侑希には三分以内にやらなければならないことがあった

三愛紫月

ちょっと待て!マジなのか

侑希には三分以内でやらなければならない事があった。

というか、出来てしまったのだ。


朝目覚めて、パンツ一枚でベランダに行く。

煙草に火をつけながら、昨夜の余韻に浸っていた。


「さ、小夜子さよこ?」


明日の夜に帰宅すると言っていた妻の小夜子が、何故かマンションのエントランスに向かって歩いて行くのが見える。

そこから、15階にある我が家まで早ければ三分でたどり着いてしまうではないか!!


ヤバイ!これは、非常にヤバイ。

俺は、煙草を灰皿に押し当てると慌てて寝室に飛び込んだ。


寝室のベッドには、昨夜のお相手の紗奈さなが横になっている。


「紗奈、紗奈、起きてくれよ」

「うーーん、何?またしたいの?」

「なわけないだろ!小夜子が帰ってきたんだよ」

「えっ?嘘!明日でしょ?」

「何かわかんないけど、今エントランス入っていったんだよ」

「えっ、ヤバイじゃん。起きる」

「そうしてくれ」


紗奈が起きて、服を来てくれてる間に俺は床に散らばった自分の服を慌てて纏める。

パジャマ、パジャマ。

パジャマを着て、寝ていないと不自然だ。

ダッシュで、洗面所に行って洗濯かごに服を入れてからパジャマを取り出して着る。


よしよし。

これで大丈夫だ!


慌てて部屋に戻ると、昨夜の食べた物達を片付けなければならない。

出していたワイングラスは、2つ。

1人なのに2つはおかしい。

俺は、スプレー式の洗剤をグラスに吹き掛けてとりあえず放置する。


「じゃあ、私。帰るね」

「ああ!また、連絡する」

「はいはーーい」


紗奈は、すぐに部屋を後にしてくれて助かった。

前の浮気相手は、ベランダにいて小夜子にバレた。

その前は、風呂場にいて小夜子にバレた。


俺は、ごみ袋を広げてテーブルの物を全部ごみ袋に入れる。

分別なんかやってられるか!

そんな事してる間に、小夜子が帰ってきてしまう。


ワイングラスを慌てて洗って、乾かして置く。

寝室に戻って小さなゴミ箱に昨夜の物達を放り込む。

このゴミはどうする?

とりあえず、くくってベッドの下だな。

マンションのごみ置き場は24時間捨てられる。

だから、いつも証拠はすぐに捨てられた。

なのに、今日は今日に限っては捨てれない。


ワイングラスの元に戻るとすぐに1つを棚にしまう。

コロコロだ!

コロコロがいる。


急いで、コロコロを取り出して。

慌ててコロコロする。

寝室に戻って、コロコロする。

幸い。

紗奈と小夜子は、今同じ長さの髪の毛なので助かった。

DNA鑑定されない限り、大丈夫だろ。


ガチャガチャ……。

玄関の鍵が開く音がする。

3分ってあっとゆう間だ。

俺は、コロコロをはがしてゴミ箱に捨てるとクローゼットの中に入れる。


侑希ゆうき……ただいま」


小夜子の声がするから、慌てて布団に潜り込む。

ヤバイ。

もう、消臭剤を振り撒く時間すらない。


「侑希、ただいま」


俺は、寝たふりをする。


「まだ寝てるの?じゃあ、布団めくっちゃうよ」


布団……捲る。

んっ?何かが足元に当たる。

ヤバイ。

これは、紗奈の忘れ物の何かだ。

寝返りを打つふりをしながら、何かをポケットに入れた。


ガバッ……。


「さ、寒いなーー」

「おはよう。侑希」

「あれーー。小夜子、明日の夜じゃなかった?」

「仕事が急に早く終わったからサプライズで帰ってきたの」

「ええ。そうなんだ」

「あれ、寒いのに……。すごい、汗かいたんだね」

「えっ?あっ、暑かったのかな?」

「何かポケットから出てるよ!」

「えっ?」

「ハンカチ……」


ピンポーン……。


「誰だろう?こんな時間に、ちょっと出てくるね」


ふぅーー。

助かった。

俺は、慌ててポケットからそれを取り出す。


パ、パンツじゃねーかよ。

とにかく、ベッド下に投げ捨てて置いた。

ふぅーー。

これで、大丈夫だ。


「8時だから、宅急便だって」

「へ、へぇーー」

「何の荷物?」

「侑希宛だよ。開けていいの?」

「いいよ、いいよ」


ベリベリと小夜子が荷物を開けている。

俺、何か頼んだっけ?

あっ、ヤバイ。

最悪だ。

慌てて起き上がった俺の目に飛び込んできたのは、ソレを持つ小夜子だった。


「侑希。私、こんなセクシーな下着はかないよ」

「さ、サプラーーイズ」


俺は、苦笑いして小夜子に言う。


「それなら、履いてみようかな」

「あ、ああ。そうしてくれ」


一週間の長期出張に小夜子が行くと話していたから、紗奈の為に買ったセクシーで高級なランジェリー。

今日の夜中の12時に紗奈への誕生日プレゼントにあげるはずだった。


「でも、布が薄いよね。やっぱり、侑希はこういうのが好きだったの?」

「ま、まぁ。小夜子が、帰ってきた時の為のサプライズだったんだ。ハハハ」


奮発して10万もする高級ランジェリーは、20代の紗奈の張りのある身体にピッタリだと思ったのに……。

まさか、40代の小夜子にあげる事になるとは……。


「サイズは、問題なくてよかった」

「そ、そっかそっか。それは、よかった」


何もよくない。

やはり、三分では出来ない事もあるんだな。


「ボタン、チグハグだよ。侑希」

「あっ、本当だ」

「もう、さっき慌てて着たみたいだよ」

「えっ?なわけないよ」

「だよねーー。侑希は、もう浮気はしないもんね」

「そ、そうだよ」


小夜子に何かを見透かされている気がしていた。

もしかして……。

と思いながらも、俺は小夜子を抱き締めていた。

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