第14話 生涯君を愛することはないって初夜で言うことかな?



「……はい?」


 私は唖然としながら、スッケスケのナイトドレスの上に羽織ったガウンの胸元をぎゅっと握りしめます。


 君を愛することはない?

 ど、どどどういうことですの?


「私は男色家なんだ。だから君を異性として愛することはない」

「……」

「君が欲しかったのは、侯爵家を保つための配偶者。私が欲しかったのは、女性を愛することができるという証明にもなる、結婚の事実。後継は養子をとればいいのだし、Win-Winの関係だろう?」

「……」

「幸いにも私のような美青年を婿に取ることができたんだ。モテない君の自尊心も満たされただろう。さあ、今日はもう疲れただろうから、早く眠りにつこうじゃないか」



「ふざけるんじゃありませんわー!!」



 ばっちーん!!



 私はスナップを利かせながら、渾身の力を込めてヒトデナシーに平手打ちをかまします。


 不意打ちだったからか、心の底からの怒りを込めたお陰か、運動音痴な私の渾身の平手打ちは、奴をベッドに沈ませることに成功しました。


「な、何をするんだ!」

「それは私の台詞です、何てことをしてくれたんです!」

「何って、君は今日、優秀なビジネスパートナーを手に入れただろう!」

「ビジネスパートナーなら貴方でなくともいくらでもいます! 私が欲しかったのは、生涯の伴侶となる夫です。相手の要望を正確に捉えられないなんて、そもそもビジネスパートナー失格ですわ!!」


 お人形みたいな見た目の私がこんなに怒ると思っていなかったのか、ヒトデナシーは目を白黒させています。


 私はそんな彼を見ながら、手を叩きます。


「見届け人、来なさい!」

「はい!」


 返事と共に現れたのは、侍女2人、侍従2人、公証人1人からなる結婚見届け人です。


「は、はぁ!? 見届け?」


 隣国出身のヒトデナシーは知らなかったようですね。

 この国では、婚姻の際、初夜が行われたかどうか見届け人が証明して、初めて婚姻が認められるのです。


 相続税対策の白い結婚防止の措置で、この近隣国ではいくつか取り入れている国がありますが、ヒトデナシーの国にはない風習のようですわね。


 大体が最初の数分で立ち去る形骸化しつつある制度ですが、無知な男女が白い結婚をしようとした場合、即日婚姻無効を認める効果があります。


「初夜を見届けるだと!? なんだ、その破廉恥な制度は!」

「お陰で私は助かりましたわ」

「なっ……ま、待て、キャリー。私が悪かった。今からでも、その……」

「遠慮いたしますわ」


 私に追い縋るヒトデナシーを避けるように、私は寝台から降りて、侍女の背後に身を隠します。


「ここまでの会話は公証人によって全て録音されていますから。白い結婚では済ませません。貴方を結婚詐欺で訴えます!」

「ちょ、ちょっと待て! そんなこと許さないぞ!」

「許さないのはご勝手にどうぞ」


 私に掴みかかろうとするヒトデナシーを、侍従達が引き留めます。

 その間に、私は侍女と公証人と共に部屋を退出しました。


 別室で簡単な服に着替えをした私は、急ぎ馬車に乗り込みます。

 白い結婚による婚姻無効を主張するために、早くこの新婚夫婦の新居である侯爵家別邸を立ち去らねばなりません。


 馬車に乗り込んだ私は、ふとあることに気がついて、侍女に尋ねました。


「ねえ、チルチルは? 一緒に来てくれないの?」


 チルチルは私付きの侍従なので、一緒に新居に来ているはずです。


「チェレスティーロは今夜は本邸にいます」

「えっ、何で?」

「それは本人からお聞きください。急ぎましょう」



 こうして私は、モヤモヤした気持ちを抱えながら、ギセイシャー侯爵家の本邸にたどり着いたのです。




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