の従者が突っ伏しているのが見えます。


「……あれ。お嬢?」


 お酒に酔って真っ赤な顔をしたチェレスティーロが、ぼんやりした目で私を見ながら首を傾げています。 


 私はすたすたとその近くまで寄っていき、隣の椅子に座りました。


 周りの使用人達もどんちゃん騒ぎを止めて、私達の様子を息を呑んで見守っています。


「……お嬢……あー、ごめん違ったね。若奥様、どうしてここにいるの?」

「……」

「旦那は?」

「振られたの」

「へ?」

「男色家なんですって。私を愛することはないそうよ」


 みるみるうちにチェレスティーロの目が見開かれて、その後困ったような顔をして、水を一杯飲み干しました。


「なんか、俺酔ってるのかも。若奥様が変なこと言ってる」

「だから、振られたの。結婚は無効よ」

「俺、夢みてんのかな」

「どうして近くにいてくれなかったの」

「……お嬢」

「なんで自分だけ楽しく飲んでるの? 私だって飲みたい気分なんだから、ちゃんと傍にいて、私もここに連れてきてくれないと困るでしょ!」


 肩を怒らせて怒っている私に、チェレスティーロは目を瞬くばかりで動きません。

 その反応にさらに苛立った私は、空のグラスを手に取り、周りの使用人達に向かって叫びました。



「お酒持ってきて! 今日は飲むわよ!」



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