初回配信



 その日、世界に衝撃が走った。


「やあ、初めまして。愛すべきこの世界に生きる生命体どもよ。

 我は暗黒閃光魔大王終焉フィニスである。

 おっと、失敬失敬、最初の挨拶を忘れていた。

 こほん。

 こーんしゅこんしゅーちゃん!

 さてこのチャンネルは我、暗黒閃光魔大王終焉フィニスによる、知的生命体どもへのお言葉を告げる場となる予定だ。気軽にしゅーちゃんと呼ぶがよい。

 現段階ではまだ我しかチャンネル解説に至ってはいないが、まあそのうち文明が追いつき同じことを始める者もいよう。しかし、忘れるでないぞ。最初の配信者は我である。これは大事なことであるのでな。ようよう心に刻んでおくように。

 さて、最初の配信ということで軽く自己紹介をしてゆこう。

 我はこの世界に終焉をもたらすもの。本来ならば生命体どもと言葉を交わす機会もないのだが、皆も知っての通り先日この世界より管理者が撤退した。

 故に我も職務に励む理由もなくなったのでな、積極的に世界を終わらせる理由もなし、こうして配信者としてデビューするに至ったという訳だ。

 ......うむ、ここまで語ってもコメントがゼロとはどういうことだ。見えているよな? うん、繋がってる気配はあるぞ。むむ、コメントの仕方が分からぬのか。仕方ない、我が直々に説明してやろう。

 この画面に魔力を繋げると、ほれ、ほれ、見えるであろう? そこに思考伝達で入力すればよい。

 ぬう、ここまで言っても分からんとは、ふむ、仕方ない。そのうち慣れるであろう。最初の不手際は寛大な心で許してやるとするか。

 本来ならここで殺到する質問に答えてやるつもりだったが、どうするかの。予定が崩れてしまった。

 うーん、うーん、おっ、そうじゃそうじゃ!

 やはり配信といえばこれじゃろう。メントスコーラ!

 しかしこの世界にはまだメントスもコーラもないのでな。変わりと言ってはなんじゃが、ほれ、見えるか。

 これこれ、そう、海じゃの。そこにこの魔力のかたまりを、ほうれ、どーん。

 おうおう、噴き上がった噴き上がった! よしよし!

 おのれら生命体どもは、こういうのが好きなんじゃろ? 何が面白いのかはよく分からんが、皆喜んでいたのでな。どうじゃ、お主らも嬉しいじゃろ。

 ああ、安心するがよい。この海の付近は生命体が一切存在せぬ故にな、これだけ豪快に噴き上がっても問題はない。おお、お主らが死の海域と呼ぶ場所の、ちょうど真ん中辺りじゃな。

 うむ、炎上対策はばっちりじゃ、心配するでない。

 ちなみに我がおるのはこの死の海域の中にある陸の真ん中じゃ。お主ら生命体どもの大半はこの大陸を認知はしておらんようだが、ヴェストリア大陸とほぼ同じ大きさはあるぞ。この大陸に住む生命体どもも外のことは知らんようだの。この配信を通じて互いの理解が深まってゆけばよい。

 ああ、言い忘れておった。この配信は生命体どもに届けておるがさすがに全て、という訳ではない。一定以上の知恵がある生命体だ。知恵のないものどもにも理解させるように底上げすることも出来ぬ訳ではないが、さすがにそこまでしてしまえば既存の生態系が大きく塗り替わってしまうのでな。そこまで影響を与えるのは良くないと判断した故。

 しかし今の我のアバターは人族向けであることは確か。そのうち余裕が出来ればサブチャンネルを開設して人族以外に向けた配信をしても良いかもしれぬ。まあ、それはおいおい。

 おっ、初コメントが来たぞ! 栄えある初コメントはスレイアナ大陸の四足獣じゃの。プライバシーに考慮して種族名を公表することは差し控えるぞ。うむ、なになに、『こわい』じゃと。うぬぬ、何か怖いことがあるのか? なに、我が怖いというのか? 何が怖いのだ? 我は生命体どもに怖いことをするつもりはないのだが。

 むう、まあ魔力で相手の力量を判別するタイプの種族であれば我に恐怖を覚えるのも致し方なし、か。そこは気づかぬ点であったわ、今後改善策を考えてゆくとするか。

 ふむ、コメントはいくつか来始めているがあまり内容が変わらぬの。次回からはこちらからの魔力を感じとりにくいようにする故、許せ。

 しかし人族からのコメントはまだじゃの。獣族の方が魔力の扱いには長けているということか。いやもしや遠慮しているのか? あまりにひどい内容であればブロックするが遠慮せずにどしどし送ってくるがよいぞ。我は全ての生命体に友好的な存在であるからの。

 さて、予定していた内容とは多少変わってしまったが、初回の配信ということでこれぐらいでそろそろ切り上げるか。

 この配信はアーカイブとして全生命体がアクセス出来る世界の記録に保存してある故、見返したくなった場合は各々で好きな時に見るがよい。方法は簡単じゃ、適当な魔溜まりから魔力を繋げればアクセス出来る筈じゃ。ああ、安心していい。世界の記録に繋ぐことは出来るが、管理権限が必要な場所は覗けないようにきちんと対処しておる。繋いだ瞬間に膨大な記録が逆流して生命体どもが受け入れることの出来る情報量を上回る、なんて事故は万が一にも起こらんからな。繋がるのはこの配信の記録だけじゃ。コメントは後からでも書き込めるからの。遠慮してた生命体どもは、どんどん書き込むとよいぞ。

 では、次の配信を楽しみにして待っているがよい。出来る限り毎日配信してゆくつもり故、期待して待っておれ。ではな」


 存在するありとあらゆる国、街、森、平原、生きとし生ける者が存在する全ての場所、その上空に突如として現れた、年の頃おおよそ12歳ほどの少女の形をした何かが、一方的に告げたそれ。


 ある者はその少女の、人間離れした美しさに恐怖を覚えた。

 ある獣はその少女の、途方もない魔力の大きさに尻尾を垂れた。

 ある者はその少女の、語る内容の途方もなさに震えあがった。

 ある獣はその少女に、果敢にも挑みかかったが幻影故に何の影響も与えられず恐慌状態に陥った。

 ある者はその少女に、必死で交渉を試みたが魔力を介さぬただの言葉は一つも伝わらなかった。

 ある獣はその少女に、コメントとやらを送ったせいでよりそれが発する魔力の大きさを理解して昏倒した。

 ある者は、ある獣は、ある者は、ある者は、ある者は、ある者は。


 かくして。

 終焉をもたらすもの、あらため暗黒閃光魔大王終焉フィニスの初回配信は、本人の思惑とは裏腹に世界にある一定以上の知恵ある生命体に等しく恐怖を与えることに大成功した。

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